第4話

涼川愛姫が落下しながら付いて来る。

校舎へと突入しようとする十束切久。

寸前、グラウンドから此方へと迫って来る影があった。


「センパーイ!センパイセンパイ!!」


それは大型犬。

いや、背の高い女性だった。

運動部に所属しているのか。

彼女の格好は体育会系だ。

銀に近い灰色のジャージ。

下はスパッツで、膝にはサポーターを付けている。

運動に邪魔な髪は首元辺りで綺麗に整っている。

先輩と呼び、十束切久を親しんでいる彼女。

雪代ゆくしろくるみと言う。

学年は一年生。

十束切久の一つ下である為に、彼を先輩と呼んでいる。


「センパイっ!」


両手を広げて、十束切久にタックルする。


「ぐぇッ!!」


十束切久は奇怪な声を漏らしながら地面に倒れる。

タックルして、彼女、雪代が十束切久のシャツに顔を埋めて深く呼吸をしていた。


「センパイ、良い匂いっすね、あたし、先輩の匂い、大好きっす」


すぅすぅ、と彼から離さない様に強く抱き締める雪代。

唐傘によって宙を浮いていた涼川が近づく。


「ふとどきもの」


半ば押し倒したかの様な雪代に向けて、閉じた唐傘で彼女の背中を叩く。

寸前、雪代包は十束切久を抱いたままその場から離れた。

類稀な運動神経を持つ彼女の速度は、並みの人間ではそう簡単に捉え切れるものでは無かった。


「…よほど、躾の悪い駄犬が一匹。飼い主に欲情するなんて…」


「なんすか?雪代センパイ、あたし、今はセンパイの匂いを嗅いでるっすから、邪魔しないで欲しいっすけど」


十束切久の意志は何処にもない。

二人が勝手に火花を散らして、今にでも争奪戦が始まりそうな雰囲気だった。


「(あぁ…なんだっけな、こういうときは…)」


十束切久は頭の中で対処法を思い浮かばせる。

『雪代包が自分を抱いて来た場合』

『彼女が満足するまで離してくれません(三十分から一時間)』

『なので、彼女の弱点を突きましょう』


と言う結論に至る。

早速、十束切久は雪代包に向けて弱点を喋る。


「おい、雪代…胸が当たってるぞ」


一瞬、キョトンとしていた雪代包は、ゆっくりと手を離した。

そして自らの豊満な胸元を両手で隠すと。


「あ、はい…ご、ごめんなさい」


恥ずかしそうに、謝罪の言葉を口にした。


「気にするな、俺は気にしてない…じゃあな」


そう言って、十束切久は二人を残して校舎の中へと入っていく。


「あ、十束さま…はぁ、駄犬のせいで」


「…はぁ?何言ってんすか、あんた」


両者が睨み合っていた。

今にでも戦闘が始まりそうな程に、殺意がバチバチと稲妻の様に放っている。

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