2.炸裂する閃光

 少年と少女は暫く見つめ合ったが、先ほどの閃光が炸裂し、爆風が勢い良くふたりを襲った。


 髪は土ぼこりまみれ、ぎしぎしになった。


 背後からは巨大なハサミが、右往左往うおうさおうしながら近づいている。


 それをのらりくらりとかわしながら、ふたりの乗ったマシンはびよんびよん跳ね回った。


 あまりにも縦横無尽じゅうおうむじんに跳ね回るものだから、少年は途中吐き気をもよおして、少し吐いた。


 少女はそれを確認すると、こっぴどく叱りつけた。


「おい、操縦席に吐くな!」


「ご、ごめんなさい…、お、おぇえ…」


「きみねェ…!わたしのペタホッパをゲロまみれにする気か!あなた、名前は!」


「ぼ、ぼくは段城ダンジョウ…」


 矢真十ヤマトが苗字を伝えた辺りで、彼女の名前が矢のように飛んで来た。


「わたしの名はテンムス!」


 しかしながら、彼女の話している口元はどこか別の星の言葉を話しているのか、ぼくが聞いている言葉と口の形が伴っていないような違和感があった。


 それよりも、むしろ動いていないようにも見えた。


 ぼくは段城矢真十ダンジョウヤマト


 彼女はテンムス。


 これが、ぼくらの名前だった。


 そして、このカエルかバッタか区別のつかないマシンの名前はペタホッパ。


 見た目に似合わない、可愛い名前だ。


 テンムスは、なにやら仕切りに文字盤もじばんのようなものに向かい、手のひらを滑らせている。


 よく見ると盤の上では、円形状の光をまとった何かが、宙に浮きながら回転していた。


 矢真十は、小さな未確認飛行物体かとも思ったが、手品のように、テンムスの手の動きに合わせて光の具合が調節されているようだった。


 その瞬間にペタホッパが大きく揺れて、矢真斗は思いっきりテンムスを背後から押しつぶしながら、操縦盤に手をついた。


「うげぇ!」


 ふたりとも同じような反応をとった。

 矢真十は女性の身体に触れることは初めてだったので、あまりの柔らかさに興奮を通り越して驚愕きょうがくした。


「何やってんの!早く退けなさいよ…」


 テンムスの表情は、鬱陶うっとうしそうな表情から、何か確信めいた表情へと徐々に移り変わっていった。


 先ほどまでテンムスの手元にあった光る円盤は、矢真十の手中に収まっていた。


「デザークルが共鳴している…!」


 テンムスは矢真十に押しつぶされながらも、その輝きを捉えた。


「デザークル?これのこと?」


 そんな最中、後ろから追って来ていたロブスター型のマシンのハサミから、電磁気とも稲妻とも似つかない、何やら怪しげな輝きをふたりは目の当たりにした。


「蓄電している…」


 テンムスが呟くと、その瞬間、また先ほどの閃光が、ペタホッパに乗るふたりを襲った。


「わぁぁぁぁあ!テンムス、あれはなんなの!」


 矢真十が頭を低くしながら、情けない声でテンムスへ聞いた。


「説明している暇はないわ!あれはVcl《ヴィークル》!そしてこれもね」


 テンムスが即座にデザークルの所有権を矢真十から取り戻すと、ぐわと舵を一杯に切って、天井へ跳ね飛びくっ付いた。


 どうやら、このVcl《ヴィークル》というマシンには重力という概念は存在しないようだった。


 矢真十はもう気分が悪くて、また吐き出しそうだったが、自分を掴むテンムスの真剣な表情を見ると、不謹慎ふきんしんなような気がしてなんとか持ち堪えた。


 テンムスは天地てんちが逆でも、地上と同じように脚を地面にしっかりと着けていた。


 ぼくはというと、彼女が掴んでいないと今にも地面へ落下しそうだった。


 ロブスター型Vcl《ヴィークル》のハサミから出た閃光は向こうの方で爆散し、石壁の破片が幾らか顔に当たった。


「こんの…っ!」


 テンムスはきっ、とロブスター型Vcl《ヴィークル》を睨むと、少年の腕を思いっきり引っ張り、その手にデザークルを握らせた。


 矢真十がデザークルを握った途端、ぶわと虹色の光が渦巻き、熱を帯びていった。


「あちっ、あちあちあちっ!」


 あまりの熱さに矢真十はびっくりして、そのままデザークルを遠くへ投げ飛ばしてしまった。


 それがこうそうしたのか、矢真十の放ったデザークルは、虹色のうねりを上げながら、ロブスター型Vcl《ヴィークル》をほぼ真っ二つに引き裂いてしまった。


「えっ」


 あまりに突拍子とっぴょうしもない出来事に、ふたりの口は塞がらなかった。


 ロブスター型Vcl《ヴィークル》はがががと、壊れたねじまき人形のように、ぎこちなくその機能を停止し、やがて動かなくなってしまった。


 辺りを静寂せいじゃくが支配した頃、ばがと物凄すごい音とともに、コックピットのなかから、まるで見たことのない生物が姿を表したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラビリンス&ダンジョンズ 黄鳥遊馬 @ohtori_asuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ