第8話 [変貌した陰キャ]
「すー……すー……。――……あっ」
人間という生き物は不思議で、ある時突然何かを悟ることがある。それは刹那の間に起こるものだ。
俺はむくりとベッドから起き上がり、目先の壁の間にある虚空を見つめながらこう言葉を零す。
「…………寝坊した」
スマホを一瞬で掴んで画面を見る。現在の時刻は8時3分。次の電車に乗らなければ遅刻確定だ。
「やばいやばい……!」
急いでパジャマから制服に着替え、ヘッドフォンを首にかけた。そして、今日の授業の教科書をバッグに詰め込んだあと直ぐに階段を降りる。
朝ごはんは食べる暇ないからまあいいか。
「――行ってきます!」
誰もいない家の中にそう叫んで外へ飛び出した。
駅までダッシュで向かっているが、走っている俺の姿を見てギョッとする人が大勢だった。
「速ッ! サバンナにいるチーターかよ!!」
「新幹線だな……」
「いや、彗星とか?」
「殺○んせーじゃね?」
周りからの声をそのまま聞き流して駅へ向かう。
『――扉が閉まります』
「ああッ!!」
俺が駅のホームにたどり着き、電車の方を見ると同時にドアが閉まって発進してしまった。
「いや……まだいける! 【
俺はその場から姿を消した。この姿を消される魔法は風の上級魔法だ。前世では、俺への恐怖感を我慢してまで教えを乞う奴もいたな。
「そんでもって〜【
俺はお馴染みのこの魔法を使用した。転移先は電車内だ。まだゆっくりと進んでいたので、一番人が少なかった車両に転移することに成功した。
人の視線がないうちに【
「……うぅん……」
同じ制服を着た生徒もいるが、やっぱり視線が向いているな。あと顔が少し赤い気がする。
電車を降り、そのまま歩みを進めて帝王学園の校門をくぐる。
「ねぇ何あの人! 超イケメンなんですけど!!」
「あんな人この高校にいたっけ!?」
「転校生の可能性大!!」
「同じクラスだったらいいな〜〜」
「モデルさんとかかも!」
「この高校モデルとかいっぱいいるもんねぇ」
「ワンチャン一番かっこいいかも……!?」
何やら騒がしいなと思い、その声の方に顔を向けた。
「「「「「キャアァ〜〜!!!!」」」」」
「!?」
俺が視線を向けると同時に悲鳴を上げられ、逃げられてしまった。
やれ厄介だと思い、ボォーッとしながら下駄箱で靴を脱ぎ、スリッパと履き替える。そして自分のクラスへと向かった。
「えーっと、確か一年A組だったな」
廊下を歩き、自分のクラスの扉をガラッと開ける。案の定、この教室のいるクラスメイトたちは驚愕の表情を浮かべていた。
自分の席に座ると、声を上げて驚く者が大多数だった。
「な、なぁ……」
「ん?」
近くの席にいるクラスメイトの男子が俺に話しかけてくる。
「この席……〝最上〟ってやつの席なんだけど、お前って……」
「? 何言ってるんだ? 俺は最上強谷だぞ?」
「「「「「えぇぇぇ!?!?」」」」」
俺のクラスメイトはこの土日で変わったのだろうか? こんなに叫んだりしていなかったはずだけど……。
「おまっ……その髪型とかなんなんだよッ!?」
「ああ、そう言うことか」
クラスメイトが変わったからじゃなく、俺が変わったのが理由か。
「えー……。あれだ、イメチェンみたいな?」
「それにしては思い切ったなぁ……。まあそっちの方が似合ってるからいいけどよ〜」
「そりゃどーも」
少し口角を上げて笑ってみせた。
「はうぁっ!!」
「英ちゃんが倒れたァーッ!!」
「イケメンスマイル……破壊力Aよッ!」
「この学園に新たな美男子が誕生した瞬間であった」
事あるごとにクラスが騒然とするのは慣れないなぁ……。
ボケーっと頬杖をつきながら窓の外の雲を眺めながら、そんなことを考えたりした。
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