第9話 [イケメンとムキムキとイケメン]

「みんな席つけ〜。休み明けだからって、羽目外しすぎちゃダメだよ!」


 肌が黒光りしており、服が苦しいも泣き叫んでいそうなほどムキムキな男が教室に入って来た。

 これが俺の担任の先生――八木林やぎばやし漢次かんじ。ダンベル部の顧問で、筋トレが趣味。筋肉に名前をつけて可愛がっているらしい。


「出席とるよ〜」


 先生が来たことで、クラスメイトは各々の席に座り、やっと静かになった。


「えーっと……君、強谷……?」

「そうですけど」

「お、おお……。そうなんだ」


 目が合った瞬間、目を見開いて驚かれた。髪型を変えるだけでだいぶ印象が変わるみたいだ。


「じゃ、週末課題一番後ろの人集めてー」


 ちなみに俺の席は一番後ろの窓側の席だ。日当たりがいいし、外の景色が眺められるから結構いい席。

 バッグから言われた週末課題を取り出し、前列にいるクラスメイトのを回収する。


「おっと……? ととっ、わぁっ!!」


 俺と同じ一番後ろの席で回収した女子がバランスを崩し、持っているファイルを落としかけている。


「よっ」

「ふぇっ!?」


 プリントと女子の手と挟み、プリントが落ちるのを防いだ。


「大丈夫か?」

「ひゃ、ひゃい〜……」

「?」


 女子は顔を真っ赤にし、頭のてっぺんから湯気を放出していた。そしてそのまま小走りで自分の席に戻った。


「……生活に支障がではじめた」

「強谷ッ! 近くで見てわかったけど、かなり鍛えてるねェ……。よかったらぜひ僕のダンベル部に入部しないかいッ!?」


 隣で見ていた担任の先生が謎のポーズをして筋肉の主張をしながら、そんなことを言ってきた。

 まあ、答えは決まってる。


「結構です」

「ガーーン!!」


 先生の提案を丁重に断り、自分の席に戻った。


「強谷! お前面白くなったな〜!」


 隣からそう声をかけられる。


「そうか?」


 茶色の前髪をヘアピンで上げており、同じ色の目と整った顔を持って、耳に青い火の玉――人魂のようなイヤリングをつけている。

 こいつの名は――井伊野いいのさく。サッカー部に入部していると聞いたことがある。男女問わず人気の生徒らしい。


「にしても強谷〜、どういう風の吹き回しなんだ? いきなりイメチェンして」

「んー、ただの気まぐれだよ。少しだ」

「なんかカッケェ〜〜!」


 先生が朝のHR《ホームルーム》を進める中、俺たちの話にも花が咲く。


「今まで気づかなかったけど、強谷って結構強い?」

「……なんでそんなことを?」

「なんとな〜くわかったんだ。ちょっと気になってさ?」

「ま、人並み以上には強い自信があるな。強い奴がいたら紹介してくれよ。弱い奴しかいないんだ」

「あっはっは! やっぱ面白いな〜!!」


 突然、朔が高笑いをする。


「ちょいそこ! 騒がないことッ!!」

「「す、すいません……」」


 先生に怒られてしまった。

 こうやってズケズケと話してくるが、あまり不快な気分にはならない。これが人気の理由なんだろう。俺は別に嫌いではないが、一部からは反感を買いそうだ。


「にしても朔、前々からその人魂的なイヤリングについて思ってたんだが……オカルト系好きなのか?」

「好きでも嫌いでもないなぁ」

「成る程?」

「――というのは表向き。実は大好きで、今度オカルト研修部つくろうかと思ってんだ♪」


 別に隠さなくてもいいと思うんだが、その人なりに事情があるんだろうな。人には言えないナニカは、どんな人間にもあるだろうし。


「あ、そうそう。なぁ強谷、今日の放課後ちょっとサッカーしないか?」


 サッカーか。足を使ってボールを蹴るスポーツだな。足技はまあ得意な方だからいけるな。

 どの程度の実力が確かめてやるとするか。


「うーん、夜ごはんの用意とかあるから……少しならいいぞ」

「いよっしゃ〜〜! 悪いが手加減しないぜェ?」

「ふっ、そっちこそ負けないようにせいぜい気をつけろよ?」


 ケラケラと笑う朔に対し、俺はニヤリと笑ってみせた。

 先生のHRも終わり、みんなは雑談をし始めた。俺たちもそうしていたが、突然教室のドアがガラッと開くと同時に、教室は静寂に包まれた。

 ドアを開けた張本人は、見覚えのある人だった。


「…………」


 無口で無表情。頭のてっぺんに生えるアホ毛をピョコピョコと動かしていた。

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