第21話 [最強賢者vs氷神獣《フェンリル』③]

 さて、と。この状況をどう打開するかね。

 俺の推測だが、おそらくソフィアは今、魔力を一気に使いすぎたことによる〝魔力暴走〟の状態に入ってる。

 魔力暴走はその名の通り魔力の暴走で、魔力を放出する器官の穴が肥大化し、魔力が溢れ出てしまうことだ。

 直す方法は魔力が尽きるまで暴れさせるか、その肥大化した穴を刺激して縮めるかだ。


 ただ……このまま放っておいたら日本が氷河期に入るな。


『GAAAAAA!!!』


 全長15メートルぐらいある巨体の前足を『ダンッ!』と地面に叩くと、そこから巨大な氷山が形成された。


「くくくッ! 容赦ないなァ!!」


 手をかざし、【天獄之焔ソプラ ・インフェルノ】をそこから繰り出す。ほんの少しだが、氷が溶けにくくなっている気がする。


(このままじゃジリ貧か……)


 俺の必殺魔法言っても過言ではない禁忌魔法――【天獄之焔ソプラ ・インフェルノ】。その能力は〝千変万化〟。破壊の限りを尽くせるし、創造したり人を癒したりできる。

 ……が、転生したことによって能力のほんの一部しかまだ引き出せない。その能力は……


『GAAA!!』

「ほいっ!」


 ソフィアは空中に生成された氷を飛ばしてくるが、俺は炎で溶かす。

 そう――これがその一部だ。能力は炎らしい〝燃焼〟だ。


 ただこの禁忌魔法は名前の通り〝禁忌〟だ。使いすぎると身を滅ぼすし、周囲に多大な影響を及ぼしてしまう。

 またコントロールの練習をしなければな……。


『GRUAAAAA!!』

「待ってろソフィア、すぐ正気にしてやる」


 傘は燃え尽きたから使えない。俺は全身に黄金の炎を纏い、周囲に氷が広がるのを抑えながらソフィアに近づく。すると、氷と四肢から繰り出される鎖によって妨害される。

 炎を足の裏や手のひらから吹き出すことによって推進力を生み出し、氷と鎖を避けてソフィアに近づく。


「さ〜て、どこが発生源だ」


 炎と同じ黄金の瞳を動かしながらソフィアの魔力発生源を探す。

 発生源はその時によって変わってくる。腕だったり足だったり、指先だったりすることもある。

 だからこそ、この神力が混じった魔力で満ち溢れたこの空間で探すのはとても厄介だ。


『GRRRRRAAA!!!』


 猫パンチならぬ、犬パンチをしてきた。


「危ねぇ! 全く、躾がなったないでかい犬だ……」


 本来の姿に戻ってることで、パワーもアジリティも格段に上昇してるな。

 冷静に分析していると、ソフィアが全身に氷を纏い始めて甲冑で覆っているような状態になった。


「おいおい……俺への嫌がらせポイント高いな!」


 地面を氷のナックルのようになった前足で強力な犬パンチを繰り出し、大地を揺らす。

 犬パンチに注意して避けていると、横から鎖が飛んできた。俺は間一髪で回避する。


「ッ!」


 ――その一瞬だった。

 鎖の方に気を取られすぎてしまい、迫り来る前足を回避できず……潰された。


『GAUU……』


 轟音が鳴り止むと、辺りは静寂に包まれる。


 ――しかし、その静寂はソフィアの叫び声で破られる。

 

 いいや、足の裏から炎が溢れていた。


「――見つけたぞォォ!!」


 俺は足の裏でなんとか堪えていたが、発生源を見つけると同時に足を殴って脱出した。


「発生源は……俺から見て右頬だッ!!」


 ソフィアの顔面に向かって飛び上がり、拳を後ろに引く。

 そして殴るぞというその瞬間だった。


(ちょっと待て。いくらでかくなって獣みたいな姿になっても女の子……グーはダメじゃね? 俺の死んだ父さんも『女の子には優しくしろ』って言ってたし……。

 そうだ、パーでいこう! パーなら大丈夫なはずだ! 父さん、ソフィア、許してくれ!!)


 ※この間0.01秒。


「おすわり!!」


 ――ベッッシィ――ン!!!!


 黄金の炎を纏った平手がソフィアの右頬に炸裂し、公園内にいい音が鳴り響いた。


『キャウンッ!!』


 ソフィアはドスンと音を立てて倒れ、元の銀髪碧眼女子の姿に戻った。


「やれやれ……一件落着か」


 ふぅ、と一息吐く。

 しかし……この公園内に魔力溢れすぎてるな。よしっ。


「【天獄之焔ソプラ ・インフェルノ】!」


 俺は周囲に蔓延る魔力を〝燃焼〟させた。


「置いていくわけにはいかないから、連れて帰るか」


 地面に寝そべるソフィアをお姫様抱っこし、【空間転移テレポート】で自分の家に帰った。

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