第15話⁂大蔵の退院!⁂


 過去の良い思い出も悪い思い出も、時間の経過と共に忘れ去られると言うが、姑の登紀子の場合は違う。

 それどころか日増しに嫁と孫の顔を見ると、あの日の光景がフラッシュバックして来て、憎さが倍増するのだった。


 そんな耐え難い苦痛に苛まれていた姑の登紀子に、追い打ちをかけるように、息子雅彦のあまりの言葉に啞然とする登紀子。


「リンダと章を、これ以上虐めるのであれば家を出る!」


 {何故私が悪者にならなくてはならないの?私は……私は……犠牲者よ。夫を奪ってその子供を身籠った、あのふしだらなリンダが悪いのに酷い酷過ぎ!あのリンダが夫の太蔵に色目を使いたぶらかしたから、すっかりその気になりリンダに夢中になり、あのような暴挙に出たに決まっている………そんな被害者の可哀想な私を捨てて、私を地獄に突き落とした、あの憎いリンダと出て行くだと~?許せない!本来ならばあの淫乱嫁と孫の章を追い出すのが筋なのに………何故私が捨てられなくてはならないの?}

 自暴自棄になった登紀子は精神的に追い詰められて、又雅彦を何としても繋ぎ止める為に、睡眠薬を大量に服用してあわや大惨事となる所だったのだ。


 それでも…何とか容態も収まり元に戻った登紀子だったのだが、雅彦の腹の中が分かった登紀子は、益々リンダに危機感と憎しみを募らせていった。


 {夫を奪って骨抜きにした挙句、今度はお腹を痛めて生んだ、たった一人の我が子まで奪おうとは、あんな女この家から追い出してやる!}


 そこで思い付いたのが、雅彦にリンダの悪口の有る事無い事吹き込んで、追い出すと言う作戦を思い付いたのだ。


 リンダが家を留守にしている僅かな時間帯を見計らって、忙しい雅彦のチョットした時間や休日に散々悪口を吹き込んだのだ。


「あの女が悪いのよ!お父さんだって全く相手にされていないのに、そんな事する訳無いじゃ~ないの?きっとリンダがたぶらかしたに決まっている。雅彦目を覚ましなさい!あんな男を狂わせる女と一緒に居たら今度は、雅彦あなたがお父さんの様に狂ってしまうわよ……別れなさい!」


「もう!おふくろ~何を言っているんだい?『オヤジがリンダにあんな酷い事をするなんて、本当にリンダが可哀想!』当時はそんな事言っていたくせに、なんだよ~今更そんな事言ったって通用しないさ!」


 それでも…リンダの顔を見ると、ふっと母の言葉が頭をよぎり「もしかして……?この虫も殺さぬ聖女の仮面の裏側には、本来の姿、淫乱と魔性の血が流れているのでは?」


 そう思うと愛情が深い分憎しみが倍増して、いっその事自分の命諸共今直ぐ、この魔性の女リンダと章を巻き添えに、この苦しみから解放される為の最終手段………二人を殺害して後追い自殺をする事が、この苦しみから解放される唯一の手段だと言う思いに辿り着いたのだった。


「リンダ俺もう耐えられない!一緒に死のう!」


「私は……私は……そんな事………出来ない!だって……だって……可愛い章がいるんだもの」


 こうしてリンダは、もう我慢の限界を感じて雅彦との別居を決意した。

 当然のことながら、章は大蔵の血の繋がった息子であり、戸籍上は雅彦の長男である事から、相当額の金額を章名義の通帳に振り込んでもらい別居したので、当面は金銭面の苦労は無い。

 こうしてリンダは行先も告げずに家を出た。


 あんなに嫉妬に狂っていた雅彦だが、いざ居なくなって見ると寂しくて居ても立っても居られないのだ。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 月日は流れて*・✶一九八〇年代後半の事だ。

 章も小学生高学年になり母のリンダは、ヨーロピアン風「カフェレストラン・ポエム」を知多半島の高台の海沿いにオープンさせた。


 テラス席から海風を感じる、ヨーロピアン風の「カフェレストラン・ポエム」


 丘の上にあるテラス席からは雄大な海が見おろせて、白を基調とした外観もおしゃれでかわいくデコレーションされていて、中世ヨーロッパのお姫様にでもなったような錯覚が、押し寄せて来る佇まいのレストランなのである。


 時代はバブル真っ盛り、このおしゃれなレストランには休日ともなれば、若者や家族連れが押し寄せて大盛況。


 また、海に沈みゆく夕日を背景に、風力発電の風車や周辺の街並がシルエットとして浮かび上がり、幻想的な光景を見せてくれ*・✶。


 芸術品のように美しいケーキやパフェが頂ける、小高い丘の上にある洋館カフェで、行列ができる愛知の有名店。

 景色もパフェも最高で、わざわざ行く価値があるカフェという口コミが有る有名店。


 リンダは今、息子の章と束の間の自由と幸せに浸っている。

 それでも…ド素人のリンダだけではこの様な成功は絶対に無いのである。


 実は『ホテルパシフィックOCEAN・内海』の頃のお客さんで料理界の重鎮、横井氏の後ろ盾有っての、この繫盛ぶりなのだ。


 一体どういう事なのか?

 やはりリンダは魔性の女で男を利用するだけ利用して、男達を不幸のどん底に突き落とす魔性の女なのだろうか?


 そして幸せも束の間。

 実はあの父大蔵が既に退院して家に帰っているそうなのだが?

 雅彦と大蔵に探し当てられ……。


 やがて章一家が焼き殺された事実が、徐々に頭をもたげて来るのだった。

 あの火事は不慮の事故だったのか?………それとも………誰かの悪意によって火事を装い消されたものなのか?













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