第47話 [悪には制裁を]

 無事にあの大馬鹿君たなべに魂の契約をしてもらったところで、夜の街を練り歩いている。

 ちなみに今は、ツノや尻尾は隠している。


(最上強谷……いいや、。悪いけど君には、一人のクラスメイトの手によって瀕死になってもらおうか)


 気分よさげに鼻歌を歌う。そして、季入りで、黒色ベースに金色の模様が入った本に万年筆をサラサラと走らせながら、とある民家に入った。

 そして、流れるように隠された地下室を見つけ出し、そこに侵入する。


「へー、ここが〝暗殺者組織〟なんだぁ。案外普通だな」


 薄暗い部屋の中には机や椅子、壁に貼られ、ばつ印をつけられている人の顔の写真などがあった。


「んー、ここの人たちにクラトス君のどんなデマ情報を流そうかなぁ……。う〜ん、でもやっぱり元仲間だったし、心が痛むねぇ」


 そんなことを呟きながら、ものすごいスピードで資料を改竄していった。


「ふぅ……完・璧ッ!」


 軍帽を一旦脱ぎ、額の汗をぬぐって達成感に浸かっている。


「帰ったら友達に肉じゃが作ってもらお〜」


 軍帽を被り直し、この場を立ち去った。

 外に出て歩いていると、何やら騒がしい声が近くから聞こえてきた。


「なぁなぁいいだろ〜〜?」

「家出したんでしょ? じゃあ俺たちが泊めてあげるからさっ!」

「ほんとに何もしないからさァ、いいでしょ〜」


 三人の男が、中学生ぐらいの女の子を囲んで揉め事を起こしていた。その中の一人が爆発してる髪型で、思わず僕は吹き出してしまった。

 気づかれてはいないが、僕はその三人組と女の子の間に割り込んで話しかけた。


「やぁやぁ君たち。その子困ってるみたいだし、帰らせてあげたら?」


 僕がそう声をかけると、三人は肩を一瞬震わせて一斉にこちらに顔を向けた。殺意も何も乗せていないのに、なんでこんなにビクビクしたのだろうか。


「び、びびった……また最上の野郎が来たのかと思ったぜ……」

「ああ……だがまあ、次会ったら嬲り殺し確定だけどな?」

「ってかなんだこいつの格好? コスプレかぁ?」


 ……へぇ? クラトス君の知り合いなのか。と言っても、知り合い以上友人未満って感じかな。


「君、家出? 悪い事は言わない、家に帰って、お母さんやお父さんにごめんなさいって謝るんだ。夜は、悪人が蛆虫のように湧いて出る」

「で、でも……」


 僕が横にいる女の子にそう言うと、震えているか細い声で何かを伝えようとする。


「僕が今からこいつらに『お仕置き』するから、男が襲いかかって来たと同時に君は耳を塞いでダッシュで逃げろ。絶対耳から指を外すなよ。返事は『はい』だけだ、いいね?」

「は、はいっ」


 ふぅ、と一息ついた後、僕は嘲笑しながら一番奇抜な頭をしている男に話しかける。


「君の頭さぁ……超ウケるね〜! 写真撮っていい? 頭に馬鹿でかい毬栗のっけてる人なんて僕初めて見たよ〜〜!」

「…………あ?」


 するとこめかみに血管を浮かせ、拳をギュッと握り始める。


「あっれれ〜? もしかしてカッコいいとか思ってんの? ウケる〜、実験失敗後の博士にしか見えないよ?」

「ッテメェェーーッ!!!」

「君、行って」


 男が殴りかかってくると同時に、女の子は一目散に逃げ出した。

 ……さて、邪魔者はいなくなった。


 ――ドサッ。


「…………は?」


 地面に何かが落ちた。

 三人の男たちは、それを見ても数秒何かわかっていなかったが、理解した途端に顔が恐怖で染まっていた。


「う、うわぁああああああ!!!」

「う腕が、がァアアアア!!!」

「な、なんなんだよこれ!!」


 そう、落ちたのは襲いかかってきた男の腕だ。

 クラトス君、君は優しいからこんな悪人も殺さずに見逃したんだろう? でも僕は君みたいな甘党であまちゃんじゃないんだ……。


「〝悪には、制裁を〟ね♪」


 軍帽のつばを摘み、ニヤッと笑みを浮かべながら呟く。


「君たち悪人が向かう先は冥土じゃない、〝無〟だよ。そんな〝無〟の土産として、僕の名前と得意な魔法を教えて差し上げよ〜う!」


 僕がとびきりの笑顔でそう伝えているのに、この三人は拍手一つもしないでその場でフリーズしている。


「な、なんだ、体が動かねぇ!」

「いてぇ、いでぇよぉ!!」

「な、なんなんだよこれぁよォーーッ!!」


 叫び、苦しんでいる三人衆を横目に、僕は自己紹介を始めた。


「僕の名は――アチェロ。以後お見知り置きを……ってまぁ、君たちはこれから死ぬんだけどね」


 喚く三人を無視して、手に持っている本にサラサラと万年筆を走らせる。


「それでね? 僕が一番使って、得意とする魔法――〝虚構魔法きょこうまほう〟は、この小説に文字を書くと、その出来事が実際に起こるって魔法なんだ〜。ほらっ!」


 そう言って、動けない一人に対してその本のページを見せる。そこに書いたのは、『三人衆のうち一人がこのページを見た瞬間、その一人の体は塵すら残さず爆散した』だ。


「ぁ――」


 男が何か言葉を発する前に体が爆発する。煙が開けた後、そこには何も残っていなかった。


「う、うわぁあああああ!!!」

「う、嘘だろ……!?!?」

「ふん、ふんふふ〜ん♪」


 気にせず僕は、さらに文字を書き進めて行く。


「た、頼む! これ以上はやめてくれ!! こいつだって腕怪我してるしさぁ!!」

「はぁ〜? 僕の魔法はさぁ、君たちの情報も丸裸にできたりするんだよ。君たちの悪行の数々を見させてもらったよ」


 ペラペラと本のページをめくりながら、溜息を吐いた。


「あと……君、もう死ぬよ?」

「ぇ……」


 バッと僕の本を懇願してくる男の顔面間近に見せつけた。『腕を切られていない方の男が、【炎弓ファイアー・アロー】に貫かれる』。


「いやだ……いやだァァアア!!!」


 直後、炎の矢が男を貫き、そのまま絶命した。


「さて、あとは一人……ってあれ? し、死んでる……」


 出血死か……。残念だな。


「〝悪には、制裁を〟。クラトス君は殺る時は殺るだろうけど、殺らなかったやつがいつか復讐の鬼となって帰ってくるかもしれない。だから、僕みたいな悪を滅する悪が必要なんだよなぁ」


 パタンッと心地の良い音を立てて本を閉じる。


「正義のヒーローは二人もいらない。クラトス君ひとりだけでいい。僕は、ダークヒーローでやっていこう♪」


 軍帽のつばを摘みながらバサツと翼を広げ、闇夜に羽ばたいた。

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