第6話

教室へと向かう。

安全な場所を探す為に、教室の中に入る。

朝っぱらの時間帯、部屋の中に居る方が危険だと言う事は承知。

だからこそ、教室か屋上、保健室で待機するのが今の所の安全圏だった。

出来る事ならば逃げ出したい。

しかし、覡祁は超常の力を操る者。

不用意に許可なく外出する事が出来ず。

もしそれをしてしまえば、組織からの脱退と見做される。

そうなれば、覡祁の敵として認識されて、生涯追われる身になる。

繰り返しの呪いを受けた十束切久は、既にその様な運命を体験している。

発狂しかけて、何度も逃げ出した。

一か月二か月は平穏無事な生活を送れた。

しかし三か月目以降は地獄を見る事になる。

特に、九月から十一月の何れかに訪れる事件に巻き込まれる可能性があった。

だから、学園内での生活が、比較的安全ではあったのだ。


尤も、学生である彼女たちと出会う可能性が高くなるが。


「(呪いたい…過去の自分を)」


十束切久はそう思った。

既に好感度の高い彼女たちは、十束切久が交友した事で生まれた。

最初の頃は、十束切久も純粋な人間だった。

誰かに好かれたい。

あわよくば恋人関係になりたい。

青春を感じる様な言動をしたものだ。


その行動が、彼女たちの心に響いてしまった。

結果、十束切久に恋慕を抱く者が増えてしまった。

そして、その状態で繰り返しの呪いを得てしまったのだ。

既に、詰みにすらなっている状況と言っても過言ではない。


「(あぁ…胃が痛む。今回は、何月まで生きられるんだろうか…)」


十束切久は溜息を吐いた。

自分がどれほど長く生きられるかを考えている。

それは最早、一年間生き続ける事は無理だと理解していた。


「あ、十束ちゃん」


びくり、と体を震わせた。

後ろを振り向くと、カーディガンを羽織り、教科書を手に持つ女性が居た。

この学園の数少ない教師である六村景だった。

教師と言っても、この学園の卒業生だ。

卒業と同時に教師職に就いた特別教師である。

教員免許はこの学園のみ有効で、主に学業を担当している。

カーブした髪の毛。

脱色して鮮やかなクリーム色の髪をする彼女の見た目は、何処か猫を連想させた。


「授業受けに来てくれたの?お姉ちゃん、嬉しいなぁ」


ニコニコと笑みを浮かべてくれる。

十束切久はまったくもって笑う事など出来なかった。


何故ならば、十束切久は彼女にも殺された事がある。

だから、殺された事に対してトラウマを持っていた。


「どうしたの?十束ちゃん、ほら、みっちり、勉強を教えてあげるから、ね?」


頬を赤く染めて、十束切久の方へ手招きをする。

十束切久は首を左右に振りたい一心だった。

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