【魔界遺産】天地無用とくしゃがら

「んル・シリウスちゃ〜ん!!」


 両腕を広げ突進してくる男が見えた。まだ随分距離があるが、向こうからもこちらの姿が視認出来ているらしい。


「一人はまたお前の知り合いみたいだな」

「いやいや。全く共鳴しないから知らない人でしょ」


「再会のハグとキッスを交わしましょおぉぉお?」


「ほら、あんなに嬉しそうにはしゃいでる」

「知らんよあんな人」


「ル・シリウスちゃ〜ん!!」


「めちゃめちゃ名前呼ばれてんじゃん」

「アタシの知り合い変態ばっかみたいに思われるだろうが、気安く呼ぶなよオカマ野郎☆」


 ル・シリウスは二丁拳銃に魔力を充填し狙いを定めた。輪ゴム銃は光り輝いて特殊効果を放ちながら、一直線にオカマ野郎へ飛んでいく。


「あー。ゲームでよくある必殺技的な?」


「ああんッ」


 すんでのところで輪ゴム弾を躱したオカマが謎の動きで身をくねらせる。


「ご挨拶!!」


「きめえな。なんの生き物だアレ」

「だからどう見てもオカマ野郎でしょ」


 通り過ぎたはずの輪ゴム弾はヘアピンカーブで軌道を変えた。


「やあん、追尾式!!? 痺れちゃうん」

「あ。本気で当てに行ってる」

「当然♪」


「酷いわル・シリウスちゃん。あたし無防備なのよ」


 言いながらもオカマは「ふん!!」と男声をあげながら輪ゴムをバシ!っと両手で挟んで受け止めた。真剣白刃取りというより蚊を仕留める動きに似ていた。


「あ〜ん。お手々痛~い」

「しぶといな」


 まもなくオカマがル・シリウスたちのもとに到着した。


「どうして全力で攻撃してくるのよ。あたしは敵じゃないのよん?」

「オカマだったので☆ あと魂の共鳴もないのにアタシの名前を知ってて普通に不審」

「あたしよあたし。覚えてないのん? ディープちゃんよ」


 黙っていれば普通にそこそこイケてるお兄さん風なのに、言動がお笑いオカマバー。そんな人物に心当たりがあるかと問われればル・シリウスはふむ、と唸る。


「そんな面識あったかは不明だけど多分顔は見たことある気がするよ、残念なことに☆」

「この非常時だから知ってる顔は素直に喜んでちょうだい」

「お前、ガキのくせにオカマバーに通ってたのかよ」

「んなわけあるか。黙ってろお前も変態枠なんだよ♪」

「ル・シリウスちゃん? こちらの素敵ダンディはどちら様なの? あたしに紹介してちょうだいィィ」

「あ。黙ってます。つうかもう一人のお客さんがそろそろアレだから俺あっちの接客してこねえと」


 ジークが見据える先に、うふふとディープが口角をあげた。


「大物のお客様ね? お手伝いするわん~」

「なんであいつアンドリューズ殺そうとしてんの? 死にたいの?」


 これから戦いますって時にすげえ笑顔になんの、二人とも親戚か? そんな素朴な疑問は口にしなかった。またル・シリウスに背中を狙われるのが関の山。面倒ごとはごめんだ。


「弾に魔力を充填。なるほど」

「あら二人とも武器を持っているのね」

「ディープはアンドリューズを守ってて。他にも来るかも」

「オーケーよ」


 いかにも敵という悪意全開で、今にもアンドリューズに最終奥義をぶっぱなしてきそうなどこかの魔王。あれは誰だろうか。誰であろうと関係はない。アンドリューズの魔界再生に賛同できないアンチであるのは明白。つまりはル・シリウスの敵だ。


「遊んであげるよ、オジサン♪」

「邪魔を、するな、小娘ぇ!」


 不意に視界に割り込んできた小さな身体。小バエでも払うように腕をふるって魔力を飛ばし攻撃してくる魔王。


「そういうのはちょっと自重してくれ。混沌の星屑はゴミじゃねえ」


 ジークの放った輪ゴム弾が魔王の攻撃を無力化、否、さらに突き抜けて魔王の眉間に直撃した。


「ああん、痛そう!」


 先程素手で魔力輪ゴム弾を止めたディープが悲鳴をあげた。魔王の巨体はゆっくり後ろに倒れた。


「脳震盪?」


 ル・シリウスが魔王の様子を覗き込んだ時、勢いよく豪腕が唸りをあげる。


「ル・シリウス!!」


 デカい丸太で殴られたように、ル・シリウスの小さな身体は文字通りぶっ飛ばされた。


「しっかりしろ!」


 ジークが抱きとめた時、右手で顔を覆っていたル・シリウスが舌打ちをした。


「こっちのセリフだよ。しっかり一撃で落とせ」

「怪我は?!」

「自分の手当てくらい、自分で出来る」


 乱暴に鼻血を拭ったがすでに止血したのかそれ以上溢れてくる様子もない。


「回復術も使えんのか……」

「感心してないでさっさとあのオジサン止める☆ そろそろ戦い方思い出せたの? よちよち歩きのジークたん」

「無理ぬかせ。一発撃ったくらいで勘が戻るかよ」


「二人とも~ファイトよ~」


 ディープが大きく腕を振って応援している。


「「なんかうぜぇな」」


 その時、我慢の限界でも迎えたのか、魔王が吼えた。


「俺はこの新世界の覇者になるのだ!!!」

「はあ?」

「逆らうやつは皆殺しよ!!!」


「──悪ぃなル・シリウス。次は一撃でやるわ」

「おう」


(なんでもいいんで早く敵を倒してほしいっす! 生きた心地がしないんで!)


 アンドリューズの小魔界再生は地味に続いていた。







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