第11話 [学問無双]

「いんや〜〜! にしてもすごいな、強谷!」

「何が?」

「あの寡黙令嬢にあそこまで気に入られていることだよ!」


 朔がテンションを上げた様子で俺に話しかけてくる。


「俺が静音に気に入られてる? ただお礼したいだけじゃないのか?」

「いーや、違うぜ? 何回か他の人も助けていたが、ただ『ありがと』って言われただけらしい」

「……じゃあなんで俺だけこんなに……」

「だから気に入られてんだってば!」


 気に入られる要素なんかあったか? 何かを勘付いているとか……いや、考えすぎか。


「……チッ」


 どこからか舌打ちが聞こえてくる。

 なんとなく顔を上げると、田辺と目があった。ギロリと再び睨まれフイッとそっぽを向かれた。

 ……やれ、面倒ごとに巻き込まれそうだな。


「一時間目は英語表現だ。……憂鬱だ。うぇ〜〜」

「どうした朔、そんな冬眠明けで上手く発声できてないウシガエルみたいな声出して」

「どんな例えしてんだお前……」

「思ったことを言っただけだ」


 ジトーッと半目で俺を見てくる朔。


「いや、何。一時間目の英表がやなんだよ」

「英語苦手だったっけ?」

「もちのろん。日本にいたら英語の勉強使わねぇし、英語の文法とかわけわかんねぇぜ!!」

「おお……ご愁傷様」


 ズーンと少し落ち込み気味になってしまった。

 机から英表の教科書を取り出し、先生が来るのを待った。


「はーい、みんな二日ぶりー。授業始めるわよー」


 ドアから眼鏡をかけた四十代くらいの女性の先生が教室にやってきた。朔は明らかに機嫌が悪そうに頬杖をついている。

 号令をした後、授業が進み始める。


「えーっと、今日は誰に当てようかしら……って、ん? あ、あれ? そこの席にいるのって……」

「せんせ〜、こいつ強谷っすよ〜」

「あらあら! 男前だったのねー」


 朔が突然俺に指をさしてそう言う。


「じゃあ強谷くん、英文に直してもらおうかしらねー」


 ……朔よ、当たったのはお前のせいだぞ。ニヤニヤ笑うな、ムカつく。


「すごーく難しい文だから、直せるところだけでいいわよー」


 先生が黒板にすらすらとと英文を書いて行く。

 だが俺には全て翻訳できそうだ。


(あっ、そういえば……)


 常時発動させている魔法の中に、【言語理解トランスレイション】というどんな言語でも理解し、その後は日常的に使えるようになるという魔法。

 理解するだけでなく、別の言語に変換も可能になるという便利な魔法だ。

 だからこんなに簡単だったのか。


「じゃあお願いするわねー」

「はい。〝――――〟」


 俺は椅子から立ち上がり、スラスラと英文を全て読んだ。


「す、すごいわ……。正解よ」


 ――ドヨドヨッ

 またクラスが騒がしくなる。


「す、すげぇー」

「あれ先生のオリジナル文だろ?」

「それを解くなんてすごいね、私でもできないよ」


 席に座り息をふぅ、と吐いた。


「お前すげぇな、強谷」

「朔もこれぐらいできるように頑張れよ」

「俺に英語を求めんな」


 授業は何事もなく終わり、二時間目に入った。

 二時間目の授業は生物だったのだが、抜き打ち小テストが行われるらしく、先生にブーイングが殺到していた。


「つべこべ言わずにテストやるぞゴルァア!」


 スキンヘッドでグラサンをかけている先生だった。


「ブーブー!」

「世間は許してくれないと思います!」

「ご褒美ご褒美〜!!」


 クラスメイトたちは一切萎縮すことなく、先生に異議申し立てている。


「だァー! わかったわかった! 今日特別に作ってきたマカロンを上位五名にやるよ!!」

「「「「「わーい!」」」」」


 そういえばこの先生、見た目とは裏腹にお菓子作りが趣味だった。

 甘味のため、絶対に一位取ってやる!


「お、おい強谷……よだれ」

「はっ!? ……ついうっかり」


 想像しただけでよだれが垂れてしまった……。気をつけなければ。


 前の席のクラスメイトから回された答案用紙と解答容姿を受け取り、問題を確認する。


(細胞とかの問題か……。簡単だな)


 記憶が戻る前まではこういう場合でも目立たないために抑えていたが、今ではもう関係ない。

 全力で一位を取らせてもらおうか……!


 解答用紙にペンを走らせ、一瞬で全ての問題を解いた。数分後、小テストは終了した。


「うぃ、解答やめ。答え配るから、隣の奴と交換して答え合わせしろォ」


 朔は……まあ半分ぐらいだな。あまり出来が良くない。


「お、おい強谷! 全問正解だぜ!?」

「これぐらいは簡単だったぞ」


 因みにクラスで満点は俺だけで、また目立っていた。

 マカロンは美味しくいただきました。

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