物語売りの話

 唐代文宗帝とうだいぶんそうてい御代みよ暁凜ぎょうりんなる読本よみほん売りあり。

 泰山府君たいざんふくんまつりの夜、物語せよとのめいに富者の屋敷をおとな蒼肌灼眼そうきしゃくがんの鬼女にまみゆ。

 女の足元に依頼主の男の屍ひとつ。

「あないきどおろしや、此奴こやつに苛まれ枯れ果てた涙、ひとりの血では足らぬ」

 彼は牙剥く鬼女をいなし

「汝もしきさだめに鬼とならば、帝のひとりも籠絡してこそ。これなるは大邑たいゆうしょうの帝を惑わす妖狐妲己ようこだっきの物語。こちらは本朝ほんちょう玄宗帝げんそうていの寵姫楊貴妃の物語。どうだ、我を喰うまえにひとつあがなわぬか」

 と不敵に笑んだ。

 鬼女の瞳が爛と輝く。

 暁凜は語る。妖しき物語の数々を。

 やがて夜が明け暁凜は廃屋にひとり。

 彼の手は代価とおぼしき鬼女の人生を記した書巻が一巻ひとまき

「毎度あり」

 あとに暁凜の溜息ひとつ。

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