【魔界遺産】ダークインザナイト(2)陽はまた昇る



「我こそは太陽王ソレイユである。大儀だディープよ」


 見知らぬ大衆に堂々と名乗りを上げて、最後に忠臣を労った。あるべき太陽が、高い場所で、眩く照らす。命を育む。力強く。希望を掲げ。


「──あんびりーばぼーだわ。予期せぬ展開よ」


 絶句を乗り越えて漸くディープがそう吐き出した。


 拍手の行き場をなくしたままのル・シリウスがぎこちなく首を傾げた。


「太陽王ってシルヴァンスなんじゃないの?」

(絶世の美女……じゃねえ)


 ジークなど目が死んでいる。


「ソチはシルヴァンスを存じておるのか。シルヴァンスは我の后である」


 思わず無言でヴァインの頭をペちするダーク。


「イテッ、なんだよ師匠」

「あいつなんて言った」

「シルヴァンスは王様の后」


「はああ? ねえよ」


「何で俺にキレてるか知らないけど、言ったのあっちだから」


 今日はずっと暴力の餌食。


「困ったわね。これも歪みかしら」

「皆さんの反応から察するにまた失敗したのでしょうか……役所の沽券にかかわります所長」

「誰を誤召喚したっすか」


 ざわつくアンドリューズとエリザベートに、ディープは静かに首を振った。


「いいえ。あれこそが、太陽王。本当は彼が玉座につくのが相応しかった。でもそうはならなかった。あたしは」


 忠臣だなんて目で見られても後ろめたい。


「あたしはシルヴァンス派だもの。ゴルダにはあわす顔もないわ」


 名を聞いて、ル・シリウスの記憶回路がまたひとつ起動した。


「ああ。ゴルダ。太陽の覇権争いでシルヴァンスと共闘していた、王位に最も近かったっていう。でも彼は不治の病で亡くなった。仕方なく、なりたくもないのにシルヴァンスが太陽王になった」

「詳しいのねル・シリウスちゃん。太陽魔界のシークレットよ」

「太陽魔界のことはなんでも知ってるよ。盗むべき情報がそこにはあったからね」


「じゃあどうしてあたしが有能なゴルダではなく無能なシルヴァンスについたかもおわかりかしら?」

「いや。あいにくオカマには興味もなくて」

「最推しのオレットちゃんがいたからに決まってるでしょおお」



 どんなに相手が優秀で、強大で、カリスマでも。


「理由がある。オレが挑むべき相手だ」

「やめろよ馬鹿師匠。どう見ても相手が強強つよつよなんだってば。なんでわからないんだよ」


「んー。それは違うよヴァイん。ダークんはさ、君みたいに用意周到に策を練って練って練って下準備に何年もかける陰湿なねちっこさや作戦こそないけどさ。逃げてはいけない場面ってのを本能的に振り分けてるんだよ。瞬間的な直感で、正解だけ弾き出すんだ。勝てるかどうかじゃなくて。認めちゃいけないことを正すために」

「それで挑んでも力がなきゃ意味ないだろ!」


「あら。力は合わせるものでしょう? かつて太陽魔界を襲撃した魔界勇者は、それは見事に力を合わせてきたわよ。忘れちゃったのかしら?」

「まあ、まだ美女も拝めてねえしな。必要ならこっちも力貸すぜ」

「当役所としても責任があるっす」


「ふ。どうやらまとめて灰になりたいらしいな。よいぞ。我も少し身体を動かしたい──と言いたいところだが。魔界が焦土と化している今、ソチらのような小物の相手ばかりしている訳にもゆかぬ」


 ゴルダは冷静だった。全体を把握し、次の行動を考えている。


(なるほど。太陽王の器)


「太陽魔界を再建するが。ソチはどうする、ディープ?」

「ごめんなさいね王様。何度も期待を裏切っちゃう。太陽魔界は応援するけど、あたしは今さらそっちに行けないの」

「そうか。難儀であるな」


「太陽魔界を、ゴルダは、再建でき──?」

「おいおいおい。言ってるそばから裏切者が出そうだぞダーク」


 ジークに呼ばれ、ダークはピクピクとケモ耳を震わせた。


「仕方ない。ル・シリウスにとってはあっちの方が都合のいい未来なんだろ」

「やだな皆。裏切るなんて。大袈裟だな。ただちょっと向こうのスキルが美味しそうで期待しただけじゃん」

「師匠。コイツ絶対ほいほい裏切るよ」

「違うって。利用価値があるってだけ」

「あー。本音を隠さないル・シリウスさんのスタンスもいいと思うっす」


「とにかく。ゴルダより先にオレがシルヴィを復活させる。じゃないと記憶を上書きされてあっちが史実になるおそれがある」

「珍しく冴えてんじゃんダークん」


 すること決まるとダークはヴァインレッドを引き連れて、マナ狩りの旅に出た。猪突猛進、実はウリ坊だったのかも。


 にしても。上手いことゴルダに太陽を再建してもらって、なんかかんか上手いこといったり? しちゃうかも?


「ちょっとお手伝いするくらいなら裏切りにはならないよねえ? ダークんは懐が広いし」

「知らねえよ。まあ敵対しないで済むならそれが何よりなんじゃね?」


 一度は若くしてこの世を去ったゴルダ・ソレイユ。不治の病を抱えていなければ彼は立派な太陽王だった。


 転生をしても、同じ病から逃れたわけではない。このままだと遅かれ早かれ、ゴルダは病死する。


「ダークんが、シルヴァンス・ソレイユの転生を急ぐのは。きっとゴルダのことも助けたいからなんだよね」

「嫁のNTR展開を阻止するためだけじゃないのか」


「ねえジーク」

「なんだクソガキ」

「一回死んでマジで。キモイから」




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