#21 三姉妹決起 * 萌々香は天使を許さない
魅音さんと同じくらいの年齢かな。ショートカットの髪がよく似合うボーイッシュな感じの人だな。スラッとしていて、落ち着いていて……ミステリアスな雰囲気を纏っていると言えば分かりやすいかも。
「それで……この人数で貸し切りにするには理由があるんだろう?」
「ええ。そろそろ来ると思うんですけど」
お、キタキタ。夢実ちゃ〜〜〜ん。タイミング良すぎ。今、夢実ちゃんの話をしていたんだって……え。顔が死んでる。真っ青で、下唇を噛みながら泣きそうな顔していて……。
な、なにがあったんだろう。
「夢実ちゃん? どうした?」
「わ、私……もう声優辞めます……これ以上無理です」
「え……? ヴェロニカ?」
って、
夢実ちゃんは……やっぱり、そうだよな。あのスキャンダルがかなり効いているよな。
「私……もうこんな心で誰かを演じるなんて……到底無理です。なので、仕返しとかそういうのはいいですから……」
「……いいの? あんな奴らに屈して逃げて、デジタルタトゥーまでネットを永遠に
「いいんです……勝ち目なんてないじゃないですか。私……もう、とことん落とされて汚されて……。身も心もボロボロになって……悔しいけど、これ以上傷つきたくないんです」
「夢実殿……このまま身を隠しても傷は癒えるどころか広がっていくぞ? 残念ながら、有名人すぎるほど有名人である夢実殿は、半永久的にスキャンダルは付きまとうだろうな」
「ちょ、ちょっと、リオン姉……そんなこと言ったら……。わ、わたしはそれでもいいと思いますよ? だって、みんながみんなヴェロ姉やリオン姉みたいに強いわけじゃないですからっ」
「待て。俺は……別にスキャンダル気にしていないぞ? むしろ、人間なら恋愛するのって普通のことだろ? みんなしてるだろ? それがなんで夢実ちゃんだけ
絶対におかしい。恋愛をしちゃいけない職業なんて、人の世の理に反しているだろ?
「……ハル君。そうだよね! ハル君の言う通りだと思う」
「ハルさん、良いこといいますね!!」
「さすが……説得力あるな。ハル殿」
けど、夢実ちゃんの顔は浮かないなぁ……声が心に届いていないって感じ。
「そうです。でも、私たち声優は、とくにアイドル声優という立場の私達は、ファンの皆さんと……その、暗黙の了解のもと活動しているんです。恋人はファンのみんなだって」
「……そのファンたちは自由に恋愛してるけどな」
ダメだな。聞く耳を持たないって感じ。もう顔もいっぱいっぱいだし、第一、心を塞いじまって何を言っても、俺たちが強引に説得しているという風にしか捉えていないよな。この感じだと。
「お前ら。つまり、その久米夢実さんの仕返しをしたいってわけだな」
「……ええ」
「やめとけ。やっても同じ穴のムジナになるだけだ。この世界にいるとな……そういう事案はかなり多いんだ。裏社会に通じているからな。
うぅ……七家さんが言うと説得力5倍増しってところ。
って、裏社会って言ったか?
や、やっぱりそっち系の人だよな……この人。
「ねえ、せめて教えて。あなたを
「……ひッ!? ご、ごめんなさい、私……帰りますッ!!」
あ〜〜あ。出て行っちゃった。俺的にはもう少し話したかったな。
夢実ちゃんの語る夢とか、なんで声優になりたかったのか、とか。
……どんな声優を目指していくのか、とか。
残念だな。
「決まりね。鬼島を討伐するっ!!」
「……お前な。七家さんの話聞いていなかったのか?」
「聞いていたよ。仕返しは怖い。そんなこと賢くないって話でしょ?」
「聞いていたんなら、止めておけよ」
「六歌姉さんは助言しただけだよね? だって、六歌姉さんの口癖は……」
——することなすこと賢くなくても情を通すのが人間ってモンだろッ!!
「お前らな……そんな私のJK時代の話を持ち出すなよ……。ああ、そうだ。そのとおりだ。思う存分ヤレ。もしヤバくなったらお前らの背中くらい守ってやる。私の人脈舐めんなよ。分かった。鬼島の店の情報を渡す。ただし——」
「分かっていますって。情報源は話さないよ。さすが六歌姉さん。じゃあ、やっちゃうからね?」
「ほどほどにな……。だが、言っとくが……」
「人の情にハズれたことをしたらただじゃおかない、ですよね? 六歌姉さん」
「そうだ。私はな、
「「はっ!?」」
「昔から無茶ばかりするからな。ほら、オゴリだ。飲め。美酒は勝つため、決起するための動力源だッ!! 飲まないヤツは私がしばき倒すッ!!!」
ええええ。い、いや。アルハラ——アルコール・ハラスメントだからねッ!?
こ、このノリは絶対にヤバイやつだって!!
「六歌姉様、いつもかたじけない」
「
「「「かんぱーーーーーーいッ」」」
ってな具合で、二名酔いつぶれ。
誰って……ヴェロニカとリオン姉だよ……。
これ、大丈夫なのか……俺、すげえ心配になってきたぞ。
*
「あんた……ヒロイン役なんてとっとと降りたら?」
「……え?」
久米夢実……マジ天使という冗談のような二つ名で呼ばれているけど……はぁ!?
天使という名を冠していいのはあたしだけだからね?
それを、このアホ女が勝手に使いやがって。
どうせ自分から『わたし天使なんですぅ〜〜』とかって売り込んだんでしょ。
パねえよ。パねえわ。その営業力だけは認める。
「あたしがやりたかった役を
「……い、意味が分かりません……だ、だってオーディションで」
「へぇ。つまり、あたしはあんたより実力がないってわけ?」
「そ、そんなつもりは……」
泣きそうな面しやがって。こいつ、海原に嵌められても声優続けて、強引に移籍させたのに。それでも続けるなんて相当な鈍感ね。ふてぶてしい奴ってあたしキライなの。
「あんた、グズンドラに移籍したからには、先輩の顔は立てなさいよ……いい? 分かったのかしら?」
「は、は、はい……ごめんなさい……」
「ごめんじゃ済まないのが業界。さて、次はどうしようか? 海原と寝たのも撮ってあるって知ってた?」
「——ひっ!? お、お願い……です……もうこれ以上……や、やめ、やめてくだ……さい」
「あんたが声優続けている限り続くわよ。ああ、もしチクったら、即刻動画ばら撒いてやるからね?」
泣き顔もブサイクね。さて、イベントも無事終わったし、ハル君に電話でもして誘ってみようかな♪
『ツゥーツゥー……』
話し中!?
またあの泥棒猫なのッ!?
今日も何食わぬ顔でイベントに参加して。図々しい奴。
許す隆介も隆介よ。
問い詰めなくちゃ。
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