【魔界遺産】ディープテックと社会的死【レグ×プラ】
記憶がないのはお互い様だ。どちらも大した戦いはできない。それは本来持っていた戦闘能力のうちの何割も発揮できない状態だということ。単純なせこい攻撃が関の山。しかしル・シリウスは最初からまるで戦い方を知っていた。
ジークは軽く頭を振った。いや違う。ル・シリウスもきっと戦いの記憶はない。だが体が勝手に咄嗟に、どうするべきか判断している。死線をいくつもくぐってきたというわけか。自分より強い相手とも渡りあうにはそれ相応の臨機応変さが求められる。経験が知識があるとかないとか、きっとそういうことじゃない。
この手に二丁の拳銃がある。以前自分がどう戦っていたかは皆目見当もつかないが。子供の玩具同然の輪ゴム銃に魔力を込めることで、きちんと武器として使えることは実証できた。
「さて、新世界の覇者とか言ったっけ? 志願動機でもきかせてもらおうか」
正直興味はない。
ジークがまっすぐ見据えた先で、魔王がにやりと笑った。
「全ての魔界が滅んだ今、全ての魔王がその力をなくしたのだ! 今や零にして唯となったこの世界だからこそ、一人で支配ができる」
「つまりアンタは自分の魔界を取り戻すことより、ここを手中にしたいというわけだ。アンタの魔界にゃほかの仲間もいたろうに全部見捨てて行くんだな」
「思い出せもしない過去にとらわれて動かないのは無様だろう」
「思い出す努力もしたくねえってのが本音だろ。まあいいさ、意見の相違は仕方ねえ。アンタにはアンタのなんか美学があんだろ。別に全否定はしねえ。ただ、アンタには俺が邪魔で俺にはアンタが邪魔なだけ。どっちが善悪ってことじゃなく、」
「お前達がどうしてもまた旧世界を再建をしたいというなら、そうだ、我が野望の前に立ちはだかるは敵なのだ!」
互いを敵同士だと認識を示し、開戦。いくら魔界の人種と言えど戦闘を好まないものもいる。最低限の礼儀としての会話は終了した。
一方ル・シリウスは、ディープとアンドリューズのもとまで事実上撤退してきた。
「あのさー」
「どうしたのル・シリウスちゃん。あなたらしくもないわよん」
倒すべき敵がいるのに戦わない。およそいつものらしさとは違う。
「いやさ、ちょっと確認なんだけど。もし万が一ジークが負けたらさー」
「負ける!? あの敵そんな強いんすか」
アンドリューズが悲痛な叫びをあげた。小魔界再生は時間がかかる。
「多分アタシじゃ勝てないくらいには強そうなんだよね。だからジークが倒せないなら、ディープはどうすんのかなって」
戦うのか、逃げるのか、否。
「それでもちゃんとアンドリューズを死守できる?」
「ル・シリウスさん」
アンドリューズは作業を続けながら感動して咽び泣いた。
「アタシやジークが死んでも、アンドリューズの小魔界再生は絶対完遂させてほしい」
「あらあら」
存外真面目な顔で何を言うかと思えば、ディープは可笑しそうに表情を崩した。
「安心してちょうだいな。ル・シリウスちゃん、アンドリューズちゃん」
「オイラもちゃん付け呼びされるんすね」
「ジークちゃんはあんな奴には負けないし、仮に二人が戦闘不能になってもあたしがちゃあんとアンドリューズちゃんをお守りしちゃうわ」
「お前の言葉はどこまで信用していいんだ」
記憶がないので、相手のデータがゼロに等しい。ル・シリウスは独り言のように呟く。
「アンドリューズを庇いながら戦えるのか、アンドリューズを連れて逃げきれるのか」
「ピースオブケイク☆ ル・シリウスちゃんはどっちがお好み?」
「どっちだっていい」
「随分と小魔界にこだわるのねん」
ディープからすれば小魔界なんて大した価値はない。あればちょっと便利なだけで、最優先するほどの重要施設はない。
「興味あるわあ」
アンドリューズは、ディープの疑問をもっともだと思った。だから漸く合点がいった。
「オイラの役所小魔界は、ある意味ル・シリウスさんにとっては最初のステージだったんすよね」
「あの時。ル・シリウスさんは多分」
「一番絶望し、」「藁にをもすがる想いで」「必死に」
「あれからもずっと折れることなく──アンタは今も、戦ってんすか」
ル・シリウスに関する記憶だけが明確で、だから余計に過去と現在がリンクする。ル・シリウスの頭の中もアンドリューズと会った時の記憶が鮮やかにあるだろう。
「うん……当然ッス。アンタはそういう人ッスから」
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【レグ×プラ】
「いやタイミング!! 魔法使いプラウです」プラウ
「俺たちに選択権はない。戦士レグルスだ」レグルス
「恒例の初見殺し炸裂ですかね。事情がわかってなお置いていかれる感が拭えませんが」プラウ
「そんなことより」レグルス
「そんなこと! く、結構大事なんですけどまあいいでしょう。そんなことよりも何が気になりますか」プラウ
「ぽっと出のアンドリューズが今一番ル・シリウスを理解してる奴みたいになっててなんかムカつくな」レグルス
「そうですか? そこんとこディープさんもル・シリウスに詳しそうですけどね。らしくないなんてなかなかどうして言えませんから」プラウ
「誰が一番ル・シリウスをわかっているかでいえばやはり師匠である俺が」レグルス
「えー? 貴方が見ているのは美化された理想なのでは? もしくはそうでありたかったという一種の願望や未練」プラウ
「ぐうの音もでないな」レグルス
「ちなみにアンドリューズさんはぽっと出の新キャラではありません。原作にもちゃんと別の姿で登場してはいました。改編しているので原型ないですけどね」プラウ
「次回。ファイノメナ第二部プロローグ、改編版。転生記録」レグルス
「原作の第一部は本筋までのストレッチなので実質ここから本編的なアレでした」プラウ
「「『再見』」」レグプラ
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