第三話 帝国とは

 ペロロンチーノが帝国魔法学院に入学して一年と少しが経過した。学院では護衛という任務もあるため、ジルクニフと行動を共にしていたのだが、それが良くも悪くも良い刺激になっていた。


 ジルクニフとしては、将来に向け才能ある人材の縁を結ぶことを目的としていた。それは学院だけにとどまらず、優秀なものの兄弟で、現役の近衛兵や騎士団のものを夜会に呼び、友好を築くほどだ。


 逆にお眼鏡にかなわないものを遠ざける。そんな七面倒な事を、護衛騎士のアルベールと、スカウト技能持ちのメイド・ターニャにペロロンチーノは付き合わされる羽目になっていた。


 そんなある日、ペロロンチーノは久々の休みに帝都の繁華街にくりだしていた。



「おじさん。その二本」

「おう」



 広場の一角の店で、軽食を買う。黒パンに玉ねぎとタレに付け焼いた肉を挟んだもの。塩味のきいた肉に油と香辛料を中心としたタレが、玉ねぎのシャキシャキとした食感と苦みに相まって食欲をそそる。


 問題があるとすれば、二つ買ったはずなのに、一つがとられてしまっていることだろうか?



「なんで付いてきてるんですかね? 皇太子ともあろうお方が」

「別に初めてでもなかろう?」



 そう。なぜか皇太子ジルクニフもついてきているのだ。


 ジルクニフも肉を挟んだサンドを食べている。隣には毒見で一口たべたのだろう、口を拭っているメイドのターニャと、周りを警戒しながらアルベールが立っている。


 もちろん服装でいえば、ペロロンチーノと同じように多少上等ではあるものの一般人が来ていても問題ないレベルにおさめるなど、変装らしきものをしている。見る人が見ればバレてしまうが、一見金持ちの子弟が護衛をつれて歩いているようにしか見えない。



「市井を知ることは為政者として重要なことだ」

「まあ、そうなんですがわざわざ俺についてこなくてもいいでしょ」

「なんだペロは私が邪魔だというのか?」



 ジルクニフはどこかいたずらをする子供のように笑いながら、ペロロンチーノについてくることを宣言するのだった。



「ドワーフの国から先日もどったキャラバンの出物を探すのと、適当に掘り出し物探しかな。夜になったら一杯だけひっかけて戻るつもり」

「ではそうしよう」

「え? 最後まで付き合うの?」



 どうやら、ペロロンチーノは逃げるタイミングを逸っしてしまったようだ。




***




 日が暮れ始めた帝都を四人は歩いている。手には飲み物や食べ物を片手に市場をまわり、そろそろ戻ろうかと考えているころであった。



「いやーいいものが見れた」

「ドワーフの技術。やはりほしいな。」

「そもそも人間は製鉄に必要な鉄鉱石が潤沢とはいいがたい。そこから改善しないとどうにもな~」



 実際 バハルス帝国内でも鉄鉱石は算出しているが、良質な鉄鉱石の産地は山間部になる。しかしそこは人類圏とはいいがたいため、どうしても製鉄技術というものが遅れているのだ。それらも相まって、ドワーフの武器、防具、金属製の各種アイテムなど、人間が作るものより一段も二段も上のものとなっていた。



「あと、マジックアイテムの相場、ここ一年で少し落ちたか?」

「それは魔法省による安定供給のたまものだろう」

「少しずつ暮らしが便利になるといいな」



 他にも食料品などを見ていたが、値段はほぼ安定。むしろライトやテンダー、フローティングボードといったマジックアイテムが少し値がおちていた。もう少しすれば、一般帝国国民でも手が出るレベルになるだろう。そんなところまで来ていたのだ。


 おおむね平和。


 もちろん、表通りを回るようにして裏通りには近づかないなどの自衛の結果でもある。



―― ……



 だが、そんな時、ペロロンチーノの耳は嫌な音をとらえてしまった。

とっさに駆け出そうとするも、同行者の事を思い出し立ち止まる。


 そんな時、ジルクニフが露店で売られていたものを手に取りペロロンチーノに投げ渡す。どうやら、ターニャが何かあったのか伝えたのだろう。



「ペロ。見つからずに処理しろ」

「すぐに戻る」



 ペロロンチーノは路地裏に入ると同時にフライで屋根に上り、夕暮れの影に隠れながら疾走するのであった。


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