第8話 薬研公主と冥耀君

 現世うつしよと冥府が分かたれぬ頃

 冥耀君めいようくんは中原の姫をめとった。

 光凜帝こうりんていの妹。婢妾ひしょうの母の形見の薬研やげんを大切にしており、薬研公主やげんこうしゅとあざなされた。

 が、婚姻は譎詐けっさであった。

 光凜帝は時を置かず冥府に攻め入った。公主は故郷に棄てられたのだ。


 戦火数歳。

 百万の屍をまえに、冥耀君は現世と冥府を分かつこととした。

よ」

 冥耀君は公主をいざない、冥府と現世の境、月震宮げっしんきゅうほうじた。

 譎詐に始まってもじょうまことであったとみえる。

 足繁く通ってくる。


 冥耀君に謎は多い。

「はて面妖な」

 気づけば歳を取らぬおのれを不審に思い、公主が夫にねやで問うても

「よいよい」と笑うばかり。


 光凜帝は現世の地下に巨大な墓陵を造り、死してなお冥府に降りなかった。

 すなわち、逃げたのだ。

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