第48話 [暗殺者の正体]

「こっちお願いしまーす」

「はい、入らないでくださーい!」


 けたたましいサイレン音と、ザワザワという人の声で満ち溢れている。


「チッ、ま〜た殺人事件かよ、クソが」


 タバコを口に咥えながら悪態を吐く女性警察官がいた。

 ベージュ色のトレンチコートで身を包み、臙脂色の髪と目を持っている。髪は後ろで結んでポニーテールにし、右目には縦の切り傷が入っていた。


 女性警察官――不知火しらぬい彩羽あやは


「不知火さん、報告します! 一人は腕切断による出血死。もう一人は、腹を貫かれて即死。ですが出血量は少なく、傷口は塞がっていました」


 新米警察官が、アタシにそう報告をしてくる。


「焼灼止血法か?」

「その可能性が高いかと……。でも、どうやったらこんな芸当できるんでしょうね、こんな大穴を開けるなんて。犯罪者連続殺人事件に関連があるんでしょうか?」

「さぁ?」

「『さぁ』って……。不知火さんは超エリート警官で、さらに世界を轟かせているあの〝名探偵〟の相棒なんでしょう?」

「ッ! だ、だれがあんなへなちょこ探偵の相棒だッ!! ったく……」


 ふぅーっと、口から煙を吐き出す。


(これは普通の事件じゃないな。か、何かしらのものが使えるものが起こし事件だな……)


 鼻で笑うと、踵を返して歩き始める。


「ど、どこへ行くんですか!?」

「あ? いや、途中まで辿。ここはお前達に任せた」

「えぇええ!?」



###



『――の付近で、二人の遺体が発見されました。年齢は16歳の男子二人で――』

「うわっ、俺の家から近いな……」


 俺はコーヒーを啜りながらニュースを眺めていた。

 今日はテストが終わって数日経った月曜日だ。なので今日から学校……なのだが。


「はぁ……どうするかな」


 実は、について悩んでいた。どうにかしようとしても、とても動きづらいのだ。


「学校でちょっと聞くか」


 コーヒーを口に放り込んだあとにバッグを持ち、そのまま学園に向かった。

 月曜日だというのに、皆楽しそうな表情をしていた。『これが遠足マジックか……』と心の中で呟きながら教室に入る。


「強谷おっす〜! いやぁ、朝練キチーわ! あっち〜!!」


 下敷きで自分を扇ぎながらそう言ってくる朔。そして、呼んでいないのにぞろぞろとソフィや唯花が俺の元に集まってきた。


「……あ、そういえば最近ちょっと悩み事があるんだよ」


 そう言うと、みんなが声を揃えて驚いた。俺だって悩み事の一つや二つはあるのいうのに。


「それで? モガミんの悩みってなぁに?」

「実はな……最近、後を追われているんだよ。ストーカーってレベルじゃなくて、だ」


 ボソッと他のクラスメイトに聞こえない程度の声量でみんなにこう伝えた。


「えぇぇ!? それ、警察とか……いや、でも師匠だったらそれぐらい撃退できる……?」

「俺も撃退するつもりでいるんだが、全く襲ってこないんだ。今朝もつけられてたしな」


 ほんと、なんでこんなことをするんだか訳がわからない。


「モガミんそれどーすんの?」

「こんなモヤモヤした気持ちじゃあ遠足も楽しめないだろうし、今日決着をつける」

「具体的にはどうすんだ?」


 朔がそう質問してくる。


「〝罠〟だ。今日の夜9時ぐらいに家を出て、そのまま天伸駅に向かう。そこでまたつけられてるようだったらそいつを追うし、襲ってきたら逆に倒す。……絶対他の奴にはいうなよ?」


 さて……こんなチープな罠に引っかかるのかどうかだがな。信じたくはないが、信じておこう。


 ――今日の授業では何事も起きず、そのまま放課後となる。田辺は休みだと聞かされていたが、何をしているんだか。



###



 ――時刻は9時前。パーカーを羽織り、ヘッドフォンを首にかけて夜の街に繰り出していた。


「…………」


 そんな強谷を、高台から狙撃銃についているスコープ越しで眺める一人の男の姿があった。すぅっ、と息を止め、緊迫感が露わになる。そして、引き金を引いた。


「ッ!!」


 強谷は振り向きざまに鉄パイプを手から出し、弾丸を弾いてみせる。そして、その場からは消えていた。


 俺は、高台にいた。ただ高台に来たのではなく、俺を殺そうとした男の後ろに立っていたのだ。

 そして、あらゆる感情を鉄パイプに込めてその男に鉄パイプを振るった。


「チッ……」


 男は高台から飛び降り、道路に着地する。

 そいつの服装は、黒いスーツの上に、ソロをベースとして金・青・桃の柄の入った和風を羽織を纏っていた。


 ……信じていたけど、信じたくなかった。

 0.01%でも違うかもって可能性にかけた。

 けどこいつは、俺が思っている、いつと隣にいる人物だった。

 だから俺は、そいつの名を叫んだ。


「何やってんだよ――!!!!」


 街灯の明かりに照らされるは、いつも横で笑顔を振りまいている井伊野朔だったのだ。

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