茨の城

 茨の城には、精霊に呪われ百年の眠りに囚われた乙女が眠るという。


「茨姫、王子様は助けに来るかしら?」

 月光が降り注ぐ夜、お姫様は柊の櫛で乳母に髪を梳いてもらいます。

「さあ、どうだったか」

 乳母の心地よい声を聴くと、お姫様のまぶたは自然と塞がってゆくのでした。


 美しい薔薇園を夢うつつにお姫様は彷徨います。

 ときおり異邦の青年が深紅の薔薇の咲き誇る垣を乗り越え、お姫様の手を取り――


「おねむりなさい」

 乳母はお姫様を抱きしめて貝殻のような耳に囁き続けます。

 足元には茨を越えた青年の亡骸。

 お姫様の唇は真紅に濡れ、その美しさは月光すら恥じらうほど。


 ここは茨の城。

 茨を越えられぬ吸血姫が、精霊の力によって封印された城――

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