第32話 [お泊り]

「おお、ここが師匠の家ですか! 結構大

きいですね」

「さっさと入るぞ。そして師匠じゃない」


 俺は家のドアを開け、自分の家へと帰ってきた。


「ただいま」

「お邪魔します」


 俺と唯花は靴を脱ぎ、リビングまでやってきた。


「そこらへんに座ってていいぞ。俺は夜ご飯を作ってくるが、食べてくか?」

「頂いてきます。っていうか、僕が作りますよ!」

「……料理はできるのか?」

「…………」


 俺がそう問うと、そっぽを向いて下手な口笛を吹き始めた。


「……じゃあなるべく迷惑にならないように手伝いをしてもらうか……」

「師匠の仰せのままに!」


 キッチンまで移動し、何を作るかを考えていた。

 うーん、そうだな……今日はハンバーグを作ってみよう。


 手に【清掃クリーン】をかけた後、ハンバーグの材料を冷蔵庫から取り出し、早速手伝ってもらうことにした。


「まずは、この玉ねぎの皮を剥いてくれ。剥けたらこの包丁でみじん切りにしておいてくれ」

「了解です」


 これぐらいはできるだろうと思い任せることにした。俺はボウルに卵を割り、箸でかき混ぜ始めた。


「師匠ーー!!」

「どうした?」


 卵を溶いていると、唯花に声をかけれた。


「玉ねぎの皮は剥けたんですけど、みじん切りってどうやるんですかね……? というか、包丁ってどうやって使うんですか?」

「やれやれ……」


 まさかここまで料理ができなかったとは……。包丁を一回も持ったことがないのか?

 面倒くさいが、包丁の持ち方などを教えることにした。


「いいか、包丁を持つのはこう。んで、使う時は片手を猫のような形にするんだ」

「猫の手……は、恥ずかいけどやってみます。見ておいてください!」

「?? お、おう」


 恥ずかしいってなんだ? ただ切るだけだと思うのに……。


「にゃ……にゃあ……」

「? 何をやってんだお前……」


 突然、顔の横に手を持ってきて、猫の声を出してきた。


「師匠がやれって言ったんでしょーーッ!?」

「いや、俺がやれって言ったのは手を猫のような形にして、手を切らないようにしろってことだけど?」

「〜〜っ! ……恥ずかし損でした……」


 顔を真っ赤にし、涙目でズーンと落ち込む唯花。HAHAHA、愉快愉快。

 その後もトラブルがあったが、上手く完成。


「完成ですね」

「ああ、ちょっと早いけど、もう食べるか」


 作ったハンバーグやサラダなどを皿に移し、机まで持って行って早速食べることに。


「「いただきます」」


 箸でハンバーグを一口サイズに切り分け、パクリと口に放り込む。


「んっ、お、美味しいです! こんな美味しいハンバーグお母さんの手料理以来ですよ!!」

「ん、美味いな」


 だいぶ上手くできており、箸が進んだ。そして、あれよあれよという間に作った料理が皿からなくなった。


「「ご馳走様でした」」


 ご飯を食べ終えた俺たちは皿を流しに置き、皿洗いをした。


 そして、とうとうお楽しみタイムの時間となった。そう、唯花がもらった饅頭二つのうち、一つがもらえるのだ。


「では師匠、どうぞ」

「ありがとな。はむっ…………んま〜〜ッ!!」


 なんだこの美味さ……!? 頰が今までにないほど緩んでいる感覚がする……。


「ふふっ……」

「ん? 何笑ってんだよ」

「いや、やっぱり師匠にするならあなたしかいないなぁって再確認しました♪」

「確認しなくても、俺はお前を弟子にはしない」

「えー……」


 途中で沸かしたお湯で緑茶を作ったが、これがまた饅頭のうまさを引き立ててくれた。


「ご馳走さま。饅頭ありがとな」

「いえいえ。師匠はお菓子が好きなんですね」

「甘いものが好きなんだ。そして、Not師匠」


 饅頭一つをペロリと平らげた後、残った緑茶を飲み干して一息吐いた。


「あ、師匠。今日ここ泊まっていいですか?」

「却下」

「即答ですか……。僕の饅頭半分あげます!」

「もう釣られないぞ。さっさと帰るんだな」

「じゃあ今日だけでいいので! 今後はきませんから!」

「う〜ん……」


 まあ、今後もつきまとわれたら困るし、今日だけ許して泊まらせるか。


「わかった。が、今日だけだぞ」

「やった〜〜!」

「家族とかにはちゃんと連絡しとけよ」


 唯花がスマホを取り出し、家族に連絡した後は、野球中継に釘付けになっていた。野球が大好きらしい。

 野球観戦で興奮した様子の唯花に対し、俺は風呂をためるために掃除をしていた。


(普通、こうゆう雑用は弟子がやるもんじゃないか? ……いや、弟子じゃないけど)


 風呂場から帰った後も、俺に気づくことなく野球に観入っていた。

 数分後、風呂が沸いた時にも唯花は野球に釘付けだったので、俺が先に入ることにした。

 俺が風呂から出た後もまだ野球観戦を続けていた。


「おーい、風呂に入ってこい」

「かっとばせ〜! き・ば・や・し!! ……え、逆転サヨナラホームラン!? わ〜〜ッ!!!」


 タオルをブンブンと回しながら黄色い歓声をあげている。


「おい唯花ッ!!」

「うわぁっ!?」


 俺が大声で唯咲を呼ぶと、やっと気づいてこちらを見た。


「風呂が溜まっているから入ってこい」

「あー……はっ! お背中流します!!」

「俺はもう入ってきた」

「そんなっ!? 弟子になったからには一度は言ってみたいセリフ、『お背中流します』が言えなかった……」


 唯咲はその場でがっくりとし、床に手をつけていた。


「はいはい、俺は師匠じゃありません。ほれ、タオルと着替え。パンツは俺のだが、新品のだから安心しろ」


 俺は手に持っていたものを唯花に渡す。


「何から何までありがとうございます。行ってきます」


 タタッと唯花は風呂場へ駆け出した。


「さて、どこに寝かせるか……」


 テレビについている野球を見ながら、ボソッとそう呟いた。

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