【魔界遺産】ダークインザナイト(3)袖触れ合うも【レグ×プラ】


「すっごくすっごく大好きなひとがいるんですよ〜」

「いる〜」

「どこの誰か思い出せないけど、むねをかきむしりたいくらいすき〜!」

「わかる~」


 テンションのおかしい女子が二人、大きな声で叫びながら歩いていた。


「ぜったい探し出して思い出す」

「ぜったい思い出して見つけ出す」


 一般人も三下も雑魚もいなくなってしまった魔界は閑散としていたが、強者は時々いた。それもだいたいは単身のロンリー。


「ヘイヘイそこのかわいいガールたち。俺とも仲良くしてよ」


「あなたは違うです」

「あなたは違うよ」

「……ちがう、とは?」


「「およびじゃないってこと!!」」


 男たちは凶暴な女子二人に撃退され星になる。次々と。


「どっちが先に運命の人に再会できるかな」

「先に再会できても探すの手伝うね」

「マジ感謝☆ズッ友〜」



「っていう、あの女はやばいよ師匠」


 離れた場所でヴァインがこそこそとダークに耳打ちした。


 まとまったマナを調達するには相手を選ばずガンガンいくしかない。みんなと別れてからここまで、片っ端からぶっ飛ばしてきた。ヴァインは負け犬根性が染み付いていて、ちょっとでも強そうな相手に出会うととにかく逃げ出したがる。まあダークよりも相手の能力を見極めるセンスが高いからこそのビビリとも言えるが。


「時間がない」

「死んだら元も子もないだろ」


 ヴァインがいうのも尤ももっともだ。二人の女子のうち背の低いほうは多分そんなにダークと変わらない戦闘力だろう。背の高い方はパッと見同じテンションでキャッキャしてはいるが、そう、なんか知らんがあの女はやばい。絶対関わらん方がいい。そう本能が警鐘を鳴らす。


「みつかる前にさっさと逃げ」

「どこへ逃げるの坊や」


 ヴァインの頬を白い手のひらが撫でた。背後に立つ女の圧でどっと冷や汗が吹き出るのがわかった。しんだ。バカ師匠がバカで間抜けだったから。


 相手の心臓とこっちの心臓がりんご3個分もない近距離に絶望し、諦めて目を閉じる。その間目の前のバカ師匠がヴァインに神速の足払いをし、一瞬宙に浮いた体が足を掴まれて片手で振り回された。したたかに尻もちもついたし色んな痛みがいっぺんに襲ってきたがどうやらまだ生きてる。一気に女との距離がりんご3箱分に開いた上に、間に立ちはだかる師匠の壁がある。生きた心地。


「小さい子に乱暴するなんて、きみは悪いおとなだ」

「だがこいつはあんたに怯えている」


 バカ師匠の背中越しに女の顔が見えた。ずっと遠くでもう一人のほうがなにか道具を組み立てている。万事休す。


「ひどいな。かわいいワンちゃんがいたからちょっと触っただけじゃないか」

「マナーがなってないな。ペットでも赤子でもぬいぐるみだろうと。よそ様のものに気安く手を出すなよ」


 女は一瞬目を丸くして、途端にしゅんとした。


「ごめんね」

「謝るのかよ。ガチで凹んでる」


「ヴァイン。相手が思いのほか素直だからってドン引きするのは失礼だぞ」

「だって師匠、俺今絶対しぬって思ったのに」

「うう。ごめんね」


 さっきまでの殺気はもうない。女は別人のようにうなだれている。


「大事な人にあえなくてちょっと情緒不安定なんだ」

「それはわかる。お互い頑張ろうとしか」

「なんでちょっと仲良くなってるんだよ」


 さっきまで目が合ったら殺される、目が合わなくても殺される、くらいの警戒体制だったのに、秒でうちとけられてもヴァインとしてはついていけない。


「いいかヴァイン。災害時には皆手を取り合って助け合うものなんだ」

「いや、ずっと出会い頭にぶっ飛ばして来ただろ、どっちも」

「えー。あれはぁ。なんかナンパしてきたからー? きみたちはそゆのとちょっと違う的な」


「非常事態だからこそ、手を取り合うに相応しくないやつは速攻で排除すべきだ。二次災害にかまけてられん」

「だよねだよね。気が合うー」


 とはいえだ。ようやく準備を終えたらしい後方の女が武装解除しない。完全に気を許したわけではない。いつでも火蓋は切って落とされる。


「見たとこ二人は親子なの?」

「親子ではあるが、見たまま解釈すると逆になるぞ」


 そんなややこしい事情を見ず知らずの他人にわざわざ言うなよバカ師匠。ヴァインの苛立ちを気に留めずダークは今日はいい天気ですねくらいのトーンで話を続けた。


「親父の倫理観がバグってたから情操教育からやり直しが必要なせいで縮んだんだ」

「なんそれ……(トゥンク)。どんな拗らせ設定(萌)」


 女がギリギリ表情筋を保ちながらも微かに見悶えた。どこにときめく要素があるのかマジでわからん。


「わかったよ」


(なにが)と突っ込みたいのをグッと堪えた。


「きみたち親子(萌)には危害をくわえない。お互いこのままそっとお別れしよう」

「助かる。あんたたちの探してるやつにも早く再会できるといいな」

「うん。ありがとう」


 踵を返すと見せかけて、女はちょっと思い出したように一回転して動きを止めた。


「最後に一回だけちっさいパパさんモフってもいい?」

「やだよ!」

「悪い。コイツ、ビビりなんだマジで」




 ✂︎-----------------㋖㋷㋣㋷線-------------------✂︎


【レグ×プラ】


「魔界にも災害の概念がある。魔法使いプラウです」プラウ

「蓄えた折れない心を今こそ持って立ち上がれ! 戦士レグルスだ」レグルス


「かつて太陽魔界を襲撃した魔界勇者ブラッドは、クールでインテリな知的キャラだったんですけどね。すっかり神経質でビビりなだけのヴァインがあばかれます」プラウ

「まあこどもだからな。繕う余裕がまだない」レグルス

「そういう意味ではダークは大人になりましたね」プラウ

「昔はダークが今のヴァインみたくギャンギャン言ってたからな。似た者親子だったんだ」レグルス


「りんご3個分には突っ込みスルーですか」プラウ

「? なんで急にりんごで尺をとったんだ」レグルス

「りんご3個分はキティの公式プロフィールにもある単位です」プラウ

「かわいいもの好きだったんだな、ヴァイン」レグルス

「相手のJKっぷりにあてられたからかもしれません。若干間違った用法をしているところからも動揺がうかがえます(長さではなく重さなのですコソ)」プラウ

「うかがえるのはそういう知識があった場合な。というか間違った用法じゃなくもっと別のとこから動揺は伝わるだろ」レグルス


「謎のJKとはここで一旦お別れです。早くシルヴァンスを召喚してください、作者がフライングでなんか最近最終回間近の展開を書いてるのです」プラウ

「次回突然最終回! とか意味不だから。ちゃんと順番に書いていこうな、今度こそ」レグルス

「伝家の宝刀は封印しましょう」プラウ


「これからも「『再見』」」レグプラ





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