第二話 最強のくそ爺

 春になりペロロンチーノは帝都の帝国魔法学院に入学した。


 もっとも、帝都について最初のイベントは学校でなく、従兄弟であるジルクニフ殿下との顔合わせだった。


 大魔法使いフールーダの屋敷に設けられた一室でその顔合わせは行われた。執務用と思われる椅子に座るジルクニフ殿下。美しい金髪にどこか幼さを残す顔。その顔立ちとは裏腹に、濃紫の眼には高い知性を宿している。



「主人公乙」



 もちろん誰にも聞かれない程度のつぶやきだったが、これがペロロンチーノの最初の感想である。


 ペロロンチーノは礼節にのっとり、深々と礼をする。



「ヘッケル方伯の三男。ペロロンチーノ・ヘッケルにございます」



 ジルクニフの隣に立つ秘書官がペロロンチーノを紹介する。その反対側に、座るのはかの大魔法使いフールーダ。この二人に普通会うならば、どれほどの手続きをしなくてはならないのか。光栄と取るよりも、これからのめんどくささを感じずにはいられないペロロンチーノは、貴族らしくはないのだろう。



「挨拶を許す」

「お初にお目にかかります。ヘッケル方伯の三男。ペロロンチーノ・ヘッケルにございます」

「さて、堅苦しい挨拶はこれまでだ。従兄弟殿」



 ジルクニフの言葉に、ペロロンチーノはあっけにとられたように顔を上げてしまう。許された訳ではないのに顔を上げるのは厳密には非礼にあたる。あわてて元の姿勢にもどす姿はジルクニフには滑稽に映ったのだろう。にこやかな笑みを浮かべながら言葉が続く



「これからそなたとは学院に通う学友にして、血のつながりもある従兄弟なのだ。公式の場ではなければ普通に話してくれてかまわない」

「はあ」



 予想外の言葉にペロロンチーノは、顔をあげ中途半端な返事をしてしまう。


 もしここまでで終われば、立ち位置こそ違うが、後に親友となる二人の少年の出会いとしてはまずまずだっただろう。


 そうはならないのが、悲しい現実である。



「さて、ペロロンチーノといったか。貴様使えるのであろう?」

「え……。フールーダ様、何をでしょうか?」



 ジルクニフとの挨拶が終わったとたん、大魔法使いとはかくあるべしというような外見の老人、フールーダから言葉をかけられたペロロンチーノはその意味を理解できていなかった。



「なに、隠すことはない。ヘッケル方伯め。こんな逸材を隠していたとは。なぜもっと早くつれて来なんだか。ジルはその知性と判断力でゆくゆくは最高の皇帝となるだろうが、まさか、その血縁者にこんな人材が隠れていたとは」

「えー」



 いきなり興奮しはじめたフールーダの言動に、あっけにとられたペロロンチーノだが、ジルクニフは笑いながら補足をした。



「爺は、ペロロンチーノに魔法の才を見出したのではないか?」

「魔法ですか? マナ・エッセンスのような魔法を唱えられたようには見えませんでしたが?」

「爺の目は特別性だ。いわば看破の魔眼、魔法力が見えるそうだ」

「なんというチート、いやタレント」


 多分MPやらその辺の情報を見ただけで看破する。それこそフォールスデータ・マナをどれほどの人間が使えるのか? いや第三位階が一般の限界といわれているこの世界で、その魔法自体が希少。うん、チート級のタレントだなと、ペロロンチーノは納得する。


「してペロロンチーノ。貴様はどの位階までつかえる?」

「第三位階」


 ペロロンチーノの言葉は嘘ではない。レベル的には第五位階を納めることができる。しかし、習得している魔法は第三位階までの最低限のものなのだ。それはひとえにペロロンチーノなりの人間種アーチャーガチビルド計画によるものだった。もっともクリーン・オーダレス・リペアといった便利魔法を予定外に覚えているのは、生活する上で便利だからというほかない。


 しかし、フールーダへの回答としては間違っていた。



「ほう。ワシを偽るか。よろしい稽古をつけてやろう」

「護衛も兼ねる従兄弟殿の実力を見るのは良い機会だ」

「え?」



 フールーダの宣言に、ジルクニフが同調したことで、逃げ場のなくなったペロロンチーノであった。




***




 結論から言えば、フールーダに叶うわけもなくペロロンチーノはボロボロにされた。


 初手サモン・アンデッドで呼び出されたスケルトン・ウォリアーをフールーダにけしかけられるも、接敵前に弓矢で倒した。今度は数による飽和攻撃。平野なら距離を開けながら戦うが、あくまで鍛錬用の庭での戦いのため、ペロロンチーノはフライで距離を取り空中から射殺。


 このあたりからフールーダの笑みが怪しさを増す。スケルトンアーチャーを召喚し、自身もフライを駆使して魔法攻撃を始めたのだ。


 ここまでくると手加減とかそんな余裕もなく、武技にスキル、魔法とそれこそ接近戦の奥の手以外をさらけ出す羽目になってしまったのだ。



「ふむ。第三位階というのは嘘ではなんだか。だが、貴様は第四、いやもうそろそろ第五が可能に見える。なぜだ?」



 フールーダの質問に、ペロロンチーノは迷った。ビルド的に第四位階魔法にほしい魔法がなかったから覚えなかったというだけなのだ。どうやら、先ほどの模擬戦でノーブルウィザードがレベル五になっていたのはうれしい誤算だった。



「たぶん縁がなかったのではないでしょうか。アーチャー兼指揮官として、カッツエ平野の間引き作戦に参加してましたので」



 とりあえず嘘はいっていない。



「よろしい。ジルの合間……いや一緒に貴様も鍛えてやろう」

「いえ! 恐れ多い」

「なに、魔道の探求には一人でも多くの才あるものが必要だ。さあともに魔道の深淵をめざそうぞ!」



 こうして、ペロロンチーノは後に親友となるジルクニフと、後に師匠となるフールーダくそ爺とであったのであった。

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