第6話 同じ会社なのにね

 現場は夏は暑く、冬は寒い。

 夏はヘルメットをかぶるのも嫌だが、冬はドカジャンでも寒い。

 手が足りない時に現場にはよく行き、フォークリフトを運転したり、荷積み、荷だしもします。


 でもね、春と秋は気持ちいいです。

 特に春。

 桜の木がいくつもあり、裏には山桜もありました。きれいでしたね、あれはまた見に行きたいですね。


 4月。

 いつもの仕出しのお弁当屋さんから、390円のお弁当以外に豪華なカタログが届きます。

「なんですか…」

 吉村さんに僕は訊きました。

 昼は駅で買ってきたコンビニのおにぎりを食べてすますことが多いですが、たまに仕出しのお弁当も食べます。

 でも今日渡されたお弁当のカタログはちょっと高めです。


「今週の金曜日にね、お花見しようと思ってね」

 毎年1回は昼休憩のさいに事務所の前にある桜の木の下でお花見をするそうです。

 その時はみんな少し豪華なお弁当を注文してささやかなぜいたく、ささやかなお花見を楽しむらしい。

「僕もいいんですか…」

「もちろんよ…、桜、きれいだからね」


 僕はハンバーグ弁当にしました。


 当日、晴れましたね。

 桜は八分咲きぐらいで、まだ枝に葉もなく、東京とは違う広い広い空に映えてました。

 みなさん手分けしてダンボールを桜の木の下に敷いてます。

 ダンボール、いくらでもありますから。

 捨てるダンボール、いらないダンボール、もう使わないダンボール、古いベビー用品の梱包に使っていたものがたくさんね。

 思い思いに座り、時には桜を見上げ、ときにはお弁当に向き合い、時にはおしゃべりしながら、いい時間を過ごしてました。

 

「いいですね…、会社でお花見できるなんて…」

 

 吉村さんに僕は素直な今の気持ちを伝えました。

ハンバーグ弁当は意外とおいしかったです。

「いいところでしょ…、筑波倉庫も捨てたもんじゃないでしょ」

 うん、いいところだ、同じ会社でも部署によってこんなに違うんだね。

 

 いっとき本社のアパレル事業部にシステム支援のため一人で派遣されていたけれど、そことも違うし、システム室では他のみんなは黙々と仕事をしていて、販売物流なんて広い分野を担当していた僕は、

「電話が来るのもしゃべってるのも俺だけじゃん」

 ってね、思ってました。

 静かでした、システム室。


 ここは“インゲンの苗”や“みかん”を

もらったり“鹿”がいたり、

“薬きょう”が落ちていたり、“パターゴルフのコース”があったりして面白いね。

 おまけにお花見まで昼の休憩時間にできる。


 同じ会社なのに…。

 いろいろと変わった体験もできるし、みなさんおだやかなんですね。


 現場だから仕事は大変です。

 だけど、ここはやっぱりいいところです。

              

               了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異動先はロジスティクス @J2130

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ