第7話 [ロックオン]
俺が「大丈夫か?」と声をかけたが、やはり無表情のままだった。だがちゃんと聞こえているらしく、応答はしてくれて、初めて声を聞いた。
「ん……だいじょぶ。嬉しかった、ありが」
ピョコピョコとアホ毛が嬉しそうに跳ねている。どういう原理だ。魔法か?
表情筋がない代わりに、アホ毛筋(?)が発達しているようだな、と自分に言い聞かせた。
「こんなに夜遅くに出歩くもんじゃないぞ。夜は危険だからな」
「塾行ってた……。そういうあなた、ここで何してる?」
「え? 俺は――」
『趣味の深夜徘徊をしてました』が俺の答えだな。……あれ、俺って不審者じゃね?
嘘はつかず、本当のことを言うとしよう。
「夜の街が好きだから散歩してた……みたいな?」
嘘はついていない。言い換えただけだ。少しばかりフィルターをかけさせてもらったがな。
「! わかる……! 夜は、良い」
少しだけ
「好きなのはわかるけど、やっぱり夜の街は危険があるからあまり出歩かない方がいい。……一人で帰れるか?」
「ん、帰れる……。けど、お礼……」
「大丈夫だ。通りすがりに倒しただけだし、あんな状況だったら誰でも助けてるだろうしさ」
正直あんな奴ら、敵と言うにはあまりにも弱すぎたし、戦いにすらなってなかったからな。
こんなのでお礼をされるわけにはいかない。
「じゃっ、俺はこれにて。おやすみなさい」
タッタッタッ、と走ってその場から立ち去った。
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「…………行っちゃった」
アホ毛がしょぼんと下に向かって垂れる。
ご存知の通り、彼女の名は九条静音。彼女は、日本でもナンバーワンと言われているほどの帝王学院に首席で入学した天才である。
さらに、家の総資産額は100兆を余裕で超えているお嬢様でもあるのだ。
「でも、あのジャージ、私の学園と同じ……。お礼、できる……!」
相変わらず無表情だが、アホ毛はユラユラと、炎が揺れるように動いており、やる気が上がっているようだ。
「……にしても、あの人は不思議。普通、私の胸とか顔見るのに、目見てくれた……」
その容貌とお嬢様という理由で、金を手に色ようとするものや、肉体的な関係になりたいと思う輩共が多数だった。
だからこそ、しっかりと目を見て、心で会話をしている感覚が、彼女は嬉しかった。
――しかし、彼女はそれだけではく、違う感情も抱いていた。
「なんだかあの人……不思議。あの人は――何かを持っている」
抱いたのは〝疑問〟。
数多の人間と関わってきた彼女の勘は鋭く、常人には持ち得ない何かを強谷から感じ取っていたのだ。
強谷が持っている〝前世の記憶〟や〝魔力〟、そしてそれ以外……。それを彼女は直感的に感じ取っていた。
――〝知りたい〟。
彼女が率直に思ったことだった。
「絶対見つけ出す……。さっきの私は奥手、次はガンガン行く……!」
ふんっ、と可愛らしく鼻息を吐き、犬の尻尾が揺れるようにアホ毛を動かしている。
決意した彼女であった。
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「――へッックション!! ずずっ……風邪か? いや、状態異常耐性もあるからありえないか……」
妙な寒気が背中を走った気がするが……気のせいだろうか。
今現在、またヘッドフォンで音楽を聴きながら帰路を辿っている。
明日は記憶が戻ってから初めての学校だから、風邪を引くなんてことがあってはならない。風邪を引いても無理矢理魔法で治す。
「楽しみだなぁ……!」
明日の学校が楽しみだと切実に思った。
――だが、強谷は知らなかった。
彼女――九条静音は見た目とは裏腹に、探究心が物凄く強く、狙った獲物は逃さないということに。
さらに、その学園に人間以外もいるというこもは、この時の強谷はまだ知らない。
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