第26話⁂リンダに男の影⁈⁂




暫くすると………東京駅が見えて来て、裏手の路地に入ったかと思うと、その近くに有るモーテルに消えたのだ。

雅彦と彩がまさか!このような事になって居ようとは………?


この事実を目の前に突き付けられたリンダは、現実が受け止めきれずに、只々涙がとめどなく溢れるのであった。


{今まで見て来た雅彦は、私が勝手に作り上げた只の虚構の人物だったのだろうか?

私の目の前で、彩ちゃんとモーテルに入って行くなんて想像も出来なかった。夢にも思わなかった………お義父さんとの一件では、『お前の事が心配だから家を出てリンダお前と結婚する!』と言ってくれた雅彦のあの言葉は、一体何だったの?あれは噓だったの!それとも……只の気休めだったの?}

愛する雅彦の全てが音を立てて崩れて行くのであった。



{一方の彩ちゃんも、いつも笑顔を絶やさない、あの自分の事はさて置き、人の事を第一に考える、虫一匹殺せない優しさの塊の彩ちゃんが、本当は仏様の仮面を被った只の偽善者だったとは?

優しい聖女のような眼差しで、私と雅彦の間を取り持つふりをして、休憩時間にワザと時間まで割いて相談に乗ってくれていたのも、只々二人の現在の関係をチェックしていただけなのね?そして雅彦を奪い取るチャンスを狙っていたのね………?

私が『雅彦と喧嘩した!』と話したら『大丈夫雅彦さんは悪気は無いのよ。あなたの事を心から愛しているのよ!』そして暫くしてエレベーターで会った時にも『最近はもう仲良くなれたの?』あの親切心は、只二人の関係を探り出そうとしていただけなのね……?}


彩の恐ろしい裏の顏を垣間見た気がして、許せないのと同時に{何て恐ろしい娘なのだろう………?相談に乗ってくれるフリをして近づいて来て、雅彦を奪っておきながら、涼しい顔でよくもしゃ~しゃ~と話が出来たものね!}


雅彦と彩二人の全てが許せなく、今すぐあのモ―テルに飛び込み二人を刺し殺して、自分も死にたい衝動に駆られるリンダ。


こうして苦しみ考えあぐねたリンダは、雅彦との連絡も立ち切り、南紀白浜の『ホテルパシフィックOCEAN・南紀白浜』に異動届をだしたのだ。


まあ~ホテル側にしても専属ミュ-ジシャン達を、月替わりで回して行く方がマンネリ防止にもなるし、ホテルの看板ミュ-ジシャンに辞められても困るので、お互いの利害が一致してOKが出たのだ。



一方の雅彦にして見れば、彩に先導されるがままに男女関係になってしまい、もう後には引けないという思いと、俺は本当にこれで良いのだろうか?と思う疑念が徐々に大きくなり始めている。


そしてリンダは、何故行先も告げずに、勝手にいなくなったのだろうか………?

ひょっとして俺と彩の関係を知ってしまったからなのだろうか?


『ホテルパシフィックOCEAN・湘南』側も俺がリンダの彼氏だという事を知っているのに、問い合わせをしても只々『守秘義務がありますから?』の一点張り。

俺はどうすればいいんだ。


可愛いと思う反面、時折感じる氷の様に冷たい彩の性格。

{心底優しいリンダとは全然違う!俺とリンダが付き合っているのを知って居ながら図々しく割り込んで来た彩の事を煩わしい、重荷に思う今日この頃}


結婚の約束までしたリンダが、突如目の前から居なくなり今更ながらに、逃がした魚は大きいと只々悔いる雅彦なのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


雅彦は大学を卒業して、実務補修所通いも残すところあと一年となって居た。

彩と新鮮な魚が食べられる師崎まで、父の愛車ポルシェを走らせ美味しい新鮮な魚を食べにやって来たのだ。


イシガレイ、みる貝、蒸しダコ、真鯛の御造りと、温物の焼きアナゴ、アワビの玉汁蒸し、車海老等々を堪能して家路を急いでいると『ホテルパシフィックOCEAN・内海』の看板が海沿いに見えて来た。


{そう言えばリンダが、父大蔵に強姦まがいの事をされて、父から逃げる為に『ホテルパシフィックOCEAN・内海』に異動届を出すと言っていたが………?

ひょっとしてここに勤務しているのでは?}

未だに未練タラタラな雅彦。


「オイ!俺達『ホテルパシフィックOCEAN・内海』に今日泊らないか?燃えるような夕陽と朝焼けがピンク色に染まり最高らしいぞ?」


「本当に~!良いわね!新鮮な魚も食べられるし」


「……でも飛び込み客を受け入れてくれるかどうかなんだよね?」

そこで『ホテルパシフィックOCEAN・内海』に到着して、早速受付で確認すると、あいにく空室が有った為に入室出来たのだ。


こうして『ホテルパシフィックOCEAN・内海』にチェックインした二人は、夕食まで暫く時間が有るので、一階の温泉大浴場に向かった。


男風呂と女風呂に別れているので、雅彦は男風呂の矢印の方向に向かったのだが、一階の宴会ホールに、琥珀と書かれた重厚な看板が掲げてあるのを発見。

二十時からのショ―の看板が掛かっているではないか?


{エエエエエエ―――ッ!リンダ………リンダのポスター!アアアアアア!リンダのショ―が有るのだ!}


居ても立っても居られず早速、受付で「今日出演するリンダさんの知り合いですが?リンダさんはいますか?」と訪ねた。


すると今リンダは、お友達とお出掛け中との事。

裏口の駐車場付近で待っていると、高級車に乗ったリンダと、お金持ちそうなブルジョア風の若い男が、さも楽しそうに帰って来た。


いかにも金満家風の、イブサンロ-ランのレザ―ジャケットをさりげなく着こなし、あちこちに高級な腕時計やアクセサリーを、ジャラジャラ付けて居るその男性に、何か危険な嫌みめいた不信感さえ覚える雅彦。


父大蔵が、「いかにも金持ちでござれ風の男は気を付けた方がいい!」と言っていたのを思い出したのだ。


「本当のお金持ちは変に演出しなくても「自分」という存在で勝負しているから、何も着飾らなくて只清潔をモットウにしている」


そう言っていた事を思い出し、リンダの幸せそうな顔を見るにつけ、世間知らずのリンダがとんでもない毒牙に引っ掛かり、何かとんでもない取り返しの付かない事にならなければいいが?不安を拭い切れないのだ。


この高級品をジャラジャラ身に付けて居る男は、一体何者なのか?


【師崎(もろざき)は、愛知県知多郡南知多町の大字。

知多半島の先端に位置し北から南東は三河湾(知多湾)、南は伊勢湾に接する。三河湾国定公園、南知多県立自然公園に指定をされており、羽豆岬がある。

三河湾を介して愛知三島の日間賀島、篠島、佐久島(西尾市)とも接する】



【公認会計士試験合格者となった後①実務経験(2年間)②補習所通学(基本3年間)③修了考査合格の3つの要件を満たす必要がある】





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