第13話 [バレてる?]
制服に着替え終え、皆が弁当を取り出したり購買に昼飯を買いに行っている中、俺の教室にやってきている生徒がいた。
「……強谷、探した。どこいた」
デジャヴを感じさせる正体は静音だった。
頭のてっぺんにあるアホ毛はギザギザした形になっており、怒っているようだった。
「普通に体育をしてたんだが……」
「うぅん……。まあ、許す」
「何が?」
よくわからないやつだ。
やれやれと思いながら息を吐いた後、静音に話しかける。
「それで? またなんか用があるからきたのか?」
「ん、ご飯一緒に食べよ」
持参している弁当箱を見せつけ、上目遣いでそう言ってきた。
「まあいいぞ。でも今日弁当持ってきてないから購買行っていいか?」
「もちのろん」
財布をバッグから取り出して購買に向かう。ちなみにクラスメイトたちはなぜか、この世の終わりみたいな顔をしながら俺たちを見つめていた。
購買まで到着したのだが、そこはなんとも荒れた場所だった。
「帝王学園特製絶品クロワッサン!!」
「こっちクリームパンっ!!」
「届けぇ! 俺の思い! 購買のおばちゃんにぃ!!」
「特性クロワッサンがあと三つだぁ……」
「だにぃ!?」
「畜生……今日は学食で我慢するべ」
この学園には安くて美味しい学食があるのだが、購買で売っているパンやらが超絶品なので、そっちを買ってから学食に行く人もいるらしい。
俺は基本的弁当を持ってきているが、今日は作るの忘れたから購買で済ませる。なんとか絶品クロワッサンを買ってみせる。
「よし、俺は戦争に行ってくる」
「購買戦争……残酷だよね」
声や身長が小さい者はいとも容易く蹴落とされ、戦争(購買)に参加することすらでこない。
「俺は勝ち取ってみせる!」
「ん、がんばっ」
人混みの中に小銭を握りしめて向かう。その人混みのほんの僅かな隙間という隙間を縫うように進み、購買のおばちゃんとの距離を着実に縮めて行く。
「お、おお……。強谷すごい。あの戦争で勝ち組」
するりするりと人混みを抜け、購買のおばちゃんの元へと辿り着いた。
「おばちゃん、帝王学園特製クロワッサン二つ。なかったら一つでも大丈夫です」
「あらっ、イケメン♡ じゃあクロワッサンと、特別にこれもあげちゃう!」
勝訴。
クロワッサン二つとプリンをもらい、俺はホクホク顔だ。
静音はぱちぱちと手を叩いて祝福してくれた。
「強谷、すごい」
「昼飯が調達できたから食べるか。どこで食べるんだ?」
「んー……。あっ、ついてきて」
裾を摘まれ引っ張られる。
「向かう先、屋上」
「あー、そういえばこの学園は普通に屋上解放してるんだっけな」
「ん、結構穴場」
引っ張られながら廊下を歩き、階段を登り、屋上まで到着した。
そこには誰もおらず、貸切状態みたいな感じであった。
「食べよ」
「そうだな」
「「いただきます」」
屋上においてあるベンチに座ると、静音は弁当の包みを開けてモグモグと食べ始めた。俺も袋からパンを取り出して食べ始める。
「「…………」」
特に話す話題もないので、無言で風の音を聞いている。一、二分の沈黙の後、静音が話しかけてきた。
「ねぇ、強谷」
「どうした?」
「強谷は……なんで他の人と違う?」
「え、何? 哲学?」
よくわからない質問をしてくる静音。
「私を助けた人はみんな……何かして欲しそうだった。だけど、強谷は違う。なんで……?」
「『なんで』って言われてもなぁ……。利益なんか求めないし」
「なんで無利益で人助ける?」
「人を助けるのに理由なんかいらないだろ。無理に理由を作ってたら、助けられる人も助けられなくなっちゃいそうだしな」
率直に思ったことを言ってみた。
すると半分納得して半分納得していなさそうな感じを醸し出していた。
「うむむ……。まあわかった。じゃあ二つ目」
「え、まだあるのか?」
「強谷は――他の人にない何の力を持ってる?」
「…………。何、とは?」
……静音という女、勘がいいのか?
この瞬間に、静音に対する俺の警戒心は急上昇した。
「他の人にない何か。強谷持ってる」
「何を根拠に」
「……勘」
「勘かぁ……」
あのアホ毛から受信でもしてるのだろうか? 鬼○郎のアレみたいな感じか。
「期待しないほうがいいぞ。探るだけ探っても無駄だと思うしな」
そう、無駄なんだ。仮に静音が俺の秘密を知ったとしても、俺がその瞬間に魔法で記憶を消すからな。
だから探るの所詮時間の無駄だ。
「むぅ……でも、何か持ってる。絶対。気になる。教えてっ」
アホ毛をピョコピョコと跳ねさせながらずいっと顔を近づける静音。
「近いし、俺は知らん」
「私……気になります……!」
「待て、それはアウト」
その後も攻防戦を繰り広げながら昼放課は過ぎていった。
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