第19話 [最強賢者vs氷神獣《フェンリル》①]

 ソフィアが片足を浮かし、それを地面につけると同時に、周囲の地面や遊具が凍てつき、銀世界となる。

 俺の足も凍らされ、固定される。


「じゃあ行くよ〜〜ッ!!」


 ソフィアの両方の手のひらから鎖が現れ、それを縦横無尽に扱ってくる。鎖が当たる寸前に足の解凍が完了してなんとか避けた。

 ……殺す気で行かないと逆に殺されるな。


「まだまだ!」


 襲いかかる鎖をバク転や、空中で体をひねったり、傘で弾いたりして回避する。


(やられっぱなしじゃつまらないな……!)


  一本の木に向かって走る。二本の鎖は俺を追尾して来ているので、それを利用する。

 木を足で蹴り、頭上に向かって飛んで一回転する。鎖は木に突き刺さった。


「おおっ!? やるねぇ……!」

「んじゃ……俺からも行かせてもらうか!!」


 宙に浮いた俺は、鎖に足をつけて力を込める。そして刹那のうちにソフィアとの距離を縮めて傘を一閃――


「くくく……魔法の緻密操作が得意なんだな」

「氷使いなのに冷やっとしたね〜……」


 傘はソフィアに当たることなく地面から生えた氷柱で防がれた。


「でもそれだったら……もっと速くしても問題ないな……!!」


 付与魔法エンチャント……【武器強化ぶききょうか】、【強靭化きょうじんか】、【火炎かえん】、etcエトセトラ……。

 傘に様々な魔法をかける。さらに自分にも魔法をかけてスピードとパワーをアップさせる。


 ソフィアも鎖を木から外し、手に収納した。

 炎を纏う傘でソフィアから繰り広げられる氷の柱と鎖を弾き、避けながら攻めて攻めて攻めまくる。赤白い火花と、砕け散る氷が幻想的だった。

 ソフィアのこめかみからは汗がたらりと垂れていて、少し険しい表情になった。


「くっ……こうなったら!! 神獣氷魔法しんじゅうひょうまほう……【凍結世界のアリスアリス・イン・グレイシャルエイジ】!!」


 再び周囲の気温は一気に下がり、魔法なしだったら一瞬で冷凍保存されそうな勢いだ。

 そして地面から氷が生えていて、空中にも浮いていた。


「ふんっ!!」


 俺はとりあえず気にせずにソフィアの元に向かって傘を叩きつける。だが、ソフィアだと思っていたのは氷像だった。


(周囲一帯の氷から反射されてたのか……。氷神獣フェンリルの特性で見つけることがかなり厄介だ……)

「こないならあたしから行くよ〜ッ!! 【氷種ヘイルストーン】!」


 どこかにいるソフィアが、無数の氷弾を放った。その氷弾は地面や空中にある氷に当たって軌道を変え、また氷に当たって……と、乱反射していた。


「面白い戦い方をするなぁ……!」


 襲いかかる氷弾を傘で叩き落としながらそう呟く。

 ……が、かなりピンチだ。ソフィアの居場所が全くわからない。【魔力探知まりょくたんち】や【気配探知けはいたんち】がうまく発動しないのだ。おそらく、ソフィアの魔法のせいだ。

 極大魔法を使おうにも、使用後に数秒のインターバルが必要になる。そのインターバル中に叩かれたらゲームセット……。やばいな。


「ぐっ……ゔぅっ!!」


 考え込んだほんの一瞬だった。俺の腹に氷弾が埋め込まれ、血が吹き出る。そしてその血はパキパキと凍っていた。致命傷ではない。


 ……自分の血を見たのは久々だ。戦いはやっぱり――こうでなくちゃあなぁ!!


「一瞬が、命取りだよッ!!」

「ッ!!」


 氷が消え、空中から俺に襲いかかろうとしているソフィアの姿が目視出来た。ソフィアの腕と足は太く、白銀の毛並みが生えていて、獣の姿の時の手足のようになっている。

 拳を振り下ろしてくるソフィアを避け、彼女の拳は地面に叩きつけられる。大地は割れ、轟音が鳴り響く。


「部位的に元の姿に戻したか……!」

「気を引き締めてよ? うっかり頭を吹き飛ばしちゃうかもしれないからね♡」


 可愛らしい声で物騒なことを口走っていたソフィア。


「アイツの体があったまっちまう決着を決めたいな……。炎魔法――【天穿焔てんせんほむら】!!」


 極大魔法ではないが、上級魔法の炎魔法を使った。俺の手のひらから四十螺旋の炎が吹き出てソフィアを包む。


「そんなんじゃあたしは燃やせないよ!!」


 燃え盛る炎の中からソフィアが飛び出し、俺の顔面を叩いて頭が吹き飛ぶ――……ことはなかった。

 俺の体は光になって消えた。そう、それは【分身アヴァター】だ。俺の濃い魔力をびっしりつけておき、本体の俺は気配と魔力を消してソフィアの後ろで傘を構えている。


(ここで終わらせる!!)


 ソフィアは反応できていないし、身体能力を強化した俺の体ならば一瞬で傘を当てることが可能――


「――どうやら、〝チェックメイト〟みたいだね?」

「なッ!?」


 傘を一閃することができなかった。

 動かそうとすると、全身がピキピキと凍り始めていたのだ。

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