第9話 薬研公主と黎明君

現世うつしよにて棄て流れくるものをすくうのみ、何事なじょうことかあらん」

 月震宮げっしんきゅうあるじ薬研公主やげんこうしゅう。

 月震宮は魂魄こんぱくを流れとなす大河の砂州にそびゆ。

 世に災いがあるたび、大河は魂火こんかで眩く輝いた。

 公主は火を拾い、こうろこうろと心残りを宿すはくを砕いて除き、丹薬となした。

 丹薬は魂の昇華、人の祈り。

 公主は薬を世に還し、人の心に火を燈す。

 公主の砕けなかった魄はただひとつで、彼は公主の近侍きんじとなった。

「魂の差配は冥耀君めいようくんの領分では」

「なんの。魂魄分かたれぬ汝を我がもとに遣ったは我が夫ぞ。しからば我が行いは意のうちよ」

 近侍の名は黎明君れいめいくんこぼたれぬ魄は諦めぬ意思。彼の声を聴きながら、公主は今がいかな暗夜でも、明けぬ夜はよもあらじと魂火を挽く。

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