第2話 鹿

 部内回覧で新聞記事のコピーが廻ってきた。

「市内に鹿」

 写真にはどこかで見た木の杭、それに巻かれる針金、砂利の上に縄で区切られたスペース、一見して駐車場とわかるところに一匹の鹿が写っていた。


「なんですか…」

 僕が吉村さんに訊くと、

「誰かがここの地方紙に投稿したのよね、写ってるのは会社の駐車場よ」

 確かに当社の駐車場だ。

 休日には誰もいないし、車もない。

 

「ここでも鹿はめずらしいね…」

 大山さんが言う。

「鬼怒川下りてきたのかな…」

 山口さん。

「うちの駐車場にさ、これ写した人もその鹿も勝手に入ってるね…」

 吉村さん。

「鹿…」

 僕は回覧をコピーした。

「堀さん、コピーして持って帰るの?」

 コピー機から振り返り僕は応えた。


「娘に自慢します、パパすごいところで働いているだろうってね。野生の鹿がいるんだぞって…」


 この異動は当たりだ、ここは面白い。

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