第36話⁂大蔵と満!⁂


三重県伊勢市の養父母の元に帰った満では有ったが、何か…今までとは違う……あれだけ可愛がってくれていた養父母の…何か………?今までとは違う…冷めた視線に満は、大蔵に無性に会いたくなって、居ても立っても居られなくなった。


こうして満はこの佐々木家で生活するようになったのだが?


「仕方ない!人にバレないように……世間様の目も有るから……蔵の一室に閉じ込めておき!」

乳母日傘の御息女たるお嬢様の御言葉とは程遠い、この松の物言いには、只々呆れるばかり。


それでもあの時代双子は『望まれずに生まれてきた子』『存在が不吉な子供』と忌み嫌われていた時代、致し方のない事。


この鬼のような姑松が、満をよくもこの家に置くことを承諾したものだが、実はそれには訳が有るのだ。


それは、昔は流行り病で亡くなる子も大勢いた時代。

万が一大事な跡取りが、亡くなった時の事を考えての苦肉の策なのだ。



八重にして見れば{双子で生まれたばかりに、この様な酷い目に合ってかわいそうに!}

不憫で不憫で仕方ない八重は、姑の目を盗んで時折蔵に足を運んでいる。


それでも…親の思いとは裏腹に、最初の内は太蔵と満も秘密基地だと喜んで、傍若無人に蔵の中を探検しまくっていたのだが………。


腕白坊主の太蔵と満は、人の事などお構いなしに蔵だけに飽き足らず、町屋や農村など至る所で目撃される様になって来ているのだ。


これに業を煮やした松は完全にブチ切れた。

「恥ずかしい!双子が生まれた事を世間様に隠しているのに、何て恥さらしな事をやってくれるんだい?『望まれずに生まれてきた子』『存在が不吉な子供』満お前はそういう存在なんだ。出歩いたら承知しないからね!」


「お母様と満に酷い事ばかり言って!おばあちゃんなんか大嫌いだ!クソババ――ッ!!!」


満も大蔵に続けとばかりに「クソババ―――――ッ!!!」


「ウ~ン~もう許せない!こんな悪ガキ!」

そう言って松は二人を竹刀で散々殴り、蔵の一室に満を閉じ込めてしまった。


こうして満は佐々木家で生活を開始したのだが………?


それは、想像だに出来ないほどの、壮絶な過酷な生活の連続だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

実は大蔵は、姑松の目を盗んでチャッカリ蔵の満の部屋の鍵を、拝借していた。


それは、蔵生活を余儀なくされている満を、何とか出してやりたい。

そんな思いと、それから二人が入れ替わったら見破られるのか………?

試してみたくなったのもあるのだ。


すると……存外気付かれないものだと感じる今日この頃。

「ワァ―――ッ!全然気付かれない!」


面白くなった二人は、益々エスカレ-トする一方。

それは、どういう事かと言うと、最近は学校にまで入れ替わり通っているのだ。


またそれは、家族や友達の反応を見るのが楽しいのは勿論の事、大蔵としても『忌み子』として、まるで罪人のような扱いの、あまりにも不憫な状況に置かれている満を、おもんばかっての苦肉の策でもあるのだ。


だが、当然辛い事ばかりではない、蔵に訪れる訪問者。

それは親戚の綺麗なお姉ちゃん。

人様に知られない様に、こっそりと勉強を教えに来てくれるお姉ちゃんに、子供ながらに、何か?ほのかに熱いものを感じる満。


また他にも楽しい事は有る。

「こんな蔵に閉じ込めて可哀想に!」


両親と大蔵が不憫に思い、こっそりと家族で遠出の旅行にも連れて行ってくれているのだ。


だが、日々の生活の中でとんでもない事件にも遭遇。

美しい母八重の絶対に有ってはならない淫らな姿を、目撃させられる羽目になる。


やがてあの安田太郎との関係を嗅ぎつけられた松に、散々阿鼻雑言を浴びせかけられる母八重。


「男をたぶらかす事しか能のない淫乱女、不吉な忌み子しか産めない女!」


決して自分の意志で行った訳でも無い被害者の母に、この様な酷い言葉を浴びせかける姑松。


散々いじめられる母の姿、それは想像に難くない悪影響を満に与えた。


こうして万が一大蔵に何かあった時の替え玉として、成長した満だったのだが、

等々双子の事実を気付かれてしまう。


大蔵はこの時、旧制中学四年生の十五歳、今日もいつものように入れ替わったのだが、今日はいつもの野郎達と図書館に向かった満。


すると……たまたま大蔵に密かに、思いを寄せる高等女学校に通う十四歳の女の子『A子』も女友達と図書館に来ていて、偶然にも向かい側に座ったのだ。


その時に、首筋に有る大きな黒子に気付いた『A子』。

{詰襟で隠れて分からなかったが?あれ~?この人、大蔵さんじゃ~無い!大蔵の友達と一緒にいるけど、首筋に有る大きな黒子、絶対大蔵さんは無かったわ!それから雰囲気も違う!ヨクヨク見ると二重瞼も若干違う!}


こうして自分が想いを寄せている男子の変化に、いち早く気付いた『A子』は、居ても立っても居られず、時折話すまでの間柄になって居た大蔵の友達、健太郎を呼び出し「絶対にあの人は大蔵じゃ~無いわよ!絶対に!絶対に!」


その噂はあっという間に広がり、とうとう松の知る所となったのだ。

こうしてこんな牢獄のような蔵の一室に閉じ込められて、自由に出歩くことが出来なくなった満は、とんでもない男に変貌してしまうのだ。


「アアアアアアアア!!ああああああああ!我慢が出来ない!アアアアアアアア!!!」














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