第3話 普通だそうです

 本社からの異動で、近藤さんという人が来た。

 この倉庫の総務をやるそうだ。

 そうゆうのが得意なんでしょうね。


 この人のおかげでいろいろと設備改善がありましたが、来た当初相談されました。

 僕だってまだ慣れてないのにね。


「堀さん、駐車場の先の河原へ出る道にね、こんなものがあった…」

 渡されたのが、うまい棒までいかないが、それより細い赤いプラスチックの筒、その先なのか後ろなのかに薄い金属が付いている。


「たぶん、これ散弾銃の薬きょうだと思うんだよね…」

 初めて見た、この筒の中に散弾が詰まっているのかな…。


「そうなんですか…」

 わからないもんね。


「あぶないよね」

「まあ、そうですね…」

「警察に行こうかと思ってさ…」

「はぁ…」

 悩まれているようだ。


***


 休憩中に食堂でお茶を飲む、

 パートのおばさま方といっしょに雑談をする。

 面白いよね、お菓子ももらえるし。


「堀さん、さっき近藤さんと話してたよね」

 吉村さん、個別包装されたおせんべいを僕にくれたあとに言った。

「ああ、なんか散弾の薬きょうみたいだって言ってましたね」

「赤いのでしょ」

 山口さんが言った。

「青いのもあるよね」

 大山さんも続けた。

「季節だね」

 みなさん口々にお話しされる。


「なんですか…、何かあるんですか…」

 僕はおせんべいの袋を切りながら訊いてみる。

 吉村さん、お茶を一回飲まれたあと、ちょっと小さい声で僕に言った。


「あのね、堀さん。この辺じゃ普通なの。普通に落ちてるの」

「普通…?」

「ここ、ちょっと禁猟区の間なのね、禁猟区じゃないのよね」

「禁猟区…の間…」

「きじとかね、たまにもらうよ」

「きじって雉ですか?」

 僕は手首だけでパタパタとはばたいた。

 みなさん僕の真似をしながら応えた。

「そう、パタパタの雉よ…」

 笑っているね、本当に。

「普通なの、薬きょうくらい普通だよ…」


 駐車場の近くに薬きょうが落ちているのも普通なんだ。

 普通っていろいろあります。

 ここは貴重な経験ができる場所です。

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