【魔界遺産】再生神話

 いくら過去のページをなぞってみても、そこに答えはない。当然だ。一度でも答えをみつけていたならとうに実行している。ヒントでもあれば見逃すはずもない。


「とは思うんだよなあ」


 ル・シリウスはファイノメナを閉じた。


 魔界の転生システム以外で喚び戻す方法。どこから。場所を特定できるのであれば、自分がそっちに乗り込んだっていい。


 あの知的探究ヲタクのチビ眼鏡――プラウならば、やはり同じ結論に至っただろう。もしかしたら案外もうとっくにあっち側かもしれない。だとして。


 マスターを連れてこっちに帰ってこないということは、やはり何かしら困難な事情に阻まれているのだろう。推測にすぎないが。


 特殊な術式に対応出来る人材、プラウ以上に?

 まったく心当たりがないわけではない。


 ずっとスタンドプレイでやってきたが、ひとりでやれることには当然限界がある。

 もっと大きな高い場所に手を伸ばして足掻くなら、チームプレイが必要だ。

 幸い。各方面の優秀な人材が集まっている気もする。


 少なからずなんとなしに人望もなくもない。


(でも。ゴルダを抱き込むにはまだちょっといろいろフラグがたりない。)


 太陽魔界とのパイプ作りに何年も費やした。シルヴァンスだったから成功しただけで、太陽王が元からゴルダであったなら付け入る隙なんてはなっからありはしない。


「問題はゴルダだ!」


 偶然あっちの方でダークが息を巻いていた。


「協力を申し出て仲間になろう」


「あらー。シルヴァンスは我の后とか言ってたのよ? 大丈夫なのかしらぁ」

「こうしてシャインが実在する以上、オレの嫁説が史実だ。話せばわかってくれるだろ」「パパー」


「ダーくんて……天才?」


 思わず呟いた。


「は? 新手のハラスメントか? 頭悪い自覚くらいはあるが」

「いやいや。普通は悪手だなーって忌避しちゃうようなことをズバッとルートに設定できるのはすごいんだよ。例えばアタシが何百通りのプランをたてて成功率をひたすら演算してようやく辿り着く、でもこれが一番最善策だよっていう答えと、君の単なる直感が、同じ結論に至るならさ。やっぱ天才でしょ」


「隣で小さな弟子が頭抱えてるけどな」

「馬鹿師匠! 馬鹿師匠!」

「ヴァイんはよっぽど死にたくないんだね〜。別に生きたいように生きれなきゃ死んだ方がマシじゃん。てか死んでも叶えたいこととかないの」


 涙目で睨んできた現コドモオオカミは小さく唸っている。


「だからやっただろ【太陽堕とし】。そして失敗しただろ! もう死んだのに馬鹿師匠が転生させるからこんな、巻き込まれて!」


 お前だってあの時太陽魔界にいただろ! といわずもがな。直接顔を合わせた記憶はないが、さすが魔界勇者。リサーチ力は勝らずとも劣らず。


「それは《手段》が間違ってただけでしょ。《目的》はまだ果たせてないじゃん」

「俺は目的の【ヤミヤミグラフ】には絶望してんだよ! 一世一代の大勝負だったのに」


 ギャンギャンと喚くヴァインに、別の価値観しか持ち合わせがないメンツが真顔になった。


「つまり死ぬことより、失敗するのがこわいってことか? 失敗を繰り返すくらいならずっと死んでたい、みたいな」

「えー。ブタあまー。トライアンドエラーでしょー。これだから失敗しないエリートは」

「ヴァイン。人生は失敗から学び直すんだ。何度でも」


 ダークが真面目な顔で師匠面に入ったところでヴァインが限界を来たした。


「地獄!」


「魔界だもの。タフにならなきゃねん」

「正論で無限に刺してくるリンチマジでムカつく。大人が寄って集って」

「いや……お前見た目はコドモだけど、オレよりオトナだからな……」

「見た目じゃなくて耐久力もコモドだっつうの!」

「場合によってはコドモの方が鈍感だったり柔軟だったり泣き喚いたりできる分ダメージ少ないよ☆」


 とはいえ実際問題、ゴルダを味方につけるか敵に回すか、見込みは五分五分だ。ヴァインのような緻密な戦略で近づくのは一番NG。ここはダークみたいなピュアでストレートな体当たりが望ましい。けれど今回に限って嫁を取り合う立場のダークが向かうと交渉決裂しか見えない。さあどうしたものか。


「シルヴァンスがいれば上手く説得してくれたかもしれないけど……」

「そおねん。あの子でも役に立てそうな滅多にない展開だわ」

「ディープは相変わらず、太陽王に厳しいな。実際にはオレの方がずっとシルヴィより役たたずだ」

「ダークちゃんは満点よ。ちゃんとあの子を支えられてるもの」


「…………」


 大人しく大人たちのやりとりを見ていた小さなシャインが不意に無言でヴァインとジークの手を引いた。


「?」


 無言の圧を感じたので、聡明な二人は声をたてなかった。どうしたんだ? なんて、きいたりはしない。何らかの明確な意志を持って動き出したのが、女だったせいもある。女の意志は尊重すべきだ。馬鹿でなければ。


 そっと三人がいなくなった。ダークはそれに気付かなかった。


「ル・シリウスちゃんは気付いていましたが」

「何で言わないんだよ」


 めちゃんこ怒られた。


「ル・シリウスちゃんはシャインちゃんのママではないので保護監督責任がありません」


 本当のことを言ったらことさらに怒られた。


「だからだろ! 保護監督責任者のオレに真っ先に言えよ!」

「ごめんなさいねダークちゃん。あたしもお喋りに夢中で、っていうかあたしと喋ってたせいでダークちゃんがあたしに夢中だったのよね」

「とはいえだよ。幼女ひとりで出てったらさすがのアタシも止めるけど、なんか選ばれし勇者とか連れがいたし。ドンマイじゃん?」


「ヴァインとジークだぞ。シャインに何かあってみろ、シルヴィに顔向けできないだろ」

「ビビりのヴァイんだけだと頼りないけどジークもいるし? ロリ疑惑のジークだけだと不安だけどヴァイんもいるし?」

「シャインといるのがお前だったらオレは心配してない。何でヴァインとジークなんだよ!」


 その信頼もどうかと思うけれど、そこはもうシャイン本人にお問い合わせしてくださいとしかいいようがない。


「ナンデダロネー」


「無条件で家来になりそうだったからかしらん?」

「早くも頭角あらわしてんな♪」


 ディープやル・シリウスは無条件では家来にはならない。実際ディープは太陽魔界の家臣ではあるが王にもたてつく図太い神経なのだ。ダメだしをくらう覚悟がなければ巻き込めない。幼いなりにシャインはちゃんと相手を見極めている、そう判断せざるを得ない。思いついたら誰にも反対されず邪魔されず確実に実行したい──という気概を感じる。


「シャイン! 無条件で使うならまずオレだろ!」

「てことは、ゴルダか」

「は?」


 ダークにもわかるように、ル・シリウスは流れを噛み砕いて解説した。


「ダークんが使えない相手、ゴルダに会いに行ったんじゃない?」


 ダークが一気に顔面蒼白になった。全身青色狼だ。



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