第三話 アインズ・ウール・ゴウン

 ペロロンチーノの名は、帝国内どころか王国・法国でも知れ渡っている。


 その名が最初にとどろいたのは現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス即位前後の大動乱期、皇帝を殺しに来た暗殺者、腐敗貴族の私兵から皇帝を守り抜き、その多くを葬った。


 だが、字である、爆撃の王と呼ばれるようになったのは、皇帝ジルクニフが即位した年、王国は帝国の混乱を突く形で奇襲を仕掛けた。その数は1万。


 それをわずか千の兵で殲滅したのだ。


 カッツェ平野の霧の時期であったため、それを避けるように街道を進む王国軍。それをペロロンチーノを含む三百が森に隠れ、やり過ごし、夜明けとともに後方を遮断するように移動。ペロロンチーノは上空から比喩抜きの燃え盛る矢の雨を降らし、着弾と共に爆発するという苛烈な爆撃を行ったのだ。


 王国軍後方は、瞬く間に炎と爆風に包まれ逃げ惑うこととなる。なにより後方にいた今回の指揮をする貴族を巻き込み爆殺したのだ。そこからは一方的な虐殺といっていい状況となった。


 それ以降も、戦場で、魔獣狩りで、その圧倒的な戦力を誇示し、大魔法使いフールーダにつぐ帝国における抑止力の一つとなった。


 そんなペロロンチーノは、ジルクニフから勅命を受け一週間ほどたったある日、帝城からほど近い屋敷に転移で訪れていた。



――帝国情報局 局長室



「局長 来たなら声かけてください」



 ちょうど用事で訪れていたのだろう。金髪のハイティーンの女性が書類の束を持ちながら声をかけてきた。



「やぁアルシェ。今日も綺麗だね」

「お世辞はいいですから、来たなら決済お願いします」

「はいはい。あと例の最優先のやつは?」



 ペロロンチーノは席に座ると、決済箱の報告書に目を通しはじめる。簡単なものはその場で承認し、読み込みに時間のかかるもの、頭に入れておくべきものはより分けておく。



「昨晩報告があがってきたので、朝一でまとめておきました。とってきますね」

「うん。たすかる」



 アルシェはある貴族の令嬢であり、もともとは帝国魔法学院で在席し、優秀な成績をおさめていた。しかし両親の素行・金銭問題で辞めざるえなくなったとき、ペロロンチーノが手を差し伸べたのだ。


 まあ、外見的な好みとかいろいろ下心はあったが、第三位階の魔法が使え、さらに有用な相手のMPの規模を見ることができるというタレントまでもっている彼女を、ただ闇雲に下野させるのはもったいないと考えたからだ。結果、自分の部下として頑張ってもらっている。


 決済がひと段落する頃、お茶と共に、報告書をもってアルシェは再度入室してきた。



「お茶と、こちらが報告書です」

「ありがとう」



 ペロロンチーノは報告書をめくる。



「アルシェ。このアインズ・ウール・ゴウンという人物をどう思う?」

「在野にこんな人物がいたとは考えられません。加えて過去の記録を含めフールーダ様に匹敵する魔法使いでアインズという名前の方は存在しません。ならば偽名か、それこそ人間種でないと考える方が自然です」



 実際、魔法教育というものの効率は帝国が抜きんでている。素質管理という点について徹底した戸籍をもつ法国にはまけるが、教育、人口による規模という問題で法国を上回る。それでも推定第四位階以上の魔法使いというのはそれなりに名が残る。そしてアインズ・ウール・ゴウンという名前は存在しない。



「あと、変化という点で三つ報告があがってます。一つは件のマジックキャスターが現れた村で、人語を解するゴブリンが使役されているそうです」

「ゴブリンが?」



 人語を解するゴブリンというだけで、ペロロンチーノの記憶にはない。いたとしても相当レアな存在だろう。それを使役する……。モンスターテイマーなら0ではないだろうが、そうとう珍しい。



「続いて、近隣の都市エ・ランテルにおいてズーラーノーンによるアンデッド暴走事件が発生したとのこと。それをカッパーの冒険者モモンと第三位階の魔法をあやつるナーベが解決したようです」

「それはカッパーの冒険者が解決できるレベルのものだったのか?」

「はい。それなら報告にあがってきています。アンデッドは千近く。スケリトルドラゴンの討伐された証もあったそうです」

「ほう」



 スケリトルドラゴンはいろいろと面倒な特性を持つ。少なくとも新人冒険者がどうにかできる相手ではない。



「最後に、いままで平原だった箇所に複数の丘が生まれ、その一つに古代遺跡と思わしき墳墓が発見されました」



 その報告を聞いた瞬間、お茶の入ったカップをペロロンチーノは握りつぶす……。



「えっ?!」

「その墳墓はどんな外観だったか?」

「はい。朽ちた神殿で、みたこともないほど精工なものだったと。時代などはまだ専門家が入っていないのでなんとも」



 アルシェは台拭きを持ちペロロンチーノの机を拭く。幸いほとんどお茶はのこっていなかったため、大惨事だけは避けられたが……。



「アルシェ。調査は続行。ただし墳墓については誰も入るな。可能なら誰も近づけるな。俺が直接いく。他はいままで通りに。あと数日は戻れない想定で行動を」

「はっ。はい。直ちに」



 ペロロンチーノの何時にないまじめな声に、アルシェは急ぎ部屋を出るのだった。



「高位のマジックキャスター。アインズ・ウール・ゴウン。モモン。ナーベ。そして墳墓……まさかナザリックか?」



 その疑問に答えるものは誰もいなかった。

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