第六話 守ること

 今回の間引きも、負傷者こそいたが、死者もなく成功した。


 それだけなら、噂になることはなかったが、まだ九才のヘッケル家三男がエルダーリッチを仕留めたというのだ。


 最初こそ嘘というか誇張と思われていたが、数日後エルダーリッチから入手したというマジックアイテムと、杖、宝石、ローブが広場で立ち合いの下で公開されると、噂は本当だったのだと信じられるようになった。



***



 初の実戦というのは、本当に精神にも体力にも負担だったのだろう。西門を通ったあたりから記憶がない。たぶんアレフに支えられて戻ってきたのだろう。

結局まる一日倒れるように寝て、目が覚めた時には別人と思うほどに体が軽くなっていた。


 寝ずの番をしてくれたサーニャとメイにお礼をし、体を確認すればエルダーリッチのライトニングで受けた傷もなくなっていた。寝ている間に治療をしてくれたことに感謝しつつ、ステータスを見れば一目瞭然だった。



――三レベルの上昇



 たしかエルダーリッチはレベル二十台。格上との闘いで一気にレベルがあがったのだろうとペロロンチーノは推測する。


 とはいえ、何事にも後始末というものが待っている。


 まずは父親への帰還報告。右肩に手を置き「よく無事にもどってきた」という言葉だけだったが、父親として当主として、おかれた手の暖かさから、言葉にできないものを感じることができたのは気のせいではないはずだ。


 そのあと、家族に報告する。口々に無事を喜んでくれた。帝都の学院にいるパウロ兄とフィアーネ姉にも手紙を書くように言われたので、後で出すことにする。


 間引きは戦闘報告(いつ、どんな敵とどんな風に戦ったか)というものがまとめられる。今回のそれについては、すでにアレフがまとめてくれたとのことで、直に礼を言った。だが、アレフ曰く重要なことが終わってないそうだ。


 その夜、ペロロンチーノはアレフに案内され、兵舎に向かっていた。


「ペロロンチーノ様こちらです」


 そこには、一緒に間引きに参加した兵士たちと、数々の食事と酒が待ち受けていた。


「これは?」

「はい。これが重要な最後の仕事です」


 アレフは普段通りという感じで、さらりと回答する。


 兵士たちも待ちかねたのだろう、ペロロンチーノの下にあつまり、口々に礼をいったり、戦功をほめたりと、挨拶をしていく。そんな中、一人の若い兵士が深々と頭を下げるのだった。


「最後の戦いの時、エルダーリッチの攻撃で武器を落とした際、フォローしていただきありがとうございました」

「フォローは後衛の務めだ。むしろ守られた私がみんなに礼を言わなければいけない」

「こいつ今度結婚するんですよ。どうか礼を受け取ってやってください」


 若い兵士の真摯な礼に、ペロロンチーノは謙遜してしまう。そこでアレフが若い兵士の事情を説明してくれる。


 え? この戦いが終わったら結婚するんだってのを、素でやったのか? こいつ。とペロロンチーノはある意味で勇者な若い兵士の手を取る。


「そうか。では、礼は受け取った。家族とヘッケル領の人々を守るために、今後も力をかしてくれ」

「はっ!」 


 若い兵士は感無量といった感じでペロロンチーノの手を握り返すのだ。


「では、ペロロンチーノ様。最後のお仕事です。乾杯の音頭を」


 ペロロンチーノは席に案内され、飲み物を渡される。


「ヘッケル家三男 ペロロンチーノである。さっきも言ったが、家族とヘッケル領の人々を守るために、今後も力をかしてほしい。では・・・・・・乾杯!」

「乾杯!」


 その日、ペロロンチーノはこの世界で初めて飲んだアルコールは、華やかな香りとほのかな渋み、そしてどこか懐かしさを思い出す果実酒だった。

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