第28話 真実が明らかになった~ノア視点~

「何を言っているの、ノア!言いがかりも大概にしなさい!そこまで言うなら、もちろん証拠はあるのよね。いいわ、あなたの話を聞いてあげる。でも、もしきちんとした証拠を示せないなら、あなたにはそれなりの罰を受けてもらいますからね」


「いいですよ。もし僕が証拠を提示できなければ、王妃とモリージョ公爵の好きなように処罰して頂いて構いません」


「ノア!」


「大丈夫ですよ、父上。僕はもう、父上に守られるだけの弱い人間じゃない。ここにいるステファニーのお陰で、強くなったんだ」


父上を安心させる様に、はっきりと告げた。そして、真っすぐ王妃たちの方を向き直す。隣にはステファニーがずっと僕の手を握っている。この手の温もりがある限り、僕は絶対に負けない!


「ステファニー、鏡は持って来たかい?」


「はい、もちろんです」


ステファニーから鏡を受け取った。


「これは海の神、ポセイドンから預かった真実の鏡です。昨日、僕とステファニーは、海の底にいるポセイドンに会いに行きました。そして、この鏡を預かると共に、3日以内に決着を付けると約束をしたのです。今からこの鏡を使って、真実をお見せします」


鏡を皆に見える様に向け、心の中で念じる。次々と浮かび上がる王妃やモリージョ公爵の悪事。もちろん、僕を殺害しようとした場面や、その時の会話。さらに父上の毒殺を指示し、実際に毒を入れるメイドの姿なども映し出されていく。


他にも、モリージョ公爵と王妃が密会している映像なども流れた。


「止めて!こんなのは嘘よ。いい加減な映像を流さないでちょうだい。そもそも、ポセイドンは海の底にいるのでしょう?どうやって会いに行ったのよ。海の底に着く前に、人間は死んでしまうわ」


王妃がギャーギャー騒いでいる。確かにポセイドンから貰った鏡と言われても説得力がないだろう。でも、エディソン伯爵家が人魚の血を引くなんて事、僕の口から話していいのだろうか…そう悩んでいる時だった。


「その件は、私から話しをさせていただきましょう」


現れたのは、エディソン伯爵だ。解放された足で、広間まで来てくれた様だ。ステファニーもホッとした表情を浮かべている。


「我が伯爵家は、人魚の血を引いております。その為、私達エディソン伯爵家の直系の人間は、海の生き物と話しが出来たり、海の中でも呼吸が出来るのです。おそらくステファニーが、ポセイドンに会いに行ったのでしょう」


「もう一つ付け足させて頂くと、人魚の血を引く私たちが口付けをする事で、生粋の人間にも期限付きではありますが、私たちの力を分けてあげる事が出来るのです。だからノア様も一緒に、ポセイドンに会いに行きましたわ」


伯爵の説明の後に、得意げに話すステファニー。


「おいステファニー、いつの間に殿下と口付けをする仲になったんだ!」


すかさず伯爵に突っ込まれたステファニーは、自分が言った事の意味をやっと理解できたようで、真っ赤な顔をして俯いてしまった。ここは伯爵にしっかり説明しておかないと。


「伯爵、僕達は真剣に愛し合っています。いずれ結婚しようと考えております。ただ、今は真実を明らかにする事が先ですので」


とりあえず全てが終わってから、伯爵や父上には僕達の事を話そう。そう思ったのだ。


「状況は分かった。この鏡では、モリージョ公爵の屋敷と王妃の部屋のクローゼットの中に毒が隠されている様だ。早速探せ!」


父上の指示で家臣たちが一斉に出て行った。王妃やモリージョ公爵が必死に止めようとしているが、もちろん止められる訳がない。しばらく待っていると、王妃の部屋から父上に盛られた毒が出て来た。これでもう言い逃れは出来ないだろう。


さらに王妃やモリージョ公爵の指示に従っていた使用人や貴族たちも、次々に広間に集められた。その中の1人に、僕は近づく。


「ばあや、僕を殺そうとしていたのは、ばあやだったんだね…」


そう、僕が父上と同じく家族の様に慕っていたばあやは、実は王妃のスパイだったのだ。


「申し訳ございません、殿下。我が実家、男爵家はモリージョ公爵家から資金援助を受けていた為、どうしてもモリージョ公爵の頼みを断る事が出来なかったのです。あなた様の母君を海に落とし、殺害したのも私です。本当に申し訳ございませんでした。全て…全て私が悪いのです。お嬢様(ノアの母)、本当にごめんなさい…ワーーー」


床に伏せ泣き出したばあや。ばあやの涙を見たら、胸が締め付けられそうになった。そんな僕の手を強く握るステファニー。きっとステファニーがいなければ、僕はこの現実を受けとめる事が出来なかっただろう。まさか母上を殺したのも、ばあやだったなんて…


「お前がメーアを殺したのか…お前が…」


ポロポロと涙を流す父上。その姿を見て、僕の瞳からもポロポロと涙が流れた。きっとばあやの極刑は免れないだろう。元王妃を殺し、第一王子でもある僕にも手をかけたのだ。


もし僕がポセイドンから真実の鏡を受け取らなければ、もし僕が罪を暴かなければ、ばあやはきっとこれらかも普通に生きていられただろう。今なら分かる、時に残酷な現実に向き合わないといけない場合もあると言った、ポセイドンの言葉の意味を…


それでも僕は、ばあやの罪を暴く道を選んだ。もちろん、今後この決断を後悔するかもしれない。それでも僕は、前を向いて進まないといけないんだ。たった1人で僕の為に戦っていた父上の為にも、僕の為にも。


しばらくして、モリージョ公爵家からも父上と僕に使われた毒と全く同じものが発見された。さらに、僕と父上暗殺計画の書類も見つかったとの知らせが入った。


「王妃並びにモリージョ公爵、さらに事件に関わった者達を地下牢に連れていけ」


「待ってあなた、これは誤解よ。私を信じて」


そう叫ぶ王妃。もちろん、そんな事が通用する訳はない。王妃やモリージョ公爵、さらにばあやも連行されていく。ずっと僕の側で、時には厳しく、時には優しく接してくれたばあや。その小さな後姿を見た時、再び涙が込み上げ、声を殺して泣いた。

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