第35話⁂忌み子!⁂
大蔵は、大正十四年の十月に誕生した佐々木家の待望の男の赤ちゃん。
だが……気位の高い華族出身の姑松は、大蔵を初孫だというのに最初の内は、抱こうともしなかった。
たとえ後添えと言え、この嫁八重が気に食わくて仕方がないのだ。
それは、自分とあまりにも違う出自と芸者上がりの、この嫁が許せないのだ。
「この由緒正しい大地主一家に、たかが芸者上がりの分際が!」
それでも…先妻には子供が無く、やっと授かった待望の赤ちゃん誕生に松も、心なしか上機嫌。
待ち望んでいたのも束の間、なんと縁起の悪い双子の男の赤ちゃんが誕生したのだ。
昔から双子は「忌み子」と言われて、双子として産まれた両兄弟を蔑んだり、双子の弟または兄だけに向けた差別的な意味合いがあった。
「忌」という言葉の意味通り、忌み子は「不浄なもの」「死」「避けたいもの」といった意味で使われていたのだ。
ましてやこの佐々木家は、代々大地主のお家柄。
跡継ぎ問題が、勃発する可能性があるからだ。
それを危惧した舅栄一と姑松は、考え抜いた挙句、双子の一人を赤ちゃんの内に、養子に出したのだ。
それは、あの時代致し方のない事。
不吉な子、世継ぎ争いの火種になるなど諸々の事もあり、この家の跡継ぎ清と嫁八重も、致し方なく養子に出す事を承諾したのだ。
こうして養子に出された赤ちゃんは、子供に恵まれない三重県伊勢市のコメ問屋の、跡継ぎとして成長した。
だが……やっと、それがたとえ貰い子だとしても、授かることの出来た我が子満が、可愛くて可愛くて甘やかせ放題。
それが祟ったのか、手の付けられない腕白に育ってしまったのだ。
気に食わないと友達を殴る蹴る、崖から突き落とす、またある時は友達の物は自分の物と、勝手にカバンから拝借してくる有り様。
幾ら立派なコメ問屋の息子と言えども、こんな事がいつまでもまかり通るわけが無い。
苦情が相次いだ。
「可愛い息子に勝手な言い掛かりだ!人の大切な息子にケチを付けやがって――ッ!」
最初の内は怒り心頭だった両親なのだが、あまりにも苦情が多いので毎夜毎夜、満が寝静まった頃を見計らって家族会議の毎日。
「俺たちが可愛い余りに甘やかせ過ぎたからだな~?」
「本当に!これからは悪い事は厳しく注意しましょうね」
今までは、欲しいと言えば何でも買ってくれたし、あそこに行きたいと言えば連れて行ってくれた両親の態度が百八十度逆転。
それに、ついて行けない満は「何で急に変わったんだ?」
暑い夏の夜眠れなくて夜中にトイレに行こうとすると・・・
何やら両親のひそひそ話……すると……『満は貰い子…』の言葉が妙に……耳に焼き付いて……満は、疑問に思って耳を傾けて聞いたのだ。
すると……満は赤ちゃんの時、愛知県名古屋市天白区梅が丘○-○○に住む佐々木家の子供で、貰い子に出されたとの事。
【養子縁組の場合、実親の身元を明かさないのが普通なのだが?例外もある】
{エエエエエエ―――――――――――ッ!俺はこの家の本当の子供じゃないんだ。だから最近扱いが悪いんだ………どうせ本当の子供じゃないから可愛くないんだ!}
そう思い八歳のある日、等々家出を決行した。
そして遥々三重県から愛知県まで、こんなに幼いながらも逃避行してしまった満。
ビックリしたのは誰有ろう、この佐々木家の家族。
最初のうちは{仕方なく暫くは家で面倒見るしかない。でもその内、養父母の元に返さなくては?}と算段していた家族。
だが、双子の兄太蔵とめっぽう馬が合う為、家に帰りたくなくなった満なのだ。
それは、勿論大蔵も同じ事。
ひと月以上も有る夏休み期間も終わりを告げようとしている。
だが、困った事に養子縁組に出す場合、相手方の職業や住所などの身元は明かさないと言う条件が殆ど。
満だけが分かっているので、三重県に有るコメ問屋の近くまで送ったのだ。
だが、双子というもの、どういう訳か二人で一つみたいな、一心同体の様な、前世ではひょっとして一つだったのでは?と思うくらいに深いものが有るのだ。
それは、兄太蔵とて同じ思い、妙に馬が合い、この一ヶ月間の楽しかった事を思うと{どうしても離れたくない!}そう強く思うのだ。
こうして満は密かに逆戻りして、佐々木家の蔵に秘密基地と題して、住み着いてしまったのだ。
それを知った姑松は、カンカンに怒り三重県のコメ問屋に追い返した。
だが、養父母の方も、可愛い息子満を必死に暫くは探し回っていたが……?
気持ちのどこかに、あまりにも手の付けられない腕白ぶりに、居なくなってくれてほっとしている自分達に気付いたのだ。
あいにく三重県でも大店のコメ問屋。
早速お節介のおばさん達に、養子縁組の話を持ち掛けられる有り様。
そこに腕白坊主が帰って来たのだが、養父母にして見ても愛情はあるのだが、問題の多過ぎるこの子を我が家の跡継ぎにして良いものか………?考えあぐねて居る。
{幾らでもまともな子供も居るのに?}
養父母の余りにも今までとは違う冷めた視線に、満は大蔵に無性に会いたくなって、居ても立っても居られなくなった。
こうして佐々木家に逆戻り。
{また大蔵が何とか取り持ってくれるに違いない!}
甘い気持ちで佐々木家に戻ったのだ。
だが、佐々木家としては、しばらくの間だから大事に扱っていたが、今更戻って来られたとしても、迷惑の何ものでもないのだ。
あの時代双子は『忌み子』と忌み嫌われ、不吉な子、世継ぎ争いの火種などの理由で、生まれてすぐに殺された事も有った。
望まない子の出現で、姑松の満いじめと母八重いじめに拍車が掛かる。
「出自が悪い上に、こんな不吉な子供を生んだ八重お前は我が家の厄介者だ!さっさと、この不吉な子供を連れて出て行きな!」
「このクソババ~!満をいじめるな!」
果敢に満を守ろうとする孫の太蔵。
更には息子の清も。
「お袋あんまりだよ、何もそこまでいう事無いじゃ~ないか?」
「もう~!皆して私を責める気かい?私は何も悪いことしていない!この芸者上がりの女が悪いんだ!ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」
こうして満はこの佐々木家で生活するようになったのだが?
「仕方ない!人にバレないように……世間様の目も有るから……蔵に閉じ込めておき!」
こうして満は佐々木家で生活を開始したのだが………?
壮絶な生活が待っているのだ。
それは、想像だに出来ないほどの、壮絶ないじめと暴力が待っているのだった。
⁂参考まで⁂
【「忌み子」という言葉には、双子として産まれた両兄弟を蔑んだり、双子の弟または兄だけに向けた差別的な意味合いがある。「忌」という言葉の意味通り、忌み子は「不浄なもの」「死」「避けたいもの」といった意味で使われていた。
昔は双子が忌み子と言われていた時代があったが★現在では、双子はむしろ珍しく重宝されるものとなっている★】
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