【魔界遺産】Please Excuse My Dear Aunt Sally【レグ×プラ】


 テスト召喚でやがて無事にダークが再構築された。


「あっらー!!」

 ディープが素っ頓狂に声を上げる。


「ダークん、小っさ」

 呆然と呟くル・シリウスにダークが早速突っかかってきた。


「ガキで悪かったな」

「いやいやいや、てっきり大人のダークんが帰ってくると思ったら、出逢った頃のままだった的な」

「意味不」


「いいじゃない。カワイイ頃のダークちゃんなんて今じゃ貴重でしょ」

「何かやはりシステムの調整が」


 わちゃわちゃ人に囲まれて、コドモオオカミは迷惑そうに顔をしかめた。


「どこだ」

「えっとね、何から話そうか」


 ル・シリウスはダークに白い本を押し付けた。

 すぐさま浮かぶタイトルは『華麗な魔王と孤高の少年』。


「全魔界が消失しちゃってこのザマなんだけど、何か思い出せる?」

「思い出せるのは……オレはダーク。家族殺しの罪で手配中の逃亡者。強くなって親父を倒さないといけない」

「うん。めっちゃでだしの情報しかないね。ソレイユのことは何か思い出せる?」

「ソレイユ……………………シルヴィ?ㅤえ、だれだ」


 ダークが記憶回路とウンウン唸りながら戦うのを、ディープがいやらしい目でニマニマ見ていたのでル・シリウスは咳払いをした。


「オカマ。表情筋」

「だってもうダークちゃんがぁウフフフ」


「ダークん。こっちのオカマに見覚えはある?」

「あえて見えないフリしてたのに、なんでわざわざそんなこときくんだよ」

「そこはゴメンだけど」

「どゆこと!! ちょっとダークちゃん。酷いわ。なんなの」


「「変態と知り合いだなんてそれだけで萎えるだろ」」


 ル・シリウスとダークがシンクロして双子のよう。


「変態だろうがなんだろうが共鳴する相手が多いほど記憶を取り戻せるって話だろ」

「こっちにもう一人変態がいるんですよー」

「そうか。仕方ないな」


「ムカつくガキが二体に増えただけだな」

 静かに見守っていたジークも話の進まなさにイラつきを見せた。


「ル・シリウスのことは知ってる。そこのオカマもなんか知ってる。あともっと変態が一匹いた気がする」

「ダンデちゃんのことねん」

「変態にまつわるデータしか集まらない……」


「ソレイユ……。シルヴィは俺が一緒にいてやらないとダメな気がする」

「尊タヒ!」

「しっかりしろオカマ」


 思い出せない記憶領域がある。

「あせんなくて大丈夫だよ。嫌な記憶が前面にあるだけ。いい記憶だってちゃんといっぱいあるからゆっくり取り戻していこ」


「嫌な記憶カテゴリにアタシもいるってことかしらぁ」


「壁にぶち当たるといつもル・シリウスが飄々と現れて背中を押す。お前良い奴だよな」

「んー。別に良い奴ではないよ。マスターの言いつけをひたすら守ってるイイコではあるけど。親切ではないよ」

「そうだぞ。コイツは酷い奴でもあるんだ」

「背中の弱点を躊躇いなく攻撃しちゃうしね」

「最低だな」


 ダークはそんなことで相手の評価を覆したりはしない。自分にとってはどういう相手か。何も変わらない。


 ダーク自身もまっさらではない。家族殺しの咎を背負う者としての自覚がある。そういう記憶をなくしてなくて良かったと思う。気楽に過ごしてあとから思い出してしまった方が呵責の念に押しつぶされそうだ。


「ホント。皆イイコね。自分から逃げず、他者は追い詰めない。いいチームだわ」

「どこ見てそう思ったの?」


「いいのよ。さてお次はどうするの」

「システムのテコ入れをしています。あと300秒お待ちください」

 知らんうちに黙々と仕事をしていたエリザベートが眼鏡を直した。

 この子めっちゃ働くじゃん。新人扱いして悪かったなー。

 ていうかアンドリューズどこいった。アイツもアチコチ駆けずり回って復旧対応中かな。


 ル・シリウスは混沌の星空を見上げた。誰かの昨日と明日が散らばっている。


 突如エリザベートがポツリと小さな声で言った。

「復旧がある程度進んだら、頃合いを見て。私もハインズを召喚してみようと思います」

「ハインズ?」

「はい。彼は私の幼なじみなのですが、毎晩仕事上がりの私を殺しにくるストーカーになってしまい」

「ええええエリザベートちゃん? 彼は別に復活させなくてもいいんじゃないかな?」

「でも私以外誰も。彼を召喚してあげる人いないと思うんです。今度はちゃんと話を聞いてあげようって思います。駄目でもまたレベル1のエリザベートになるだけです」

「……そっか。エリザベートちゃんなりに考えがあるなら、そうだね」


 エリザベートはキリリと表情を引き締めた。

「お待たせいたしました。ダーク・レッドさん。昇格試験に挑戦してください」

「なんの話」

「アレじゃん? ダークんを大人に戻すために突破任務的な」

「戦うの?」

「いいえ。今回はいくつかのミッションを選択していただきます」


 いくつも選択肢がでてきた。あったかもしれない架空のルート。イフの世界線。嘘の歴史。

「どれを選んでもいいですよ」

 感情のこもらないエリザベートの機械的な声。人生をやりなおしますか。


「じゃあ。一つ目は『孤高の魔王クズハに弟子入りして強くなる』。二つ目は『魔界勇者ブラッドを倒す』。三番目は、『ヴァインレッドを弟子にする』」

「その選択がこれより貴方の現実となります。後悔はしませんね」


 後悔とは先にはできないものなのだ。後悔する時が来ても自分の選択に責任を持つ、覚悟を問われたまで。


「ああ。大丈夫だ」


 ダークは大人の姿になった。隣にはちんまい少年のヴァインレッドがいた。いくつも指輪を付けている。


(エリザベートちゃんといいダークんといい。どうしてこうもめんどくさい生き方が好きなんだろ)


 ル・シリウスはふとそんなことを思ったが、口にはしなかった。他人から見ればマスターを絶対復活させようとするル・シリウスの執念だって相当にめんどくさいだろう。ああそうだ。オオカミはどうしたって仲間意識が強い生き物なんだよ。



 ✂︎-----------------㋖㋷㋣㋷線-------------------✂︎


【レグ×プラ】


「ちっさくたって頭脳は賢者クラス。魔法使いプラウです」プラウ

「どんなに強くたって、狭間の国の囚われ人。戦士レグルスだ」レグルス


「ぅぅ、現実は厳しい」プラウ

「案外早くダークは大人に戻ったな」レグルス

「過去を掘るより未来を繋ぎたい一心です」プラウ


「ル・シリウスは酷い奴なんかじゃない」レグルス

「いやいや。僕なんて初対面の出会い頭にグーパンでぶっ飛ばされました。あんな暴力少女他に類を見ません」プラウ

「俺の顔に免じて許してやってくれ」レグルス

「というか貴方のせいですし、僕のせいですし。別に怒っても恨んでもないです。根に持ってはいませんが事実としてそういう出来事はあったという」プラウ

「こうしてル・シリウスに叩かれた男たちは一人、また一人と大人になっていく」レグルス

「変にいい感じにまとめないでください」プラウ


「今回サブタイがついに英語になったぞ」レグルス

「ああ。ついにサブタイにツッコミが入ってしまいました」プラウ

「毎回突っ込んだ方が良かったか」レグルス

「いえ、わかる人はわかるし、わからないならスルーでいいがモットーです。今回のは【数学における】計算式には『順序が大事』です」プラウ

「英文なのに数学だった……」レグルス

「ペンダスはこどもたちの魔法の合言葉」プラウ

「ワールドワイドすぎて意味がわからん」レグルス


「さてさて補足です。かれここの続編というか別タイトルで大人ダークが弟子のヴァインレッドと旅するさしておもしくもないお話がありまして。ヴァインレッドの持つ指輪にはそれぞれ復活させるべき家族の情報マナが宿ってて、復活召喚にかかるお支払い代金としてのマナを貯めてるとこなんです」プラウ

「もっと言えば、ダークの父親がヴァイン・レッドで、気狂いの魔界勇者ブラッドとなって悪逆非道行為で太陽魔界襲撃、いわゆる敵だったわけだが。なんやかんやダークとソレイユの愛の力で勝利して一度は倒したのに、続編でダークがヴァインレッドを召喚、弟子にした。その時の転生で今はヴァインレッドがこどもっていう逆転状態になってるわけだ」レグルス

「ル・シリウス的にはあの時の敵っていう見方ですね。あんまり覚えてないかもですが」プラウ

「コイツのおかげで太陽魔界地下に潜り込めた、という恩恵の方が記憶にあるかもな」レグルス

「そう。ル・シリウスは味方のようで味方ではない。混乱に乗じて潜り込む火事場泥棒みたいな奴なんです」プラウ

「それも俺に会いたい一心なだけなんだ。許してやってくれ」レグルス


「うわ、師弟愛がうざすぎて蕁麻疹出てきました」プラウ

「次回、ダークインザナイト」レグルス


「「『再見』」」レグプラ

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