#10 告白をエピローグに代えて




「ハル君……くっついていい?」

「……なんで今日は許可を取った?」

「いや……なんかさ、自分のこと話したら恥ずかしくなって。だからこれは」

「……ん?」

「こ、怖いから一緒に寝たいとかじゃないんだからねっ!」

「じゃあ……なに?」

「……ハ、ハル君が寂しいかなーって」

「そのお言葉そのままお返し致します」



それから、三姉妹は配信をしばらく休止した。

喪に服すとかなんとか。ようやく魅音さんの仇を討ったのだから目的達成されたわけだ。




***




移りゆく季節に車輪を漕いで。



車椅子の女性は映画のスクリーンの中で、生き生きと車輪を漕いでいた。


車椅子から桜を見上げてキスをして。

海で車輪が重く漕げずにいると、彼はからかいながら波打ち際まで彼女を押した。

紅葉の季節に二人で将来を話して泣き、雪深いシーンで身を寄せ合って。




悲しい結末を行間に込めて、そして彼女は突っ伏して泣き崩れた。





俺と美羽は映画館に足を運び、それも5回も。

すべて大号泣した。



彼女の思い出は……永遠に心に刻まれた。

生きた証が……そこにあった。







その年の春。





はぁ。緊張する。



「お待たせ。ハルきゅん」

「おう。行くか」



美羽とデートごっこの日。よく晴れた小春日和。

桜の季節が好きだって言った美羽のこと……今でも思い出すよな。



来たのはもちろん……都内——じゃなくて、俺たちの地元。

どうしても来たいって美羽が望んだから。

七家六歌さんに呼び出されて、彼女のお父さんが事の発端だったことを知り、美羽は葛藤したけど決して恨まなかった。

そればかりか、誠実な七家さんに抱きついてわんわん泣いた。

で、予想通りやけ酒ので泣き上戸。俺が慰めること一週間。

吹っ切れたように、地元にまた行きたいって。




桜が一本だけ植わっている小学校。

あのとき……俺たちはここでお別れしたんだよな。

一片の花びらがヒラヒラと舞って、春の淡い光が美羽の瞳ににじんだ。

俺は……もう決めた。



「美羽……俺」

「ハル君……あたし」




ん……?




「な、なに? 美羽? どうぞ?」

「いやいや、ハル君から、ほら?」



変な空気になったな。ドラマチックに決めようなんて心に決めたけど、俺たちのキャラじゃねえよな。いつもふざけちまうし。

でも、一瞬だけでも、マジメな空気にしないと。カッコつかねえよ。



「じゃあ……美羽……聞いてくれ」

「は、はいっ!」

「俺……おれ……」

「詐欺?」

「そうそう。オレオレって電話掛かってきたら、たとえ本当の息子でも疑おうね! 一度電話を切って掛け直してみようね? 疑いの目を持とうねっ! って違ッ!!!」



ダメだ……なんでこうふざけて……って。

美羽のせいじゃないかーーーーいッ!!



「俺、泣くぞ……」

「泣いちゃえ。じゃあ、あたしから」

「……うん」

「あたしさ……ハル君のことね。ずっと……ずっと」

「あーーーーたんまたんま。やっぱ俺から」



くっ……このままだと日が暮れる。



あ。桜が美羽の髪に……。

近づき、その髪に触れる。



「え? ハル君?」

「頭に桜の花びらが」



見上げた美羽の瞳に映る桜が……すげえキレイだった。

キラキラして。



「キレイだな」

「え?」

「美羽……キレイだ」

「……ばか。ばかのばかのばかのすけ



なんでののしられた? 

キレイってNGワードじゃねえだろ。っていうか、俺は美羽の瞳の中をキレイって……ああ、違うな。



「好きだ」

「……やっぱりバカ」

「俺……美羽のこと好きだわ」

「だから……ば、か…‥なの」

「……バカだよ俺は」

「あたじがら……気持ち伝えるはずだったのに」

「ごめん。でも、覚悟決めてきたから、俺から言わせてほしかった」

「あだじの覚悟はどうなっちゃうのよ、バカ」

「ごめん」

「ごめんじゃだめなの」

「わかった。ごめん」

「あたしもずっと……ずっと好きだったの。ここでお別れする前からずっと。なのに、ハル君は全然気づいてくれなくて」

「え? ってあのときから?? 気づかなかった。ごめん」



って、うああああああああ。



力いっぱいに抱きつくなって。マジで転んで怪我するからな。

ったく。



で、桜の木の下で少しだけ思い出話をして。日曜日なのになぜかチャイムが鳴って。

あの頃のように、咲かせた話を切るのが勿体なくて。

なんだかポカポカして眠くなって、それを見抜いた美羽が俺の頭を……膝に乗せて。



膝枕してもらって、見上げたら笑った美羽が優しい表情になって、俺の髪を撫でた。




優しい風が吹いた。





桜の花びらが舞って、「ハルは気持ちいいね」って彼女はまた笑った。







——2年後。




「ヴェロ姉寂しくなりますよぉぉぉぉ」

「そうだな。ヴェロニカ、いつでも帰ってこい」

「リオン姉ッ!! 帰ってこさせちゃだめですって」

「……そうか?」

「出戻りなんて縁起でもない」

「今どき、離婚の一つもあるだろう?」

「あはは。そうならないようにがんばる。ね? ハルきゅん♡」



い、いや。俺の前で話す内容かよ。

新婚初日で離婚の話をする姉妹って縁起でもねえな。

それに引っ越しって、お、お前。なんだこの荷物。

頭おかしいだろ。

服……何着持ってるんだよ。



「隣の隣の部屋……に引っ越しだから慌てなくてもいいのではないでしょうか?」

「イヤ。あたしは愛の巣に引きこもるから、全部今日中に持っていくの」

「……って、なんだその意地」

「結婚初日から引っ越しとか、ちょっとイヤなんだが」

「普通……前もってするんじゃないでしょうか」

「……ハル殿、どちらが早く運べるか勝負ッ!!」

「えぇ……リオン姉……それかったるいって」



という具合で、新居は元ヴェロニカ邸の隣の隣の部屋。

空いていたことにびっくりだけど、あまり今までの生活と変わらないような。



それでも、美羽は毎日楽しそうに過ごしている。



美羽は変わらずキャラメル・ヴェロニカとして活躍しているし、シナモンちゃんもリオン姉も今まで通りだ。

ただし、キャンディ・ストラテジーチャンネルは閉じないけれど配信もしないと宣言した。

今の所必要がなくなったからだ。また、誰かを泣かせるような許せないヤツが現れたら復活するとも言い放って。



ああ、そうそう唯一変わったことと言えば。



「ハル君、味見してーーっ!!」

「ああ、うん。どれ」




————ッ!!




「な、なんだこの味」

「……ちょっとぉ。どうなの? 美味しいの? 美味しくないの?」

「クソだ」

「え……ひどいっ」

「嘘。クソ美味いッ!!」

「ホントっ!?」

「ああ、すげえ美味い八宝菜だ」



料理が上達した(但し八宝菜に限る)。



夜は……当然一緒に寝ている。

意外にも美羽と一つになったのは……結婚前夜。

付き合っている当時は……なぜかしなかった——できなかった。

なぜと言われても困るんだけど。

しいて言うなら。


大切にしたいって思う気持ちと……ほら、俺が失いたくないって気持ちが一緒くたになって。克服するのに時間がかかったというか。

要するに、俺の呪いが結婚という節目でようやく解き放たれたというべきか。



そういえば……美羽の両親の話。

実はまだ見つかっていない。

けれど、家族はここにいるからって。

今度は強がりなんかじゃなくて柔和な表情をしてそう言うから信じられるっていうか。



魅音さんの命日にはパーティーを開いているんだ。

七家六歌さんや榊さん、関係者をみんな招待して盛大に行っている。



魅音さんはお菓子が好きだったらしい。もとい、お菓子をあげる行為が好きだったとか。



美羽にはキャラメルを。

紫音にはシナモンクッキーを。

凜音にはチョコレートを。



それぞれの好物を。



女子会っぽくて苦手だな。

俺は隅っこで榊さんと親睦を深めることに。




そうやって、魅音さんに笑顔を届けるんだって。




「美羽……おいで」

「ハル君……大好き」







了?






————————————

♪Now on air.

Channel by 「Party Riot」Extra edition♪



ヴェロニカ「チャプター1はここまでっ!!」

シナモン「はぁ。悲しいです。魅音姉ともう会えないなんて」

リオン「姉さんは心の中で生きているじゃないか。シナモン、そう悲観的になるな」

シナモン「そうですけど」

ヴェロニカ「ちゃっかり『了』なんて書いちゃっているけど、残念ながら続くからね?」

シナモン&リオン「「は?」」

ヴェロニカ「終わるつもりだったんだけど、萌々香のすっとこどっこいがゾンビのように生きているからって」

シナモン「そ、そんなの聞いていないですって」

リオン「あいつ、しぶといからな」

ヴェロニカ「リセマラのごとく、気持ちが何回もリセットされて蘇るんだよね」

シナモン「わたし……あの人苦手です」

リオン「あいつの担当はヴェロニカに任せる」

ヴェロニカ「ということで、チャプター2開幕する前にご挨拶ッ!!」



ヴェロニカ&シナモン&リオン

「「「ここまでお付き合いいただいた皆様!! 本当にありがとうございましたっ!!」」」



ヴェロニカ「☆やレビュー、♡を遠慮なくつけたまえ」

シナモン「いちいち癪に障りますね。クレクレで刺されますよ? そんなことよりも告知とお知らせをっ!!」

リオン「学習しないな」

ヴェロニカ「ああ、そうだった。チャプター2は不定期更新になります。毎日のように更新はできませんが、それでもあたし達と遊びたいって人〜〜〜手―――」

シナモン「……」

ヴェロニカ「上げろぉぉぉ!! ちなみに、チャプター2はあたしとハルきゅんが付き合ってから結婚するまでに起こった事件の数々のエピソードだにゃん」

リオン「にゃん?」

シナモン「キャンディが抜けきらないんですよね。きっと」

ヴェロニカ「こほん。付き合ってからも、ハルきゅんってそんなに変わらなかったからなぁ」

シナモン「遠い目してる……。ヴェロ姉は贅沢なんですよっ!! もうプンプン丸ですからねッ!!」

ヴェロニカ「ああ、尺がやばい。ってことで、チャプター2もよろしく〜〜〜っ!!」




ハル輔「こうして了は撤回された……」




って、まだ続くのかぁぁぁぁ。

誰が責任取るんだよ……。




俺か……はぁ。





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NTR傷心中の俺とVtuberユニット「P・ライオット」の復讐譚 月平遥灯 @Tsukihira_Haruhi

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