第20話 [最強賢者vs氷神獣《フェンリル》②]
今、あたしの後ろでは最上強谷っていうクラスメイトの体が凍り始めている。
……正直最後のは危なかった。あと数秒早かったらあたしの負けになっていたかもしれない。
「あー……。あの時の氷の球か」
後ろから声が聞こえる。
「そっ、あれはただの氷弾じゃない。〝種〟なのよ。熱を栄養分にして、氷の根を全身に張って行く魔法なの!」
「だからあの時、周囲一帯の魔法を解いて肉弾戦に持ち込んだ。理由は俺に熱を発生させるとともに、身体中に根を張っているのに気づかせないためってとこか」
……すごい。一瞬であたしの考えていたことを理解してる。考える暇を与えなくてよかった。
「これであたしの勝ちよね?」
「ん? 何を言ってるんだ? まだ戦いは終わっていないぞ」
「は……?」
誰がどう見てもあたしの完全勝利だろう。
負け惜しみ……?
「ちなみに言うが、負け惜しみではない。俺に完全なトドメを刺さなければ、お前負けるぞ」
「はぁ……。そんなにトドメをさしてほしいなら刺してあげる。でもそれって、〝死〟を意味するのよ? 死にたいの?」
「大丈夫、死にはしない。そう言う魔法もかけてるから遠慮なくトドメを刺してみろ」
ニヤニヤとした顔をしながらあたしにそう言ってくる。少しイラッとしたので、本当にトドメを刺すことにした。
「後悔しても知らないわよ……。最後に言い残すことぐらいは聞いてあげる」
「う〜ん……。そうだな、これだけは言っておこう」
更に凍らされて行くなかで、彼はこう言い残した。
「〝俺とお前の戦闘の相性最悪だよ〟」
そして、彼の体は氷に包まれる。彼を中心にして氷が大きくなって行き、空色の幹に白い葉の巨大樹となった。
「
真っ白な息を吐きながら、魔法の名を呟く。
この樹の生贄になった者はあたしが許可しない限り出られることがない。これを発動させるには莫大な魔力の緻密操作を必要とするからあまり使えない大技だ。
発動させようにも、氷の種に気ずかれてしまったら終わりなのだ。
……にしても、戦闘の相性が最悪?
一体どう言うことなのかわからないけれど、あたしの勝ちが確定――
『――言っただろ。〝戦闘の相性最悪だ〟って』
「なッ!?!?」
声がした氷の樹から数メートル距離を取る。
(喋った……? いや、あの中は超低温。少しでも動くことなんてできないはず……)
『氷は――〝炎〟に弱い』
彼が言葉を発した時、あたしの魔法で顕現させた樹の白い葉っぱがハラハラと落ち始める。
そして、樹の幹に亀裂が走り始めた。
『
亀裂から黄金の炎が吹き出てくる。その炎は樹だけでなく、周囲にある氷全てを溶かしていた。
「あっつ!!」
「くくくっ! どうしたソフィア、自慢の氷が全て無くなりそうだぞ?」
「ッ!」
口を三日月型にし、全身にその炎を纏いながらゆっくりとあたしに近づいてくる。
手を地面につけ、彼に向かって氷を放ったのだが、辿り着くことなく全て溶かされる。
「一瞬で決めるぞ!!」
「速――」
一瞬、金の炎の残像が見えたけれど、真横には彼の姿があった。反応できかった。
(拳が飛んでくる……! けど速すぎて躱せない!! 死――)
死を悟った。
しかし、迫り来る拳はあたしの顔の真横を通り過ぎていった。
「ほいっ、あれが当たってたらソフィアは死んでいたと思うが……どうだ? この状態でまだやるか?」
「ふぇ……あ、い、や……負けました……」
あれが当たってたらとにかくやばかったと思う。あれには勝てないかな……。
そう思ったあたしは負けを認めることにした。勝てると思っていたから悔しい……!
へにゃりと腰を抜かして、地面に座りながらそんなことを考えていた。
「でも危なかったぞ。ソフィアが氷使いじゃなかったら負けてた自信があったな」
「それはありがと。にしてもあなた……何者なの?」
「俺は最上強谷――最強を目指す者だ」
そう言うこと聞いたんじゃないんだけどなぁ……。
あははと笑い、胸を下ろしていたその瞬間だった。
――ドクンッ
「ゔっ!!」
「ん? どうした、ソフィア」
心臓が……痛い! 魔力が溢れ出る!!
「逃、げて……!」
「おい、ソフィア――」
溶かされた氷は再び凍結を始め、さっきよりも広範囲にわたって氷始める。
(抑えないとやばい……やばいのに! 意識が飲まれ……)
――彼女の意識は完全に途切れると同時に体が変化して行き、白人の毛並みで二対の翼を持つ真の姿――
『AWOOOON!!!!』
「…………これはやばいな」
遠吠えをする彼女に対し、強谷はただボソッとそう呟いた。
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