ラビリンス&ダンジョンズ

黄鳥遊馬

迷宮《ダンジョン》1 謎の迷宮

1. ボーイ・ミーツ・ガール

 ──この惑星ほしの奥深く。我々人類の文明を遥かに凌駕する、地底人の築き上げた超文明が存在する。


 《地底帝国カズーテラ》。そう呼ばれる迷宮世界が、我々の住む世界の裏側に延々と拡がっているのだ──


 地下を巡る大迷宮を、ひとりの少女とキャタピラを兼ね備えたロブスターのような乗りものが、必死に追いかけっこをしていた。


 追われる少女もまたカエルかバッタのようなびよんびよんと跳ねる乗りものに搭乗していた。


 少女は息を切らしながらも、この危機的な状況の打開策を冷静に模索していた。


 そんな地底での命懸けの追跡劇をよそに、地上の少年は考古学者の父の付き添いで遺跡探索を行っていた。


 ここは最近発見された和神奈わかんな遺跡。なんでも超古代文明の遺跡で、地下へ通ずる洞穴の入り口が何通りもあることが特徴的な場所だった。


 年頃の少年は好奇心に駆られ、目についた洞穴に入り、違う場所から出たりを繰り返していた。


「父さん、ここ凄いよ!いろんな入り口がホースみたいに繋がっているんだ!」


 少年は深緑色ふかみどりいろに澄んだ瞳を、より一層輝かせながら言った。


矢真十やまと、そんなことばかりしていると迷子になってしまうぞ」


 少年の父親は呆れたように、しかしながら少したのしげでもあった。


 同僚に呼ばれた父は、仕事の話を持ちかけられるとスイッチが入ったように目つきが変わった。


 暫く話し込んでしまい、ふと息子の存在を忘れてしまっていたことを思い出した。


「矢真十?」


 何度か呼んでみたが、返事はまるで返って来ない。


 元気に走り回っていた少年の姿は、どこにも見当たらなかった。


 少年の好奇心は、父親の存在をいとも簡単に凌駕した。


 未知なる探求心は時に人の判断を狂わせる。


 心配する父を他所よそに少年は遺跡の奥へ奥へと進んでいった。


 すると何やら遠くの方から、まったく聞き覚えのないモーターのような機械音が、徐々に

 その音量を上げてこちらへ近づいて来るのを感じた。


 少年は不安気になりながらも、その燃え盛り弾けるような好奇心を抑えることが出来なかった。


 ただ、音のする方へ、聴覚をしきりに歩き続けた。


 少年の目に映った音の発生源は、これまでの日常を覆すものだった。


 ロブスターのような機械と、バッタかカエルのような機械。


 びよんびよん跳ね回りながら進む機械には、遺跡内の暗がりでも薄っすら微光びこうを携えた、見たことのないような顔の少女が乗っていた。


 どう見ても、少女の乗った機械は圧倒的に不利な状況だと、素人目しろうとめでも分かった。


 奥に居るロブスター型の機械は、見るからに兵器のようなものを携え、今まさに放とうとしていたが、少女の方はただ逃げるための乗りものとしか見えなかったからだ。


 ロブスター型のハサミから、閃光のようなものが見えた瞬間、少年の身体は何かに釣り上げられたかのように、ふわりと宙を舞った。


 間一髪のところで、少女は少年を拾い上げ、機械の搭乗席の僅かなスペースに載せた。


 振り返った少女の顔を間近で見た少年は、どこか懐かしいような感じを思い出したのであった。

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