第12話⁂異常行動!⁂
大蔵が、親にも内緒で結婚した雅彦とリンダへの不信感で話し合いの為に、夕方五時に家を出た。
{あの『ホテルパシフィックOCEAN・内海』で、私があなたを見ていた事を何も知らないのね?…私は、大蔵が久しぶりに誘ってくれた事が嬉しくて!嬉しくて!片時も離れたくなくて温泉に浸かりに行ったあなたの後を付けたのよ………するとホールに入って行き、何を思ったのか?その挙句に、ベルマンと会話していたかと思うと急に、今まで見た事も無い怖い顔で、リンダ、リンダと知らない女性の名前を連呼してベルマンと支配人を怒鳴り散らしているんだもの?………あの時から不信感を抱いていたのよ……それから、こんな早い時間に雅彦がいる筈が無いのに、二人切りで会うなんて怪しい?}
不審に思った登紀子はこっそりタクシ―で大蔵の車を付けた。
やがて三○分くらいで名古屋市中区のコ-ポ笠岡に到着。
大蔵がベルを押すと、暫くして何も知らないリンダが玄関のドアを開けた。
すると大蔵の姿に驚いたリンダは、顔を強張らせドアを強引に閉めようとするが、大蔵がそれを押しのけて一瞬で部屋に入り込んだのだ。
登紀子は初めて見るリンダのあまりの美しさにビックリ、雅彦の嫁として微笑ましくも嬉しい反面、何か恐ろしい事が起こるのではと思う、危機感が襲って来るのだった。
{これはただ事ではない!}
音を立てないように、慌てて二階に駆け上がる登紀子。
一方の大蔵は、部屋の中に強引に押し入り、何を血迷ったのか?
この後、とんでもない行動に出るのだった。
「ああ~!リンダ寂しかっただろう。やっと会いに来てやる事が出来た!……遅くなってごめんね!」
リンダが狭いアパ-トの部屋の中を逃げ惑うのも聞かずに、執拗に付け回す大蔵。
「キャ――――――――ッ!ヤッ止めて――――ッ!」
「ナッ何を言っているんだ~?リンダは、俺の事を愛しているんだろう?………素直になりな。さあ俺がリンダを抱いてやる!」
押し倒して嫌がるのも聞かずに、押さえ付け
「ヤッヤメテ――――――――ッ!」
一方のアパ-トの隅で固唾を呑んで見ていた妻登紀子は、{あんなに嫌がっているのに強引に部屋に押し入ったが、何かとんでもない事が起こるのでは?}
そう思い、音を立てないようにそろ~りと二階の部屋の前に着いたのだが、その時何か物音が?
その時部屋の中では、今まさにリンダの衣服を剝ぎ取り、嫌がるのも聞かずに強引に事に及ぼうとする大蔵。
するとその時、余りのリンダの抵抗に小さな茶箪笥が倒れて””バタン””と大きな音がした。
登紀子は物凄い音に{これはただ事ではない!}””カチャカチャ””ドアを開けようとするが、開かず仕舞い。
「開けて―――ッ!開けて―――ッ!」と叫んでも梨のつぶて。
そこで慌てて住人に大家さんの電話番号を聞き合鍵を急遽届けて貰ったのだ。
慌てて部屋の中に入ると、今まさに行為に及んでいる最中。
「あなた!何をしているの?ヤメナサイ!」
すると興奮状態の大蔵が妻の登紀子を思いっきり蹴飛ばした。
{妻の私を蹴飛ばして尚も止めずにこの醜態!}
余りのショックに成す術もなく只々泣き伏す登紀子。
一体どうしてこの様な恐ろしい事になってしまったのか?
実は、大蔵は、『ホテルパシフィックOCEAN・内海』でリンダが、もう既に結婚していると知って、鈍器で頭を殴られたほどのショックを受けたのだが、更に結婚相手が名古屋在住の佐々木という男と聞いて、まさかとは思うがひょっとして息子の雅彦では?不安に苛まれてWショックを受けていたのだ。
あんなに思い焦がれたリンダが、事も有ろうに一番有って欲しくない息子の雅彦と、ひょっとしたら結婚しているかも知れない、強迫観念に苛まれていたのだ。
そんな不安な日々が続いた挙句に、興信所に依頼した現実が余りにもショック過ぎて現実が付いて行かず、また現実を到底受け入れる事が出来なくて、やがて、都合のいい妄想に駆られるようになり、挙句には妄想性障害を発症。
***妄想性障害***
【被愛型:他者が自分を愛していると勝手に確信する。電話,手紙,監視,またはストーカー行為を手段として妄想の対象と接触しようとする。また、この亜型の患者は、この様な行動から法律を犯す可能性がある】
恐ろしい事です。
この家族はどうなってしまうのか………?
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