【魔界遺産】再生神話(2)【レグ×プラ】

 女王蜂という生き物は、存在感が圧倒的に他と異なる。同じ血統の中から、同じ程度の個体値『普通』が、たまたま特別な場所に生まれて特別なご馳走を与えられただけで。本当は他と変わらないはずだったのに、まったくの別物に君臨した顕著な例だ。


 多くの他者社会を担う。運命の歪み。担ぎ上げられたハリボテの王。


 わかるよ。キミもソウダロ。



「ほんとどうかしてる! 二人は実際に太陽に灼かれた経験がないからこのおそろしさがわからないだろうけど! 太陽王の頂点ともいえるゴルダに、ぜったい、これ以上、1ミリだって近付きたくない!」


 経験者ヴァインは全身の毛が逆立って大変な有様だ。本能的にゴルダに近付いていってることを察知しているからだ。ゴルダレーダーだ。しかし残念なことにゴルダに近付くことをやめれば、かわりに小さな太陽に灼かれるのだ。こっちは確実に無慈悲にヤキをいれてくる。痛みを知らないコドモだからだ。問答無用だ。


「お前も大概不憫な奴だよな」

「自分は関係ないみたいな余裕でかますのヤメロよ。わかってんのか。ゴルダにやられるのも、師匠にやられるのも、どのみち詰んでる」

「心配すんな、同罪のよしみで多少俺が庇ってやるから」


 そりゃあ、あんたは強いんだろうけど。ヴァインは口を閉じた。自分だって弱いわけではない。でもいつだって星の巡り合わせが悪くて、いつだって散々なめにあう。それなのに、そんな苦い経験続きの目を背けたい過去からいったい何を学べと言うんだ。


 こんなこどもの頃。当時自分は学生だった。工場量産型が流行りだした頃で、家柄を重んじるやつらが無駄に抵抗して、こどもらを学び舎に押し込んで競わせた。そこでは優秀でなければならなかった。必死だった。


 努力の成果もあってちょっと目立つくらいに頭角を現すと、学園のマドンナである魔法使いの少女が贔屓目で媚びてくるようになった。大公の孫娘だった彼女の影響力は大きかった。やがて何をしても正当な評価がされなくなった。一番をとっても実際の実力なんて最早どうでもいい。権力者の恩恵でチヤホヤされる。そこはもうわけがわからない腐った場所だった。気が狂いそうだった。多分あの時、とっくに、狂いの歯車が嵌め込まれていて、回り出していた。ヤミヤミグラフの戯曲マリオネットに毒された。魂が呪いを惹き寄せるのだといわれた。どうすればよかったんだよ。ずっと苦しんでいたのに、与えられる全てが毒で、もがくほど深みに嵌って。救いを見出すことは出来ず。


 もう名前すらわからない。あの少女と結婚し、たくさんの子を授かり、共に破滅の道を転がり堕ちた。


 けれど何の因果か末っ子のダークだけが、ヤミヤミグラフの呪縛に罹らず自立した。とっくに手遅れだったのに、未練がましく希望にすがりたくなった。呪いを断ち切りたかった。


 運命とはなんなのか。


 強い力の結晶である太陽にお願いをしたんだ。命懸けで。



 結果慈愛に満ちた壮絶な力で灼かれ灰になった。



「なのにいつまでも終わらない。馬鹿師匠が馬鹿だから」


 怯えたままのオオカミコドモの手を掴んでいた、小さな太陽が。呟きに顔を上げた。


「あのね。次こそね。ヴァインが幸せになるターンを描くの」


「は?」

「パパはね、ヴァインに幸せを掴んで欲しいんだよ。もう何も諦めて欲しくないんだよ」


 シルヴァンス・ソレイユみたいな顔をして、曇りのない眼差しで。ああ、陽光はいつだって眩しい。うっかり目が潰れそうになる。


「ママもシャインも、今度は味方だからね。安心してね」


 無邪気で嘘も偽りもない、駆け引きの欠片は微塵もない、キラキラの善意。それはただ『パパの味方』であって、つまりは安心のできる相手。


「く……ヤメロ、──こんなガキに泣かされるなんて」


 冗談じゃない──、と無駄なプライドがあがこうとする。


「素直に泣けばいいんじゃね?」

「泣いたらいい子いい子してあげる」


 そんな簡単に。リバーシのゲームみたいに。白と白に挟まれただけで、これまで蔓延った暗黒が全部ひっくり返って、嘘みたいに消えて、なんだったんだろって。そんなこと本当にあるのか、信じ難いんだ。


 ──『勇者様は私の光です』


「罪深さを知らないから、そんな適当なことがいえるんだよ」


 どんなに希望を差し出されたって、気安く簡単に受け取ることが出来ない。のしかかる重たい闇にいつだって潰されてしまいそうなのに、記憶をなくしたくらいじゃ無罪放免にはならないし、何より自分は忘れない。過去は事実で消えない真実だ。


 これ以上なにか言えば声は震えるだろうし鼻の奥がツンと痛くなる予感もある。もうこの話は打ち切ろうと思ったが一手遅かった。


「シャインはヴァインがどんな悪い子か知らない。それはヴァインが知ってる。いい子のヴァインが償っていくこと」


 曇りない太陽がニコニコと返す。


「……なるほどね」


 償いがないままだから、いつまでも傷が痛むんだ。


 極悪非道の魔界勇者ブラッド。世界があの冷徹男を忘れても自分だけは忘れない。そろそろ弔いが必要だ。ブラッドに唆され、死んでいったたくさんの魂。中にはブラッドの思惑を知った上で話に乗った者もいる。何も知らず踊らされた者もいる。同じ黒に染まった仲間。盤上を白に返そう。


 ル・シリウスの魔界再生。ダークの太陽復活。どれも他人事だと思って巻き込まれているとばかり感じていたが。自分にも目的があって、その工程に必要なピースで、当然の流れの中にいただけなのだ。


「あーあ。馬鹿らし」


 ヴァインはシャインを担ぎ上げて猫でも吸うように抱きしめた。


「そんな簡単なことも自分ではわからない」


 償いの為の指輪を嵌めていたくせに、償えと言った師匠の綺麗事を何も理解していなかった。何百の試行錯誤で漸く謎が解けてスタートラインに立てる。ゴールはとっくに提示されていたのに。馬鹿だな俺。ル・シリウスが言っていたじゃないか、馬鹿師匠の直感が神速で最短の正解でムカつく。だが認めるしかないのだ。


 涼しい顔をしたままぽろぽろ泣いたが、シャインもジークも素知らぬ顔だった。心の中でいい子いい子と唱えていた。




 ✂︎-----------------㋖㋷㋣㋷線-------------------✂︎


【レグ×プラ】


「知的探究ヲタクのチビ眼鏡、魔法使いプラウです」プラウ

「あっち側代表、戦士レグルスだ」レグルス


「既にお分かりかと思いますが、前のページで出るはずだった【レグ×プラ】が文字数の都合上、今回のお届けとなりました」プラウ

「俺たちに文字数制限なんてないだろ」レグルス

「ないですけど、できるだけページ文字数は同じペースを保ちたいものなのです」プラウ

「999文字は許さない、きっかり1000文字で投稿するという鬼の時代の生き残りだからな」レグルス

「それも自主ルールチャレンジなので誰も強制してないです。自己満の極」プラウ

「毎週1000文字の8本だて。それこそが自由だったあのころ」レグルス

「時代は変わるのです。当魔界遺産はざっと1500~2500文字程度を目安にお送りしております。多分」プラウ


「さて。女王蜂に愛されし勇者の回です」プラウ

「ヴァイン自体が甘い毒で育った女王蜂という見方もできるけどな」レグルス

「ヤミヤミグラフを語れるのはヤミヤミグラフを持つ者のみ」プラウ

「謎の魔導書ヤミヤミグラフ。なんかヤミが探してる全1103巻のうちの1冊がヴァインのマリオネットって話だったよな」レグルス

「魔界遺産本編に出てきたヤミヤミグラフはもう1冊あって、太陽王ルドのクローンです。これについてはまたおいおい語るとして。ヴァインのマリオネット。これがいかなるヤミヤミグラフかご存知ですか」プラウ

「ん。いかなる。えーと。いや……だからさ。なんかこれのせいで皆不幸になったって話だろ」レグルス

「名前すら思い出せない魔法少女をはじめ、数々の者を虜にし、盲目的に尊敬を集めた絶対支配者感。これはおそらく全てのヤミヤミグラフに備わった効果でカリスマ性が爆上がり。ですが本人の意思で発動している術ではないので止められません。ヴァインが振り回されたのはここです」プラウ

「自分の意思で発動する術が他にあるってことか」レグルス


「 忘 れ た ん で す か 。『かれここ』で太陽魔界に魔界勇者ブラッドが太陽堕としを仕掛けてきたんです。太陽魔界には全知全能の魔導書があります。全知全能なので当然未来も先読みするんです。敵の襲撃なんてどんな作戦も丸わかりですよ。太陽魔界に限らず、トップクラスの魔界は全部そうなんですよ!」プラウ

「思い出した! 魔リオ・ネットは過去現在未来の情報をバラバラにシャッフルして因果関係を分断するほぼ全知全能の書の人格者狙いの術だ。使いどころがほとんどない」レグルス

「ヤミヤミグラフ。使いどころが一発屋的な厄介な感じが拭えません」プラウ

「宝の持ち腐れ!」レグルス

「ヤミが持て余した不完全な魔導書ですからね」プラウ


「結局文字数大幅オーバーか」レグルス

「今回はここまで。それでは「『再見』」」レグプラ

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