第二話 隣国に現れた魔法詠唱者

 ジルクニフは執務室で執政官たちに囲まれ執務を行っていた。護衛の役目を全うする四騎士、そしてフールーダもそろっている。


 そんな中で部屋に通されたペロロンチーノの服装はある意味で特異なものであった。軽装といってよいほど最小限の皮鎧。背中には弓。腰には矢筒と短剣。よく知るものがみれば、ポーションや暗器なども備えている。帝城では異常な装備だが、その異様さを加速させるのは鳥をかたどった顔の上半分を隠す仮面である。


 異様な姿を見ても、だれも文句を言うものがいない。その程度にこの破天荒な恰好はいつもの事であり、皇帝の前で武装することが許されるという特権そのものを表しているのであった。



「遅いぞ。ペロ」

「今時期、内政に俺が何か忠言するようなことはないとおもうが?」

「ヘッケル卿!」



 ジルクニフの言葉に、軽口でかえすペロロンチーノ。そしてその口調を咎める四騎士のニンブル。ここまでが一セットである。執政官たちも気にせず次の報告に移る。



「では、次の報告です。王国の南方を暴れまわっていた法国の部隊ですが、どうやら一人のマジックキャスターにほぼ殲滅されたようです」



 外務を担当する執政官の報告に、ジルクニフの眉が動く。聞いている者たちもその言葉ににわかに信じられないという雰囲気を醸し出す。



「確認だ。今回の法国の部隊は?」

「陽光聖典の本体と支援部隊です」



 執政官の回答に、ジルクニフは記憶との違いがないことを確認する。



「判明している情報を詳しく」

「法国の部隊は王国の開拓村を中心に襲撃を繰り返し、王国戦士長の部隊が後追いで救援に回るという状況でした。王国は救援の際、生存者をエ・ランテルに送るため人数を順次さいておりました。最後に陽光聖典に囲まれ打ち取られる寸前までいったところ、隠遁していたマジックキャスターが救助、逆に陽光聖典は殲滅されたと」



 ジルクニフは護衛として後ろに立つ四騎士に顔を向ける。



「我が四騎士に問う。陽光聖典を相手に殲滅は可能か?」

「ご命令とあらば」

「四人なら負けはしないでしょう」

「相性の問題で。取り逃がす敵がでるかと」

「四人なら負けるとは思わない。想定外があれば逃げるだけ」



 ジルクニフの言葉に四騎士はそれぞれ答える。おおむね勝てるが、殲滅は難しい。それは相性の問題である。帝国四騎士は、単純な武力で選ばれている。だが言葉の通り相性がある。今回はいわば広域殲滅のようなスキルなり魔法なりがあるかという点でしかない。



「爺とペロはできるとして、我が四騎士と同等以上の存在が現れたということだな」

「はい」

「そのマジックキャスターについてわかっていることは?」

「赤い仮面に肩には巨大な角と宝玉を付けた黒いローブ。名はアインズと名乗ったそうです。同行者は女性ですが漆黒のフルプレートを身にまとっていたとのこと」



 ジルクニフは記憶を探るが該当者はいなかった。



「爺、記憶は? あとどの程度と評価する?」

「陽光聖典は第三位階の使い手があつまった部隊。殲滅となれば第四……いや、第五位階の使い手と考えてよいでしょう」

「英雄の領域その一歩手前のマジックキャスターということだな」

「はい」


 フールーダはにやりと笑いながら答える。その性根をしるジルクニフとしては、フールーダが何を考えているか手に取るようにわかるが、いきなり暴走することもなかろうと判断し保留する。


 そして、普段であれば軽口の一つでもたたく男が何も言わないので水を向けるのだった。



「何か気になることはあるか? ペロ」

「ああ。たぶん気のせいだ」



 まず件のマジックキャスターの容姿を聞いた時、一人の親友のアバターが浮かんだ。そしてその名を聞いてあるギルド名を思い出したのだ。しかしあり得ないと否定した。

 



「ふむ」



 そのペロロンチーノの言葉に、ジルクニフは、ペロロンチーノ本人以上に、ペロロンチーノの内面を把握していた。



「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの名においてペロロンチーノ・ヘッセンに命じる」



 ペロロンチーノはジルクニフのまじめな雰囲気を読み取り、一歩引き首を垂れる。



「このマジックキャスターについて調査をせよ。急ぎ対処が必要であれば報告は後でも構わん。帝国の利益になるよう行動せよ」

「御意に」

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