第四話 ナザリック地下大墳墓

 ペロロンチーノは想定できる最高の装備と野営道具。そして四日分の食料を持ちフライで件の墳墓に向かう。到着したときは昼過ぎであったが、丘の上、ちょうど墳墓の外周におり立つ。


 丘をくりぬいて墳墓をつくったような構造。墳墓の外壁の九割を覆うような丘。なんとも奇妙な構造をしていた。


 実際は逆なのかもしれない。


 もともとここ一帯はただの平野という情報しかなかった。そんな場所に丘がいくつもできた。もちろん現在の人類圏の技術では不可能だが、もしユグドラシルプレイヤーのレベル100なら? まあ、結論の出ない話とペロロンチーノは割り切った。



 ペロロンチーノはその場でフライの時いっしょに引っ張ってきたフライングボードを下し、野営の準備をする。


 丘の上で見晴らしがよく奇襲の危険もない。墳墓の地上部分を見る限りアンデッドなどのモンスターもいない。警戒するなら悪くない場所だ。



「転生して二十年ちょっと。転生前の時間やらなんやらを考えれば、記憶の彼方に葬られているかとおもったが、見れば案外思い出すものだ」



――ナザリック地下大墳墓 表層



 そんなことを考えながらペロロンチーノは小さな火をおこし、湯を沸かす。タオルにお湯の半分をかけ体を清める。のこった湯には適当に干し肉とスープの素の塊、香辛料。そして野菜のかけらのようなものを放り込む。固く焼いてかびないようにしたパンを切り分け、スープに浸しながら食べる。


 腹が減ってはというが、正直いえばどうしようか迷っていた。


 本当にここがナザリックであれば?


 たとえば、プレイヤーの誰かがいるのか? それともNPCの誰かがいるのか。すでに朽ちて本当にアンデッドになってしまっているのか?


 もちろん、この世界には異世界からの転生者のような存在がいると、フールーダから聞いている。圧倒的な強者。現在の技術では製造もできないようなアイテムや装備の数々を携えた存在。


 そんな中にナザリックが含まれていた……という可能性。



「俺という存在がいる以上、否定はできないんだよな」



 結局一晩、ペロロンチーノはその位置から動かず。思い出をかみしめる。


 そして翌朝、かるく仮眠をとったペロロンチーノはベースキャンプをそのまま、フル武装して墳墓の表層に降り立った。特に姿を隠すようなことをせず、あくまで堂々と、ただし罠などを警戒しながら歩く。記憶では中央の霊廟から地下にはいる。



 霊廟には数多の宝がおかれているが、ペロロンチーノは関心を向けず奥に進む。記憶をたどりに一番奥の女神像を台座ごと押すと、地下への階段が見つかる。


 とくに理由はない。ただいペロロンチーノはふと言葉を吐き出す。



「ただいま。ナザリック地下大墳墓」




***




 ペロロンチーノは地下三階までほぼノンストップで歩いてきた。途中数多のトラップが見つかるが、記憶に沿って回避しながら歩く。また内部構造も迷宮と評価したほうが正しいというほどに複雑なものであったが、記憶を頼りに進む。


 もちろん多数の宝はあった。でも装飾として配置されているものか、罠と連動しているのをペロロンチーノは知っている。



「ナザリックの備品をわざわざ拾い集める理由はないよな」



 ペロロンチーノは苦笑いをしながら進む。


 もっとも記憶があるのは自分の理想ともいう存在が第一から三層の階層守護者であり、その設定をするためによく出向いていたという理由に過ぎない。そしてその関係で、ルートの各種罠にも記憶していたにすぎない。むしろ体感で数十年前のことなのに、昨日の事のように思い出せるのは不思議としか思えなかった。



「しかし、なんで迎撃用のアンデットが襲ってこないんだ? 誰かに監視……」



 ペロロンチーノはそこまで独り言をいうと、ある意味で正解ということに気が付いた。



 そう



 誰かが自分の行動を見ている



 ならば



「そろそろか」



 だが、その快進撃も終わる。三階から一度二階にあがり、そして屍蝋玄室に入る。



 そこには……。




***




 そこには、一人のヴァンパイアがたたずんでいた。



「シャルティア……」



 長い銀髪に血のように赤い瞳。紫を基調としたドレスと大きなリボン。その手には、ドレス姿には似つかわしくない巨大なランスを携えていた。


 結構な歳月をかけて完成させたNPCが、いまゲームの中と同じ姿でたたずんでいたのだ。



「なぜ、わっちの名をしっているのでありんしょう」



 ペロロンチーノの前に立つシャルティアは、妖艶な雰囲気を醸し出しつつ、ペロロンチーノの言葉に質問で返す。


 まるで生きているように。


 その状況に一番混乱しているのはペロロンチーノだ。もちろんその生存本能は、いままでの生涯で最大の警告を放っている。



「シャルティアがいるということは、ここは本当にナザリック地下大墳墓なのか」

「ほんに、侵入者にこたえるギリはありんせん。しかしアインズ様より冷静に任務を遂行せよとのお言葉」



 流暢にシャルティアがしゃべる廓言葉を聞いて、様々な疑問はあるものの、この場を切り抜ける必要があるとペロロンチーノは切り替える。



「言葉を交わす時間をくれるのはありがたい。アインズ様とは誰を指しているのだい? アインズ・ウール・ゴウンはこのナザリック地下大墳墓を納めるギルドの名前のはずだが」

「それはむろん至高の四十一人の頂点にして絶対の支配者、モ・・・いえ」

「え? モモンガさん、名前かえたのか?!」



 シャルティアの言葉からモモンガが、アインズであると認識したペロロンチーノ。逆に、目の前の敵に主の名をばらしてしまったことに、シャルティアは血の気が引くのを感じた。



「ただでさえアノ御方と同じ名を持つ不届きもの……かくなる上は」



 シャルティアが、それこそ証拠隠滅のために目の前の男を葬ろうと、スポイトランスを構えようとするも、以前の失態もあり、アインズからの指示と相反するため、本当にここで目の前の存在を激情のまま殺してもいいのか迷ってしまう。



 もちろんその殺気とも言える気配の変化を敏感に感じたペロロンチーノは何とかこの場を切り抜けるべく、言葉を返す。


 そう。この場は誰かに監視されているのだ。


「シャルティア! モモンガさんと連絡はとれないか?」

「それ……わ……え?。はい」



 先ほどまで悩み、最後は殺気さえ発っしていたシャルティアが急におとなしくなったのだ。



「五分後にアインズ様がお会いになられるでありんす」




***




 五分後ゲートによってペロロンチーノがつれてこられたのは、円形闘技場の真ん中。すなわち舞台の真ん中であった。


 そこにはすでに先客がいた。


 白いドレスを纏ったサキュバス。オレンジ色のスーツを着た悪魔。水色の蟲王。ダークエルフの双子。むろん全員からこちらを射殺さんばかりの殺気がただよっている。


 そして殺気という点では、案内役のシャルティアからも同じであった。


 まさしく針の筵のはずなのだが、同時になつかしさをペロロンチーノは感じていた。



「アインズ・ウール・ゴウン様の御なり」



 その言葉と共に一人のオーバーロードが現れる。この世界の基準で評価するならば、誰もが持ちえない伝説の防具を身にまとい、その手にはその一端さえ再現が難しい宝杖を持つ、比類なき死の王の姿であった。


 シャルティアは一歩横にずれ、アインズ向かって報告をする。



「単身でナザリック地下墳墓に侵入したこのものをお連れいたしました」

「うむ。私がナザリック地下大墳墓の主人。アインズ・ウール・ゴウンである。してお前はなぜ、この地に侵入してきた?」



 アインズの言葉には殺気こそないが、強烈な威圧感が含まれている。



「まさか財宝、名誉、なんてもののために我が友と……。我々が作り上げたこの地を土足で踏み込んだとは言わぬよな」



 アインズの言葉にペロロンチーノは、何をいわんとしているのか理解することができた。


「ここがナザリック地下大墳墓かどうか。確かめるために訪れたんだ。モモンガさん」

「まて!」



 その瞬間、周りに侍る者たちは一斉に戦闘態勢に移行した。


 だが、それをアインズは左手をすっと掲げ抑える。



「お前は誰だ?」

「ユグドラシルではペロロンチーノと名乗ったバードマン。今はこの世界に生きるただの人間。ペロロンチーノだ。親友」



 ペロロンチーノには一瞬、アインズが目を見開いたような姿を幻視した。いや、あれは多分

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