第45話 [テストと悪魔]

「ふー……。今日はこんぐらいにしとこーぜ?」


 朔が一息吐いた後、俺たちに向かってそう言う。

 部屋の壁に掛けてある時計を見ると、短い針が真下を指していた。


「そうだな、もう薄暗くなりそうだし今日はこの辺りで区切るか」

「終わった〜〜っ!!」


 ぐいーっと手を真上にあげて伸びをするソフィ。全く勉強に身が入っていなかった気がしたが、こいつなりに頑張っていたんだろう。


「また明日も勉強会?」

「そうするか。結構集中できたし、金曜日まではみんなで勉強するか?」

「「「「賛成ー」」」」


 勉強会はお開きとなり、各々の家にみんな帰る。


「さて……夜ごはんを作った後、さっきやったところを復習しますか」


 玄関でみんなを見送った後、踵を返してキッチンに向かった。



###



 ――一週間後、テスト当日。

 教室は張り詰めた空気で、クラスメイトたちは参考書を凝視していた。


「ぉはよ、朔」

「おう、おはよう強谷。なんか眠そうだな」

「だって今日は最初っから数学があるから、昨日ちょっと夜遅くまで勉強してな。……お前は元気そうだな」

「まあな! 八時間ちゃんと寝てきたぜ!」

「ド健康じゃねぇか」


 互いに問題を出し合いながら時間を潰していると、チャイムがなって先生が教室にやってくる。


 さて、今日の三教科は数学I、生物基礎、世界史で、生物基礎と世界史は全く問題ないのだが……数学Iが不安だ。

 ……まあやれることはやったから取り込んだ分をただ吐き出すだけだ。


「今日はテスト当日だね! みんな最後まで諦めずに頑張ってッ!!」


 サイドチェストしながら八木林はそう言っていた。服がミチミチ言ってて今にも破けそうだ。

 先生の話が終わると、みんなは教室の外にバッグを置き始める。俺も廊下にバッグを持って向かった。


「さて、バッグを置いて……と」

「おい……!」


 目の下にクマができており、フラフラとしている狂吾が話しかけてきた。昨日徹夜でもしたのだろうか。


「何か用か?」

「勝負しろよ!」

「勝負?」


 今この状況だったら、デコピン一発で俺が勝利できそうだが……。


「やるなら容赦はしないぞ」


 俺は腰を低くし、戦闘体制についた。


「ちげぇよ! テストの点数で勝負だ!」

「なぁんだそっちか」


 内容は単純に全ての科目の合計点、どちらが高いかを競うものであった。


「別にいいぞ。何か賭け事はするのか?」


 田辺はニヤリと笑みを浮かべ、こう言ってきた。


「ああ! もちろんするぜ……。〝負けた方は勝った方の言うことなんでも聞く〟でやるぞ」

「まあいいぞ。後から変更するのは無しだからな」

「お前こそ、あとからな言っても無駄だからな! 少し強くて顔がいいくらいで調子乗るんじゃねぇぞ! くそが!!」


 田辺は教室へと戻っていった。

 まあ数学を頑張ろう。うん、頑張ろう……。



###



 一日目のテストが終わった。


「あ〜やっと終わった〜! どうだった?」

「朔、おつかれ。数学も結構できたな」


 まあ生物基礎と世界史は凡ミスが無ければ百点だろう。

 あいつの様子は……。俺は狂吾の姿を見たが、まあまあ満足しているような顔だった。


「さて、昼ごはんは……流石に今週中は勉強に時間を費やすことにするか。弁当でも買うか」



###



 俺こと田辺狂吾は、憎き最上強谷をこの罠に仕掛けることに成功した。

 このテストは所詮出来レースだ。

 その理由が、俺の目の前に


「は〜、やれやれ。どうだい? 君の計画はうまくいきそう?」


 俺の家のソファでお菓子を食べながら寝そべる人型の。黒ベースに金と赤の線が入った軍服を着て、軍帽をかぶっている男。

 軍帽からはみ出ているのは紅葉色の髪の毛だけでなく、ツノも飛び出ている。背中には蝙蝠の翼、尻あたりからは尻尾が生えている。


「なんでまた来たんだよ、


 俺はそいつに向かってそう問う。


「説明するのはめんどいな〜。そんなことよりさ、チョコレートくれない? 甘いものの気分なんだよ」


 軍帽のつばの下から、紅葉色の右目と、群青色の左目にバチリと目が合う。


「テメェ……こっちは寝不足なんだよ……! そんなの自分で取りやがれ!」

「寝不足なのは、君が『かの九条静音をも超えるような地能力が欲しい』と言って、をしたからだろう?」


 ……その通りだ。

 最初は気味が悪いコスプレ野郎だと思っていたが、こいつは本物の悪魔だった。

 そして魔法も使えると知った時、最上あいつに復讐ができると思い、利用させてもらっている。


 寝不足なのは、天才的な頭脳を手に入れる代わりに、二週間眠っていないような状態になるという取引をしたからだ。

 これで静音ちゃんを手に入れてみせる……! 覚悟しておけよ、最上強谷!!


「…………」


 闘志に燃える田辺狂吾を、悪魔は横目で見てクスリと微笑み、心の中で呟いていた。


(バァ〜カ。利用されてるのは君の方だってまだ気づかないんだ。でもよかった。いい人間おもちゃが見つかって♪)


 ――パキッ。

 ポテチを口に放り込んで、噛み砕いた。

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