第40話⁂大蔵と彩!⁂
一九八五年バブルに突入した日本。
その頃✰三光百貨店の係長で〔SKリゾート〕の御曹司近藤史郎一家に、思いも寄らない朗報が飛び込んで来た。
それは、このバブルの波に乗り、所有していた二束三文の土地を、是非とも譲り受けたいとの、何ともありがたいお話を……それも昔愛した男、雅彦の父親が経営する会社〔佐々木不動産〕から頂いたのだ。
{ひょっとしたら雅彦に会えるかもしれない?}
早速〔佐々木不動産〕に赴いた、美しい鈴子の母彩二七歳。
この時代〔SKリゾート〕保有の、今まで二束三文だった土地までが、バブルでにわかに注目を浴び始めたのだ。
こうして〔佐々木不動産〕に呼び出された〔SKリゾート〕役員の彩。
彩も〔SKリゾート〕の幹部に名を連ねている一人ではあるが、何故彩が行かなければいけなかったのか……?
実は大蔵(満)の妻登紀子の親戚が呉服屋を営んでおり、土地を買う条件の一つとして、売り上げの落ち込んでいる親戚に赴いて、重要な上顧客になって貰う為に彩を指定したのだ。
※【大蔵と満は第二次世界大戦のどさくさに紛れて入れ替わっている。又病院のカルテも戦争で焼失、その為満は、大蔵として生きる事が出来た】
彩の父は中学の教師で、最近はギャンブルにハマって金銭的にも困窮しているが、昔は家族思いのギャンブルとは無縁の人物だった。
彩が小さい頃は裕福で、習い事三昧の日々。
運動神経抜群の彩は、体を動かす事が大好きで、あの当時一世を風靡した、ユニット金井克子、原田糸子、由美かおる、奈美悦子、江見早苗、五人娘「レ・ガールズ」に憧れてダンスを習い始めたのだ。
尚且つ踊りが大好きな彩は、幼い頃から日本舞踊も習っている。
そして、今現在も日本舞踊を習っているのだ。
その為着物は必需品。
【*西野バレエ団*
1953年に結成。1960年代以後テレビ番組に進出、活動の場を東京へ移した。
金井克子、岸ユキ、原田糸子、由美かおる、奈美悦子、江美早苗、志麻ゆき(後の四角佳子)、麻田ルミ、などを輩出した。
金井、原田、由美、奈美、江美は、バレエ団内のユニット「レ・ガールズ」として活躍した】。
当然彩も〔SKリゾート〕の幹部だから、土地の売買のノウハウは十分に叩き込まれているので、部下一人を連れて〔佐々木不動産〕に赴いた。
この時六〇歳の大蔵は、彩を見るなり何かゾクッとする、体中の血が逆流する感覚に苛まれた。
土地売買の話も大方目処が立ったので、近くの有名レストランで昼食を済ませて、部下だけは仕事が有るので返し、大蔵と彩は呉服屋に向かった。
こうして度々〔佐々木不動産〕に赴いていた彩。
※[この時既に、雅彦とリンダは父大蔵に犯された事が原因で別居中。さらに大蔵は精神病院に入院中だったが、既に退院して会社に復帰していた]
だが、一九九○年、とうとう予期せぬ恐ろしい事が起こったのだ。
この佐々木家との取引は、決まって彩と部下の一人を伴っての事なのだが、その後は決まって着物好きの彩だけ、呉服屋に直行。
彩は、最初からず~っと大蔵の異様な眼差しを感じ取っていたのだが、今上り調子の〔SKリゾート〕を何とかしたい一心で目を瞑って我慢をしていたのだ。
それと何より……。
{ひょっとしたら今度こそ雅彦に会えるかもしれない……?そして……あの青春の眩しかったひとときを、また味わえるかもしれない?}
そんな淡い期待を抱きながら、たとえ異常と感じながらも……。
{雅彦に、また会えるかもしれない?}
その気持ちが勝っているので、危険を感じながらもワザワザやって来ていたのだ。
今日も高価な着物を山ほど購入した彩は、呉服屋の従業員に。
「またいつもの住所に着物を送って下さい」
そう言い残して店を出ようとしたのだ。
すると……従業員が。
「今日は会長自ら送ってくださるそうですよ?何か……?最近人気の『ランバダ』のショ―が名古屋の有名なディスコ『キングダム』で有るらしいです。遥々本場ブラジルから有名なダンサ―がやって来ているらしく、そのショ—を是非とも奥様にお見せしたいとの事で……」
「エエエエエエ―――ッ!ひょっとして私が若い頃ダンスに明け暮れていた事を、知っていらっしゃったのかしら?アッ!それからランバダの意味『ムチで打つ』という意味らしいけど?道理で歌も情熱的で、ダンスもセクシーで過激的なんだ!」
バブル期に大ヒットしたランバダ
セクシーなダンスで一世を風靡したランバダ。
ランバダはポルトガル語。
ランバダ(ランバーダ, Lambada)とは、南米から発祥し、1980年代後半に世界的に有名になったダンス及び音楽。
日本では特に石井明美が日本語詞(作詞:麻木かおる)でカバーしている。
こうして意気揚々と車に乗り込み出掛けた彩。
「ワァ~~楽しみだわ!本場のランバダのショ―が見られるなんて!私達もマネをして踊れるのね。嬉しい!」
「本当に彩さん久しぶりにディスコに復活ですね!私のような爺さんは、彩さんの得意のダンスをゆっくり見させて頂きます」
彩はアップテンポにアレンジした多国籍グループ「KAOMA(カオマ)」が歌う『ランバダ』が大好きで胸の高鳴りを抑えることが出来ない。
彩は、〔SKリゾート〕本社がある静岡県から赴いている為、車がどこを走っているのかも把握出来ていない状況下、気が付くと車は日中だというのに薄暗い森の中。
やっと気付いた彩なのだが……。
「道、間違ってませんか~?」
「ウッフッフ~!いえいえお見せしたいものが有りまして?」
「イッイイ一体!ここは何処ですか?」
「ウッフッフ~!ここは我が家が所有する山林です。広大な敷地にログハウスも有ります」
暫く車を走らせると、やっとログハウスの前に着いた。
近くには河原もあり、魚釣りが好きだった曾祖父清が建てたものだが、雅彦も子供の時に数回連れて来られただけの場所で、虫が多く、また野生動物も出現する事から家族にはスコブル評判が悪いのだ。
その為雅彦の息子章もまだ一度も連れて来た事の無い、二〇年以上放置されたままの、忘れ去られた別荘。
「さあ着いた!彩さん車から降りなさい!」
「ディスコでランバダのショ―を見るのではなったのですか?」
「いや~?その前にこの山林の河原付近のホタルを、彩さんに見せてあげたくて、それは、それは、綺麗だから」
「…それでも…?こんな所に……」
「まあそんなこと言わずに中に入ろう」
こうして半ば強引に、ログハウスの中に入れられた彩。
それにしても、二〇年以上も使われていなかった別荘にしては、内装はそれほど荒れてはいなかったが……?
それは当然の事、使用人が時折やって来て手入れをしていたからなのだ。
「まあ~お座りください。お茶でも入れます」
こうして仕方なくソファーに腰を下ろしてお茶を飲んでいる彩。
すると背後から彩のふくよかな胸元に手を忍ばせようとする大蔵。
「キャ-――――ッ!何を……?何を……?するのですか?」
慌てて立ち上がり逃げ惑う彩、そして一気に外に逃げ出した。
すると……大蔵が今までとは打って変わって恐ろしい獣に豹変して、一気に加速して逃がして堪るものかと、猛ダッシュで追いかけて来た。
もう六十代中盤だというのに、それも胃癌だと言うのに素早い事、火事場のバカ力とはよく言ったもの、欲望が抑えられない大蔵は、最後の力を振り絞り追いまくるのだ。
それは慣れ親しんだ山林、若い彩より遥かにこの山道を熟知している。
【あれ~?大蔵は胃がんステージ四なのでは?
抗がん剤治療などで、治療次第では例えステージ四でも近年では、十年以上生きる人も沢山居る】
もう大蔵は、体調を壊し、リンダを探し当てる体力もなくなり、おまけに完全型ED( 性交渉に十分必要な勃起をまったく得られず、持続する事もできない)の為に最近では仕事だけが唯一の生きがいになって居るのでは?
実は………?
リンダを探し当てることが出来ずにいた時に、標的彩に巡り合い・・・
また、完全型ED( 性交渉に十分必要な勃起をまったく得られず、持続する事もできない)であるのは事実。
それでも欲望は抑えきれないのだ。
イヤ!そのはがゆさから余計に異常性に拍車が掛かっているのだ。
あっという間に追い付かれてしまった彩。
そして……下着の中に手を忍ばせて、彩の衣服を剝ぎ取ろうとする太蔵。
「ウッフッフッフッ~!アァ~!我慢が出来ない!」
「キャ-!キャ――――ッ!」
手に嚙みついて逃げ惑う彩。
「クッソ――――――――ッ!」
尚も逃げ惑い追い詰められて別荘に逃げ込み””カチャリ””と鍵を掛けた。
これで一安心、だがいつ裏口から入ってくるかもしれない、そう思い、死ぬか生きるかの瀬戸際。
台所に有った包丁を取り出し擁護の為に準備した。
すると……閉まっていた裏口の鍵を””カチャリ””と開けて大蔵が異様な表情で、勢いよく飛び込んで来た。
慌てて二階に逃げる彩、大蔵も彩を捕まえようと、駆け足で二階に駆け上がって来る。
「ウッフッフッフ~!この日をどれだけ待ち望んだ事か!アアアア――――ッ!彩さん!」
「ヤッヤメテ下さい!変な事したら主人に言います。それでも良いんですか?」
「ウッフッフッフ~!そんな事……ウッフッフッフ~!出来る筈がない!彩さんあなたを……ウッフッフッフ~!殺したい!アアァ~!」
「キャ-!ヤッヤメテ!そんな事をしたらこの包丁で、切り刻んでやる!」
「アアア~!やれるものならやってみろ?小癪な―――――ッ!」
そして、彩に飛び付き首を一気に締め付ける大蔵。
「ウゥ~ッ!クッ苦しいウウウウッ!」
「ウッフッフッフ~!」
そして更に、彩の下着に手を伸ばした大蔵。
その時に隠し持っていた包丁を、下腹部に思いっきり突き刺した彩。
すると……大蔵がもがき苦しみテラスから転げ落ちそうになった。
だが、咄嗟に彩の足をしっかり握って捕まり最後の悪あがきで、落ちるのを食い止めようとした。
だが、彩もこのケダモノ太蔵の手を振り払おうとしたが、その時彩までが、ズズズ——ッ!っと思いっ切り引きずられて大蔵諸共庭に、真っ逆さまに落ちたのだ。
運が悪い事に駐車場付近だったので、一面コンクリ-トが敷き詰めてあり二人共即死。
こうして、帰って来ない大蔵と彩の捜索願が出され、高速道路の監視カメラから探し当て何とか探し出すことが出来た。
まさかこんな山奥に居ようとは夢にも思わなかったので、捜索に手間がかかり一ヶ月後に発見されたのだった。。
だが、そんな餌食を野生動物が放っておく訳もなく、骨の髄まで食い尽くされ遺体は跡形もなく消え骨だけが残っていた。
真夏という事も有り、ベランダにカビカビに乾いた血塗られた包丁を発見、更には包丁には彩の血痕と大蔵の血痕が付着。
こんな山奥に誰かが訪れた形跡もない事から、第三者の犯行説は考えられない。
大蔵と彩二人の仕事関係のいざこざなのか?それとも痴情の縺れから覚悟の心中なのか?
大蔵と彩の死は謎を残したまま終焉。
両者が亡くなった今、死亡動機は解明出来ぬまま終息した。
だが、この事件に異議を唱え地団駄を踏んでいる者がいる!
その恨み、憎しみは、想像を絶する到底推し量ることの出来ない巨大なものになっていた。
そして家族に襲い掛かって来るのだ。
【ランバダの原曲は、ボリビアを代表するフォルクローレグループのロス・カルカスの『Llorando se fue(泣きながら)』南米のフォルクローレそのままの哀愁漂う曲調だったがが、フランスで活躍していた多国籍グループ「KAOMA(カオマ)」がアップテンポにアレンジした】
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