【魔界遺産】ダークインザナイト(4)太陽と月の

 まもなく、ダークはマナ稼ぎを終えて戻ってきた。決して楽な旅ではなかっただろうことは連れのヴァインの顔を見れば一目瞭然だった。ダークの男気が一回りも二回りも大きく上がるのに比例して、気苦労でヴァインがやつれていく。他人事とはいえオモロ……と内心ル・シリウスは二人を生暖かく見守った。


「さあ! かき集めたマナ全額ベットだ」

「無一文になる直前のギャンブラーなんだよな台詞が……」


 ダークの意気込みに全員が何となく予感していた。次はどこのソレイユが出てくるだろうか。


「ちょっと落ち着いて慎重に行こうぜ?」


 一番ソレイユとは縁遠いジークが大した助言もできずにとりあえずダークの肩を宥めるように軽く叩いた。


「ああ。とにかくソレイユはオレの嫁のシルヴィだからな、ゴルダの目を醒させてやらないとな」

「では『太陽王』の他、検索条件にダークさんの『家族』も加えますね。性別『女性』」


 役所側が一番慎重になってる。ダーク不在の間も遊んでいた訳では無いのだ、役所の機能改善に尽力し、精度をあげてきた。結果を出さねばならない。エリザベートが祈る気持ちで二度目の太陽王のリインカーネーションを実行した。


「パパ!」

「って、あたしたちの希望の星、輝けるシャインちゃん! 最高(にバッド)のタイミングで初登場ねん」


 飛び出してきた小さな太陽はシルヴァンス・ソレイユに瓜二つ。一瞬ちびっこシルヴァンスが出てきたのかと思ったほどだ。


「ママは?」


 シルヴァンスの幼少期も知るディープだけが、ハキハキと思ったことを口にするシャインのことを全くの別の個体として認識できる。


「っく、シャイン……不甲斐ない父親ですまない」


「うわ……師匠のやつ泣いてる……引く」

「ヴァインちゃんも自分の子の前で泣けるくらい素直な性格ならあんな悲劇にはならなかったのにねえ。カッコつけは無駄に苦労するわよねえ」


 藪蛇発言だったかと口を噤むヴァインを無視して、ジークは元気いっぱいの太陽姫を観察した。


「つまりこれはアレか? マナが足りなかった」

「あるいはすでに別のルートでシルヴァンスが復活している口ね」


「ゴルダに先を越されたのか!?」


 青ざめるダークにディープはチッチと指を振った。


「とも限らないわ。シルヴァンスを復活させたいと切望しているのはあんたたちだけじゃないのよ男子」



 ■■■


「お目覚めですか、太陽王」

「オレット……悪い夢でもみていたような、そんな気分の目覚めだ」


「では覚悟してください。悪い夢ごとき足元にも及ばない壮絶な現実が展開しております」


 いつもの太陽魔界の空気ではない。記憶も霞がかかっている。また何か大変な事態に陥っているだろうことは理解できた。


「……。オレットがそういうのであれば、大げさでもなんでもなく事実そうなのだろう。余は太陽王。逃げはせぬ。して、今度は何をすればよい?」

「そう……ですね。順番付は難しいですが、最終的には太陽魔界の復活を」

「ふふ。またか」

「またです」


「以前にも魔界勇者が──」


 思い出せる記憶の糸を手繰る。


「…………」

「どう、しました? ソレイユ」

「ダークは」


「余の、ダークは、どこにおる」


「おりません。今は誰も。貴女のそばにいるのは私だけです」


「……っ」

「だから今だけ泣いてもいいです。誰にも太陽が泣いたなどわかりはしません」


 太陽王の重責も今はあってないようなもの。


 しかしシルヴィはゆっくりと首を振った。


「一瞬でも。余がダークを忘れるなど。信じられん。だから思い出した瞬間に驚きショックだったのだ。自分自身に」


 オレットを見上げ力無く笑う。


「ダークがそばにいなくとも余は泣いている場合ではない。むしろそんな場合ではない。太陽王としては無能であるが、ダークとシャインのためにも最善を尽くし戦うぞ」


「たしかに貴女は妻として、母としては最高のポテンシャルを発揮します。そんなに太陽王嫌でしたか」

「愚問か。嫌で嫌で仕方なかった、ほんとゴルダが逝ってしまって最悪で、でも他にどうしようもなくて、未だに大人になれん!」


 いくら太陽魔界がないからといって、そこまで本心を曝け出していいのか。オレットは偲びない気持ちになって辺りを見回した。絶対に誰にもきかれていないだろうかと心配だったのだ。


「シルヴァンス」

「ほぎゃ!?」


 迂闊としか言いようがない。魔界ナニー人生で初めて変な声を出してしまった。他に誰もいないでほしかったのに、実はいて、しかも知らない人でもなさそうで、これはきっと聞かれてしまっている。というか。というかだ。


「探したぞ」


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