第7話 祝福

くに亡びて君を喪い、

われ死を失いし身なればこそ

忘却レテの河岸より彼岸ひがんを遙かに見晴るかす。

身も砕けよと祈れども、

もとより加護なき我が声を、

聞き届けし神もなし。


蒼き月満ちた夜、

我はしもべの首をち、

祈る者なき神殿の石畳を紅く染める。

嗚呼、月影を宿し柩に眠る我が君よ、

供犠の血潮流るる死の河を渡り、

く冥府より還れよかし。


たれか我が君の死を哀れむや?

たれか君のくに滅ぶを憐れむや?

「我が封土は灰燼に帰し、

我が民はいまや汝のみ。

我は無命むみょうの者にして無力の者。

しかれど汝の祈りのある限り、

命火めいかと成してともにあらん」


祈れ、忘却の河を遡り、

祈れ、時の果てに届けんと。

このかいなに君のある限り、

永遠の闇をねやとして、

我は不滅を慶賀せん。

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