28 ケース2【電脳少女】後編
──紹介して貰った団子ちゃんの仲間も、みんな良い人達だった。
たびたび動画にも出ていた妹さんやら友人らVtuberさん達。
彼らは『自分達の住むこの仮想世界』について説明してくれた。
・ 自分達は現実世界のイラストレーターさんに生み出された存在
・ 自分達は視聴者さんからの投げ銭システムで暮らしている
・ 他のVtuber(別事務所)達も別の場所に居る
とのこと。
僕はホッとした。
Vtuberに『中の人』が居るだなんてやっぱり嘘だったんだ。
Vtuberという存在はAIなり別世界の尊い存在で。
度々『色恋沙汰』やら『給料』やら『事務所との確執』等で炎上しているような『自称Vtuber』は、Vtuberを騙る偽物だった。
──今度は、仲間達も交えた日々。
団子ちゃんとの二人だけの時間も最高だったが、こちらも甲乙つけ難く。
嫌な人間の居ない優しい世界。
ふと、この現象は、現実世界のボクの意識だけをこちらに持って来ているのか、体ごとなのか……場合によっては衰弱死の危険など、疑問に思わないでも無かったが……
いつまでもここで暮らせるなら、現実のボクなどどうでもいいと、心の底から思っていて。
……けれど、幸せは永くは続かなかった。
「た、大変ですっ! この世界が!」
笑顔が絶えない団子ちゃんが見せたその悲壮な顔は、物事の深刻さを一瞬で理解させた。
──聞くに、突然、世界が『端っこから綻び始めた』との事。
原因は不明。
つまり、対処方法も不明。
「……最悪、みんな世界と一緒に消える、でしょうね」
「そんな!」
この優しい世界が消えるだなんて!
何故みんな、そっとしておいてくれないんだ!
ボクは走り出す。
その綻びの所に向かって、何とか止める手段を模索しようと。
「あ……ああ……」
しかし、実際に『崩壊』の場を目にしたら、絶望が深まっただけだった。
草木や花が優しく揺れる青々とした美しい世界が……まるでデータが消えるようにサラサラと崩れていく。
無力なボクにはもう、どうにも出来ない。
……ならば、取るべき行動は一つ。
いや、言い方に語弊があった。
ボクの望む結末は一つ。
「ここに残るよ、ボク」
「え? で、でも! それって!」
「うん。ボクも消えるだろうね。けれど、いいんだ。残らせてくれ」
「帝さん……」
団子ちゃんは涙を流す。
彼女を悲しませるつもりなんてなかったのに。
けれど、最後まで我儘なボクを許して欲しい。
「……ありがとうございます、帝さん。……アレ? そこ……空間に亀裂がありますね?」
「え? あ、そうだね」
「えいっ」
エ。
後ろから、トンッと押し出されたボク。
その勢いのままに、ボクの体は、その亀裂へと吸い込まれていって……
「──ん」
あ、れ?
……、……自分の部屋?
ボクは、寝てたのか?
何か……長い夢を……、……いや!
夢じゃない!
パソコンに顔を向ける。
カチカチッ!
くそ! どうして電源が付かないんだ!
そうだスマホ!
彼女と外に出ても一緒に居られるよう専用のアプリをボクが作ったんだ!
これなら……!
アプリをタップする。
起動はするが、真っ暗な画面。
……しかし、ザザザッというノイズは僅かに感じられて。
「団子ちゃん! そこに居るの!?」
『……よかった。戻れたんですね、帝くん』
「団子ちゃん!」
姿は見えないが、画面の奥に彼女がいるのを感じる。
どうしてボクを!? という言葉を寸前で飲み込んだ。
優しい彼女なら、いかにも取りそうな行動だったから。
『楽しかったです、貴方との時間は』
『お話ししたり、外に遊びに行ったり、こちらの世界でワイワイしたり』
『知ってたんです。団子は幻だって。貴方の夢の中にだけいる幻』
『けれど。その時だけは、団子も、ただの、一人の女になれました』
やめて! そんな最後みたいな言葉!
……けれど、ボクはその言葉も飲み込む。
彼女を心配させたくないから。
覚悟を、鈍らせたくないから。
「ボ、ボクも楽しかったよ……ボクは、君のお陰で変われたんだ」
『ありがとうございます。そう言って貰えたら、もう後悔はありません』
ああ……このまま終わってしまうか?
このままでいいのか?
ボクには何も出来ないのか?
『さようならーー』
ボクに出来るのは、祈る事だけ。
「神様、どうか……!」
「(ガチャ)はーい、神様ですよー」
────え?
「あ、大丈夫、ちゃんのおうちの人に許可は取ってるから。んー、しかし、いかにもなオタ部屋だねぇ。同じ子のポスターがビッシリ」
「いきなり入って来た神を名乗る奴に大丈夫とか言われても信用出来るわけ無いでしょ。オタなのもディスってて印象最悪よ」
「こ、これが、例の月見団子さんですか……」
ゾロゾロと部屋に入って来た集団。
と、いうか。
「き、君は……例の転入生!?」
ボクの初恋の相手こと晶子さんを手籠にした美少年。
そんな人が何故ウチに!?
「何の話だろ。ベリー、解る?」
「解るでしょ今ので。この男、ウチの高校の生徒なんじゃないの」
「き、記憶にありませんね……まぁ、知朱様と薄縁様以外の生徒は皆同じ顔にしか見えませんが」
「え? 僕らまだあの学校通ってんの? もう行かないって言ってなかった?」
「た、確かに……!」
「なんで昨日今日の事忘れてんのよ。経過観察でしばらく通うって話だったでしょ」
ボ、ボクなんてそっちのけで……い、いや、今はそんな事どうでもいい。
「よ、用件はわからないけど、すまないが後にしてくれないか! ボクはそれどころじゃ……!」
「ほぉん。そこのパソコンの中の子、『助けられる』って言っても?」
「な──なんだって!?」
団子ちゃん、助けられる?
「ど、どうやって!」
「そんな興奮すんなよ、近い近い。しっかし君、『凄い能力』持ったねぇ」
「 か、『架空の存在に自我と力を与える能力』……『架空の世界を意のままに操れる能力』……『現実世界に架空の世界を侵食させる能力』……どれかですかね」
「どちらにしろ気持ち悪い能力ね。本人の認識によっちゃいずれは現実世界も好き勝手出来てたかと怖気が走るわ」
「僕みたいな聖人が持つべき能力だなっ」
「た、確かにっ」
「そうなったらこの世の地獄ね」
「えっと……それで、肝心の、彼女を助ける方法は?」
「ん? ああ、そうだったね。カモン! 【操(みさお)】!」
「もぉー、ずっと廊下でスタンバッてましたよー」
ひょっこり、顔を出したのはおっとりした少女。
少女は傍に何かを抱えていて……こ、これは、『リアルサイズな団子ちゃん人形』!?
「彼女は人形師でね。能力もその職業に見合った『道化(マリオネット)』となっている。全て、彼女が上手くやってくれるよ。後はお願いね、操」
少女に託し、さっさと部屋を出て行く転入生達。
その去り際、
「しっかし、リアルのVtuber月見団子が色恋沙汰の不祥事を起こしてクビに、か」
「そ、その影響でチームは解散し、流れ弾で彼の作った世界は崩れ始めた……という事ですかね?」
「投げ銭してたような普通の信者は悲惨ね。ま、そう考えると、理想のキャラや世界を作れたコイツは幸せ者よ」
「にしても……前の幽霊少女しかり、一定の時間経過で均衡が崩れる展開多いな?」
「た、確かに……」
「あの肉塊の力が弱まっただけでしょ。さっき回収した時も萎んでたし」
……何の話だろう?
「まったくー、あの子達は好き勝手言ってー。『人数分の人形作った』私を労ってよー」
操と呼ばれた少女は、こちらを見て、
「君は運がイイよー。いや、悪いのかもしれないけどー……兎に角。『願いは叶う』んだからー」
言って、少女は笑った。
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