第五話 いくら準備しても想定通りにならないのが実践

 間引きも五日目。


 城砦が見えるレベルの範囲の間引きはすでに完了し、ヘッケル領から一日は離れている。休憩も三交代の戦闘。ここから一日が本番である。


「霧は、濃いけど見えないわけじゃないんだな」


 ペロロンチーノが鷹の目で警戒しながら漏らす。ノーブルアーチャーとスナイパーのレベルも上がり、より精度がでるようになった鷹の目だが、やはり霧のせいで視界が狭まっている。それでも、スカウトの耳よりも広く警戒できるのだから、タレントさまさまである。


 スケルトンやスケルトンアーチャーにまじり、スケルトン・ウォリアーが混ざるようになる。こいつは兵士たちもスリーマンセルで油断なく戦わなくてはならないほどの強敵である。


「ユグドラシルなら十五・六の雑魚だろうに、こんなに苦労するなんて」


 ペロロンチーノは周りに聞こえないように独り言ちる。しかし自分もほぼ同レベル帯なので、見つけ次第積極的にダメージを与え続ける。


 だが、ふと違う気配を感じた。


 ざわざわと肌が泡立つような気配が迫ってくるのだ。先ほどまでの散発的な敵意のようなものと違う。

だが、まだペロロンチーノの鷹の目で敵を補足できない。


「嫌な予感がする」

「大当たりを引いたみたいですね。密集体形。最低限の食料と水以外捨てられるものは捨てろ」


 ペロロンチーノと同じようにアレフも何かを感じたのだろう。今までにないような指示を出す。兵士たちも、一食分の保存食と水が入った革袋を背中や腰に括り付け、捨てられる荷物はすべてまとめて捨てる。


 前衛は盾を構え、後衛はいつでも魔法を発動できる準備が終わった頃、ペロロンチーノはついに敵の姿を補足する。その瞬間、ペロロンチーノは自分が九才の子供であることを忘れ、舌打ちをしてしまう。


「スケルトンが無数。スケルトン・ソルジャーが六。それに守られるようにリッチか?」

「最悪エルダーの可能性を想定しましょう。どっちにしろ、戦えるのは私とペロロンチーノ様だけです。もし、私が倒れたら全力で逃げてくださいね」


 アレフの言葉にペロロンチーノは答えず、弓を構える。その姿に、アレフが大きく息を吐く。


「放て」


 アレフの号令に合わせて同行したマジックキャスターがファイアーボールの魔法を放つ。そしてペロロンチーノも、フレイムウェポンを付与した矢を時間差で放つ。


 ファイアーボールはエルダーリッチを守るように進むスケルトン・ソルジャーに着弾。周りを巻き込むように爆炎と衝撃波が広がるが、エルダーリッチにはほとんどきかなかったのだろう。ゆうゆうと立ち、あざ笑うようにこちらを見ている。


 だが、時間差で射たペロロンチーノの矢が、その頭蓋と左鎖骨を砕くように突き刺さる。


――武技;魔力射撃


 本来刺突ダメージに分類される弓矢で、アンデットにダメージを与えるために取得したのがフレイムウェポン。だが、もしフレイムウェポンでもダメージ効果が薄い相手がいたら。そう考え、ユグドラシル時代のメインウェポンに着想した武技だ。


「いくぞ!」


 魔力を宿した剣を構えたアレフを戦闘に前衛が一気に距離をつめる。


 スケルトン・ウォリアーが振り下ろす剣を、盾でいなし反撃とばかりに切り返す。しかし今までと違いスケルトンの数が多い。いままではツーマンセルからスリーマンセルで余裕を持って戦っていたが、下手すれば一対一の状況である。さらに、スケルトンを一匹倒しても、すぐ次の敵が群がってくる。


「これが戦場かよ!」


 ペロロンチーノも、エルダーリッチに大型魔法を発動させるスキをあたえないよう、牽制しつつ、スケルトン・ウォリアーに攻撃を加えなんとか一体を倒す。


「左右の仲間から目をはなすな。離れすぎると孤立するぞ」


 仲間を援護し、仲間に守られる。兵士たちも過去にこんな経験をしたのだろうか、冷静に戦っているように見える。


 だが、そんな戦い型をあざ笑うように、エルダーリッチからライトニングの魔法が放たれる。味方のスケルトンもろとも放たれたライトニングは、数名の兵士を餌食にする。粉砕されたスケルトンと違い、何名かは軽傷を負う。だが一人は当たり所が悪かったのだろう。剣を落としてしまう。


 さすがに知恵のないスケルトンも、チャンスとばかりに腕を振りかぶる。


 それの攻撃を何とか盾で受けようと身構える兵士だが、いつまでたっても衝撃は来なかった。


 気が付けば、スケルトンは粉砕されていたのだ。


「次が来るぞ、早く武器をとれ」


 ペロロンチーノの声に、我を取り戻した兵士は素早く剣を拾い戦線に復帰する。砕けたスケルトンには矢は刺さっておらず、そして先ほど目にはいったペロロンチーノは矢をつがえる右手をなぜか兵士の方に向けていた。


 本当に何があったかわかるものは、ペロロンチーノ以外にいなかった。


「ファイアーボール 次、いけます」

「味方を巻き込まないように、リッチの左集団をねらえ」

「はい」


 マジックキャスターの声に、ペロロンチーノは指示を出す。アレフが回りのスケルトンを薙ぎ払いエルダーリッチに接敵するところであった。


「アレフを孤立させないように、押し上げろ」


 兵士たちも盾を巧みに使い、強引に前線を押し上げ、アレフとエルダーリッチの戦いを援護可能な距離に収める。


 だが、そこまでだった。スケルトンとスケルトン・ウォリアーの増援があらわれ、戦線は膠着する。レベルでいえばエルダーリッチの上を行くアレフであるが、まわりに邪魔なスケルトン・ウォリアーがおり、決定打に欠けてしまう。


「五秒耐えてくれ」

「了解」


 ペロロンチーノは、このまま手を打たねば押し負けると判断し、兵たちに準備の時間を耐えろと指示をする。

 矢筒の横に括り付けていた特別な矢を取り出しつがえる。磨き上げらえた白銀の矢じりが炎に包まれる。


――フレイムウェポン

――武技;魔力射撃


 ここまでは一緒である。エルダーリッチに多少なりともダメージを与えることはわかっている。多少ではだめだ。今必要なのは確実な大ダメージだ。


 そこで、ペロロンチーノはエルダーリッチを睨みながら、より集中に意識を落とし、呼び出すはもう一つの武技。全力まで弓を引き絞り、全身全霊を込め、そのひと時を待つ。


 エルダーリッチは面倒な矢がとんでこなくなり、目の前の獲物に狙いをさだめる。アレフにもそれがわかったのだろう、剣筋がするどくなり、右横のスケルトン・ウォリアーの首を跳ね飛ばし、返す形で渾身の斬撃を放つ。


 もしエルダーリッチに表情筋があれば、笑みを浮かべたことだろう。アレフの斬撃をディレイマジックのシールドが防いだのだ。さすがのアレフもシールドの魔法を砕くことができず、剣を引き別の角度から攻撃をしようとする。


 だが遅い。ライトニングの魔法が完成し発動し……。




――武技;剛撃

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