帝国魔法学院

第一話 従兄弟

 バハルス帝国。約二百年前の魔人と十三英雄との闘いののち、当時人類種の中心的国家が分裂して成立した国家である。


 人類は生存競争で下位である以上、寄り添って力を蓄えるしかない。なのに人類種が分裂していては、滅亡することとなる。先帝は、そんな状況に立ち向かうためにより優秀なものによる富国強兵と専制君主制への移行を掲げた。


 加えて、人材を広く獲得・育成する目的で、帝国の誇る大魔法使いフールーダに協力を仰ぎ、帝国魔法学院を作り上げた。一般人であれば将来の栄達のために、一部の貴族や資産のある家の者は横のつながりのために入学する。


 だが、今年普段であれば数の少ない貴族が大量に入学するという異常事態が発生した。


 それは皇太子が帝国魔法学院に入学するというのだ。



「なんでまた?」



 その話を聞いた時のペロロンチーノの言葉である。



「皇太子のたっての希望だそうだ」

「いやいや、警備の問題とかいろいろあるでしょ」

「もちろん問題となる。そこでおまえにも白羽の矢が立った」



 父親の言葉に、いまいち理解が追いつかないペロロンチーノは聞き返してしまう。



「え?」

「学園内での護衛としてお前がベストだ。」

「いやいや、護衛騎士ぐらいいれればいいでしょ」

「十才にして冒険者ランクでいえばプラチナ級、近衛騎士にも引けを取らないお前が学園内で護衛をすればよい」


 ペロロンチーノは父親の言葉に、レベル上げが面白く、初陣からほぼ毎回間引きに参加した自分の軽率さを呪った。


「それに、昨年、本来の皇太子が事故死されたのは知っているな」

「はい」

「それもあってお前の従兄弟にあたるジルクニフ殿下は、皇太子指名と合わせて、帝城を出て大魔法使いフールーダ様の屋敷に一時的に居を移されている。表向きはフールーダ様による帝王学の教育となっている」

「それって……」


 ペロロンチーノは帝城が暗殺の危険があるという言葉を飲み込んだ。実際、皇太子の事故死というのも相当に怪しい。でなければ、ジルクニフ殿下が城を出る理由はない。


「とりあえず、殿下の護衛に戦力となる従兄弟がというのはわかったけど、なんで学院に?」

「殿下の派閥形成のためだ」


 本来であれば、母方の出身派閥が王子の派閥形成を支援する。しかしヘッケル方伯家は地方貴族であり武門である。地方、特に南方貴族や騎士団に親族やコネはあるが、中央、それに帝城内部の官僚には少ないのが実情だ。


 そして帝国魔法学院は、帝国の近衛、官僚、有力ポストの登竜門。相応の危険もあるが、いまここで派閥の形成が将来のために必須と判断されたのだろう。または、そのほうが暗殺しやすいという思惑で賛成されたとも……。


「しょうがない」

 

 ほんとうにしょうがない。家族やこの街に住む人々への恩や義理、愛情。それを考えると、血縁の殿下の護衛というのも普通にわかる話なのだ。




 だからしょうがないと腹を括る。






「おぬし、まだ力を隠しておるだろ」

「おのれ! くそ爺いいいいい」

 


 にこやかに微笑んでいるジルクニフ殿下の前で、フールーダの召喚した魔物に、追い回されることになった。



 どうしてこうなった?

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